俺が四番であいつが二番で

ゆうけん

二番打者と四番打者



「乾杯ッ!」


 居酒屋の団体客用の個室は四十路の男女で賑わっていた。

 早生まれ遅生まれあるかも知れないが、同学年、同級生が集まった同窓会。


 昔話に花を咲かせ、アルコールを摂取する。


 俺は中学野球部で四番を張っていた。体格もでかく態度もでかい。ガキ大将みたいに見えたと思う。それに対し、俺の親友は同じ野球部の二番打者。ひょろっとしている体つきに、いつも困った笑顔を浮かべてるような奴。器用で俊足。空気が読める。まさに理想的な二番打者。


 中学生、最後の大会。

 一戦でも負けたら引退という大会で、俺と親友は監督にある作戦を持ちかけた。


 パワーヒッターの俺を二番打者に。そして親友を四番打者にして欲しいと監督に直訴したんだ。


 地区でも俺の長打力は知られていた。当たればホームラン、もしくは二塁打の大砲。次の対戦相手が絶対に対策をしてくるのは想像できた。


 それに引き換え、親友は二番打者で今大会の打席は三試合すべてバント。俊足で三塁線ギリギリのバント技術で出塁率四割。安定しているので監督もバント指示しか出さなかった。


 だが、ここで俺が二番打者になった時を想像してほしい。


 相手ピッチャーのプレッシャー。それは相当なものだ。

 一番打者が進塁していたら尚更。もし塁に誰もいなくても一発当たったら得点に絡む可能性が高い。そしてバッティングデータのまったく無い、今まで二番打者であった親友の四番打者。長打は期待できないが器用に左右へと打ち分けるし、今まで通りバントしてくるかも知れない。そう相手チームに思わせることで、守備位置にも混乱を招くことができる。


 俺と親友で考えた作戦。


「いやー。あんときは監督を説得するの大変だったな」

「うん。最初は全然話聞いてくれなかった」

 親友は懐かしそうに遠くを見つめる。


 その試合は勝った。作戦通りの展開で圧勝だった。だが次の試合でボロ負け。相手ピッチャーが強すぎた。そのピッチャーは数年後プロになっていたので納得だ。


「良い作戦だと思ったんだけどなぁ~」

 俺はビールをあおるように飲み干した。


「はは。……そうだ。セイバーメトリクス知ってる?」

 親友はいつもの気さくな笑顔で言った。


「いや、聞いたことねぇ」

「コンピューターで野球を分析するみたいなやつ」

「へぇ~それで?」

「二番打者に打力がある選手を置く方が得点に繋がる説」


 珍しく自慢げに話す姿を見ると、俺達の作戦が間違ってなかったように思えてきた。


 そもそも野球はアメリカから輸入したスポーツ。アメリカサイズのパワーが根底にあったので、日本人は二番打者を「繋ぎ」の役割として作った。

 バントの名手は状況に応じて必要だが、二番打者に長打力がある選手を採用する動きは日本野球界でも注目されつつある。勿論、それが必ずしも機能するとは限らないが、従来から考えられていた二番打者の役割が変わるかもしれない。





「お前。本当に野球好きだな! 俺なんて最近プロ野球もろくに見てないぜ」

「高校で野球続けた奴って誰かいたっけ?」


「そういや、誰もいねーかも」

「実力差を見せつけられたからね」




 口の中にビールを含み俺は想いを廻らす。


 実はスポーツ推薦で名門校から声が掛かった。だが断ったのだ。


 俺がしたかった野球は、あの時のメンバーでやる野球だ。



 中学時代の俺は馬鹿力でそれしか能がなかった。

 親友のあいつは、そんな俺を上手く起用してくれた。それを信じてその作戦に乗ってくれたチームメイト。その仲間達との野球をしたかったからだ。



 ジョッキが空になるのを待たずに親友が店員に声をかける。


 さすが二番打者、気が利くじゃねぇか。

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