二番目は努力か呪いか

@grow

二番目という名は

 おぎゃーっ。おぎゃーっ。


 今日もまた教会で赤子が誕生した。

 この世界の出産では手術は必要ない。母親の胎内で赤子が元気よく成長していれば、10月10日経った日に教会を訪れることで赤子が産まれる。


 赤子が生まれた瞬間。天から言葉が聞こえてきて、それが赤子の名前となる。

 列車、調理、盗(とう)、正義、政治家、金銭、親切・・・


 名前に関連する職業に就けば必ず成功する世界。

 例えば、「料理」は食材を見れば瞬時に目利きが出来、どのように切れば綺麗に美味しく作れるのかが分かるのだ。


 天からの言葉により、「二番目」と名付けられた赤子がこの世界に誕生した。


「二番目」の上には「野菜」という3つ上の姉がいる。幼いながらも姉が育てる野菜は高級品として販売されている。姉の指示で育てる野菜でさえ虫が食わず、変色せず、美味しい良品になる。


 そんな姉の下で育った「二番目」。

 家の中で野菜が作られていれば、手伝うのは普通だろう。家族と一緒に何かをする。特におかしいことではない。姉ほどではないけれど、上手に作れば姉も両親も弟を褒める。笑顔の絶えない幸せな家庭だ。


 小さい頃から手伝っていれば、やり方は体が覚えていく。姉よりも高品質の野菜が作れなくても、良品が作れるのはおかしくはない。

 けれど、良品が「必ず」作れるのは普通ではないだろう。


 姉が作る野菜はすごく美味しい。名前が「野菜」だから当然だ。

 けれど、姉が指示を出していなく、家族で作っているからというだけで、野菜を育てている弟の野菜が全て良品なのはどうだろうか。

 そう。この家で二番目に野菜が上手に作れるのが弟なのだ。


 姉は弟が怖くなった。

 自分よりも良い野菜が作れなくても、美味しくて売れる野菜が必ず作れる事で、将来自分を脅かす存在になってしまうのではないか?


「他のことも試してみてはどう?色々な事を行うのはとても良い。野菜作りよりも弟にぴったりの仕事が見つかるかもしれない」


 子供ながらも怖くなった姉は、小学生になった弟に野菜作りを辞めてもらった。


 それから「二番目」は年数を重ねるごとに色々な事に手を出し続けた。


 友人とロボットを作れば友人より劣るものの便利なロボットが作れる。

 先生が体調不良で欠席の時は代わりに授業すれば、自習よりも勉強になる授業が始まる。

 運動会なら、

 定期テストなら、

 合唱コンクールなら、


「二番目」はどのような事でも好成績を出すが、どんな事でも一位にはなれない。


 でも、努力をしていないわけではない。

 姉の様に、見ただけで野菜の育成方法が分かるわけではない。

 友人の様に、高性能のロボットが1日で作れるわけではない。

 ただ、一緒に行動して見て、やって、覚えているだけなのだ。


 けれど、「二番目」の周りにいる人達は、自分のすぐ下のランクの成績を出せる「二番目」を怖がり遠ざける。


 中学は家の近くを選んだので、二番目としての能力が噂として知れ渡っており、たわいの無い話はするけど、一緒に行動してくれる友人はいなかった。


 遠くの高校に入学し、人数が足りないからと水泳の大会に出ることになった。しかも、メドレーリレーのアンカーを頼まれる。

 競技が始まると他の学校の方が実力が上なのか、順位は後ろから数えた方が早かった。

 そのままの順位で「二番目」の番になり泳ぎ切った。

 呼吸を整えて電子掲示板を見ると、「二番目」の学校名が一位と数秒差の所。つまり、二位という事を表していた。


 前にはたくさんの生徒が泳いでいたはず。どうして?と疑問符を頭に浮かべながらチームメイトの方に向かうと、全員が逃げる様に去っていってしまい、一人ぼっちになった。


 そんな「二番目」の傍に一人の男が歩いてきて、こう言った。


「君が泳ぎ始めたとたん、前を泳いでいた生徒は皆肉離れを起こして棄権したんだよ。で、君の後ろから泳いでいた生徒が君を抜かして一位になったってわけ」


 その男性の言葉が信じられず周りを見渡すとチームメイト同様の表情を浮かべていた。


 恐怖という表情を。


 これが二番目という名の力。

「二番目」が努力して二番目になるだけなら、一緒に「何か」をしなければ良い。

 けれど、「二番目」の努力ではなく「二番目」が二番目になる様に周囲が落ちていく場合はどうなるだろうか。


 姉からも友人からも怖がられ遠ざけられ、仲の良い友人なんてできず現在に至る。


「二番目」は憤った。俺が何をしたというんだ。今回だって出てくれと頼まれたから出ただけだ。力になれる様に頼まれてから大会まで練習していたんだ。チームメイトの力がもっと高かったらいつも通りの二番目になれただけだったのに。


「なあ、にいちゃん。俺と組まないか?俺は名前柄、色んな奴の相方をしてきた。でも、数日経つと必要ないって捨てられるんだ。簡単にテレビに出れたのは誰のお陰かっての!」


 近づいてきた男、バーターから名刺をもらった。


「にいちゃんは誰かと一緒に何かがしたいのに、自分の名前の所為で一緒にいられない。でも、俺は名前の通りに一人じゃ何も出来ないんだよ。そんな俺とならずっと一緒にいられると思わないか?」


 幼い時に姉からは野菜づくりを辞めさせられ、小学校、中学校、高校と一緒にいるだけでクラスメイトや先生から怖がられる学生時代。

 二番目の身体と精神は知らないうちに疲弊していたのだろう。


 自分から人と接触する事を諦めた二番目はバーターと仕事をする事を決めた。

 高校は中退し、実家には手紙を送り、しばらく帰らない事を伝えた。


「ありがとうな。じゃあこれからの生活に必要な物を買いに行くか。この建物から出てすぐの所にホームセンターがあるから先に行って見繕ってきな。俺もすぐ向かうから」


 二番目はバーターの言う通りホームセンターに向かうために着替えに戻った。

 その背中を見ながら、バーターは誰にも聞こえない声で呟いた。


「それにしても、二番目、か。「上から二番目」ではなく「下から二番目」という力だと思い込んでいれば、あんなボロボロにはならなかったのかもしれないな」


 ま、もう遅いけれど。と心の中で思う。


「あーあ。それにしても、周りにいた奴らはアホなのかね?あいつと一緒に行動すれば金や話題に困らないって気づかないものかね?」


 最高品質の一歩手前の商品が作成できる。

 どんな競技でも決勝戦まで行ける。

 どんな資格でも、最高得点と数点差になる。


「いやーありがたいありがたい。二番目の周りにいた皆様。二番目の価値に気づかないでいてくれてありがとうね」



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 その後、バーターの力でテレビに出る事になった「二番目」は、多数の遊戯で準優勝し名を広めた。数多の番組で高視聴率を出しさらに名を広めた。それらの集大成により、遂にはバラエティ番組からの派生でオリンピックに出れることになり、どんな競技でも銀メダルを獲得していく人物として取り上げられていく様になった。

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