吾輩は「2」である
水谷一志
第1話 吾輩は「2」である
一
吾輩は「2」である。…文字通り数字の「2」だ。
そしてそんな吾輩、いや私にはある大きな悩みが存在する。
それについて述べる前に、みなさんは「素数」というものを知っているだろうか?
「素数とは、1と自分自身以外に正の約数を持たない自然数で、1でない数のことである。」
…と辞書には書いてあるがまあそんなことはどうでもいい。
そしてそんな私の悩みとは、「私は素数の中で仲間外れにされている。」というものだ。
とりあえず素数を順番に見てみよう。
「2、3、5、7、11、13、17、19、23…。」
みなさんはお気づきだろうか?
そう、私、「2」以外の素数はみんな「奇数」なのだ。
「そんなことどうでもいいじゃん。」
これを読んでいる読者の方はそう思うかもしれない。しかし、考えてみて欲しい。もし自分が所属している仲良しグループで、とある理由で自分だけ仲間外れになってしまったとしたら。
実際私は素数のミーティング(「そんなものあるのかよ!」と思うかもしれないが。)でそんな「仲間外れ」を経験している。もちろん「3」や「5」など他の素数たちは私に優しくしてくれるが、やはりそれらは奇数だ。私を除く素数たちは、よく「奇数あるある」などの話をし、もちろん私はそれに共感できない。
そう、その時に感じるのは、言いようもない疎外感。もちろん素数間にいじめは存在しないが、他の奇数の素数たちの優しさも、私には「同情」のように感じてしまう。
そう、私は「素数」というグループの中で「イレギュラー」な存在なのだ。
『自分も奇数になりたい。そしてイレギュラーな存在から解放されて、『レギュラー』になりたい…!』
私は何度そう思ったことか。
そんなある日、私はある友人から相談を受ける。
その友人とは、同じ偶数仲間の「4」である。
二
「『2』さん、俺、『2』さんが少しうらやましいんです!」
「4」は私に敬語で話しかけてくる。
「…それはどうしてかな?」
「『2』さん、俺は唯一無二の存在になりたいんです!例えば『2』さんみたいに『素数の中で唯一の偶数』みたいな…。」
「そうか…。」
それを聞いた時、私は心底嬉しかった。
私は今まで、自分のイレギュラーな状況を嘆き、ただ「レギュラーになりたい。」とばかり思ってきた。しかし「4」はそんな私の今の状態を認め、うらやましいとまで言ってくれる…。これほど嬉しいことは他にあるだろうか。
そして私は同時に、「4」の切実な願いを叶えてあげたくなった。そう「4」は私と違い「唯一無二」の存在になりたいのだ。察するにそれは、誰もがその存在を認める「スター」に近いものなのかもしれない。
私はそんな「4」の願いを叶えるための方法を一生懸命考えた。そしてあるアイデアが、私の元に舞い降りる。
そう、それは…、
私、「2」が死ぬことだ。
私は自分の数字、自分のアイデンティティを捨てて死を選ぶ。そうすれば「4」は素数になり、なおかつ「偶数」であるという唯一無二の存在になれる。そう、私が死ぬことは「4」がスターになるためのお膳立てになるのだ。
もちろん私だって死ぬのは恐い。それは漠然とした恐怖でもあるし、また自らのキャリア、積み上げてきた「数字」というアイデンティティなどを捨てる行為でもある。そう、それには勇気を伴う。
…でも私は死を選ぶ。それは大好きな「4」のため。…さらに言えば、それは「数字全体」のため…、と言ったら大げさか。
『そう、悲しくなんかない。私は死んでも、私の魂は君とともにいるから…。』
そして私はその数日後、自ら死んだ。
三
「2番打者の○○選手、今日も素晴らしい『送りバント』を決めました!これで1アウト2塁になります。」
「いや~彼の犠打はいつ見ても素晴らしいですね!確実に『1死2塁』の状況を作ってきます。」
「ただ彼は、2軍時代はパワーヒッターだったそうですね。」
「ええ。ただその2軍時代に彼は何か気づいたのでしょう。本塁打数という自分の『数字』、さらに言えば自分の『アイデンティティ』を捨てることによって、彼は1軍の『レギュラー』を完全に自分のものにしましたね。」
【私が『死んで』、1死2塁。
さあ後は託したぞ、クリーンナップよ。
そして、今や誰もが認める『スター』、『4番』、△△君よ。】 (終)
吾輩は「2」である 水谷一志 @baker_km
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