後ろから数えて
東雲 彼方
頭ひとつ分
これは私が小さい頃のお話。多分幼稚園~小学校くらいまでの。多分、と付けたのは記憶が曖昧だから。その辺りは許して欲しい。
※便宜上、美月という仮名を使わせていただく。
***
「背の順に並んで」
私はこの言葉が大嫌いだった。どうしても好きになれなくて。無くなればいいと思ってた。まだ出席番号順の方が良かったかもしれない。いや、嫌いな奴が近くにいるときは喧嘩ばっかりだったからそれも良いとは言い難いけれど。でもまだ番号順の方がマシだった。
なんでって、いつも後ろから二番目くらいだったから。一番後ろならまだしも後ろから二番目ってなんか中途半端だし。
記憶にある限りだと幼稚園の年長の時からずっと二番目。
仲の良かった子は皆小さかった。だから背の順に並んだ後とか、
「美月ちゃんって大きいからいいよねー、前の方とか飽きたもん」
いや、後ろだって飽きるし。言わなかったけど。
そして私の一つ後ろ――つまり一番大きな子には、
「一番後ろ嫌なんだよね、変わってくれない?」
大差ないじゃん。っていうか変わってたら先生に怒られるよ? 後者だけ言ったけど。
でもって真ん中くらいに居たクラスのボス的な女には喧嘩売られた気がする。
「何で鈍間なあんたの方があたしより大きいわけ? 変わりなさいよ」
コイツに至っては言い返せば面倒になるということを理解していたから、何も言わずに適当に流した気がする。あんまり覚えてないや。
こんな感じで幼稚園の最後の年を過ごしたのをなんとなく覚えている。
小学生になったらちょっとは変わると思ってた私は浅はかだった。むしろ前よりなんやかんや言われることが多くなった。親友は自己中で口の悪いやつだったからしょっちゅう泣かされてた。
「美月だけデカいからあっちで遊んでてー」
的な。普通にこれイジメじゃないの? って思うかもしれない。でもこれがまだイジメ認定されないくらいもっと酷かったのが私の小学校。あそこはイジメの温床だった。
そういえば小学校中~高学年くらいだったか。某巨人を駆逐するマンガが流行った時には
「駆逐してやるッ!」
と、
「出たな、超大型巨人め!!」
の二つを何度言われたか分からない。ついでにうなじのとこにハサミを当てられて危うく血塗れになるところだった――なんて事件もある。先生にはバレなかったから私も何も言われなかったけど。
そして小学校高学年になって段々と男子が大きくなってきてからも後ろから二番目なのは変わらなかった。私の通ってたとこは男女仲がありえないくらい悪かったからもう悲惨だよね。会話なんてしないし、しても罵り合い。ああ、思い出すだけで嫌になる。まぁ何人か言い返して泣かせたこともあったけれども。
ところで、後ろから二番目の景色って知ってる?
すっごい虚しいんだ。
周りより頭ひとつ分くらい飛び出してたから前はハッキリと見えるさ。段々と前の方になるにつれて小さくなるのが分かる。時々ガクッと段差ができたりしているけれども。前で並ばせてる先生と目が合ったり。何故かそれだけで怒られたり。解せぬ。
そして後ろを見れば、「一番」と背景だけ。後ろを向いたときの劣等感は半端ない。否応なしに自分が「二番目」であることを自覚させられるから。別に背の順で一番になりたいわけじゃなかったけど、小さい頃って結構そういう些細なことが大きなことだったり、小さなコミュニティが自分にとっての世界だったりする。そんな中で「二番目」というのはネガティブ過ぎる私の劣等感だとかそういう感情を煽るのだった。
***
身長なんて自分じゃどうしようも無いのに、罵られる、殴られる、刃物を突きつけられる(荒れてるとこじゃないと無いだろうけど、小学校は割と荒れてた)、仲間はずれにされる……。引っ込み思案になったり人見知り悪化したり超が付くほどのネガティブになったりしたのはこの頃が原因だと思う。本当にトラウマ。
これを書いたからって変わるワケじゃない。身長に限らず容姿がどうとかでイジメが起きるのはもう当たり前みたいなもんでしょう?
私ひとりの過去の吐露で何かが劇的に変わるわけじゃないよ。そんなの分かってる。
じゃあ何で書いたのって? トラウマから脱したかったから。そんな小さい頃に言われた言葉ひとつに囚われていつまでもウジウジしてる訳にはいかないでしょう?
正直身長にはデメリットばっかり感じる。けど助かったところが無いわけではない。だったらそんなに抱え込む必要はないんじゃない? って。
ただ、二番目っていう劣等感が消えることは無いだろう。いつでも二番目、一番にはなれない。たかが身長ひとつ。けれどそのせいで他の全ての物事も「一番」は無理と思ってしまうようになった。
無理と決めつけて努力しなくなった。
それじゃ駄目なこともある。これからは就職とかが待ってるでしょう? 学科で一番目指さなきゃ、いや、目指しても希望の職種につける保証なんてないんだ。なら少しでも有利になるように専門的な知識だとか身に付けるしかないよね。どうせなら一番目指してやった方が頑張れるんじゃない? 今の私はそう思う。
二番に甘えない。その覚悟を書きたかった。
二番目で、周りの友達より頭ひとつ分大きかった小さい頃の私と決別する為のもの。
そしてこれからの為の決意表明と道標。その為に置いておこう。
これが今の私のノンフィクション。
後ろから数えて 東雲 彼方 @Kanata-S317
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