お父さんの順位
タカテン
お父さんの順位
「ごめんな、姫子。父さん、やっぱり一番好きなのは母さんなんだ。姫子は二番目に好きだよ」
あれは幼稚園の頃だったかな。
まだまだ無邪気だった私の問いかけにそう答えられて、とてもショックだったのを覚えている。
だって私はお父さんが一番大好きだったから。
だからお父さんも私のことが一番好きでいてほしかった。
「二番目なんてヤダ! 一番がいい! お母さんなんて私を産んで死んじゃったじゃん!」
そんな駄々をこねて大泣きした私。
困り顔のお父さんが「いつか姫子も分かる日が来るよ」って言いながら、泣きじゃくる私の頭を優しく何度も撫でてくれた。
あれからどれだけの月日が経ったのだろう。
幼い頃は大好きな人ランキング堂々の第一位を何週もキープしていたお父さんだけど、私が少しずつ成長し、好きな友達が出来て、好きな芸能人が出来て……そして大好きな人が出来て、その順位は次第に下がっていった。
一番のどん底は私が中学に入って間もない頃。
もうこれからは自分でやるからやめてって言ってたのに、間違ってお父さんが自分の服と私の服を一緒に洗っちゃったんだ。
今から思えばどうしてそんなことであんなに腹を立てたんだろうって不思議なぐらい、怒りまくったなぁ。
多分あの時のお父さんの順位はゴキブリ並みの圏外だったと思う。我ながら酷い話だ。
さすがにゴキブリ並みは下がりすぎだけど、それからもお父さんの順位は低調なままだった。
思春期を迎えた私にとって、何かとコミュニケーションを取ろうとするお父さんはちょっとウザかったんだ。
昔から私につきっきりだったお父さん。
毎日六時には家に帰ってきて晩御飯を作ってくれるばかりか、子供の頃はやれ運動会だ、演劇の発表会だ、授業参観だと必ず参加してくれた。
そりゃあ小学生の頃は嬉しかったよ。でもね、高校の文化祭までわざわざ見に来る必要ある? 平日の昼間だよ? そりゃあ万年平社員のはずだよね。
友達の中にはお父さんが社長とか、有名一流企業のお偉いさんだったりする子がいた。
比べられるのが恥ずかしくて、あの頃の私はお父さんを敬遠していた。
そんなお父さんの順位が回復してきたのは、私が社会人になって一人暮らしを始めたここ数年のことだ。
改めて仕事と家事をこなし、さらには私の面倒まで嫌がる顔ひとつせず見てくれていたお父さんの偉大さを思い知らされた。
私なんてお茶くみと資料作りぐらいしかやらせてもらえないOLなのに、子供なんていないのに、それなのに毎日生きていくだけで大変だよ、お父さん。
お父さんの順位、ぐぐっとアップ!
「あ、美味い! なんていうのかな、すごくほっとする味だ。俺、これ凄く好き!」
生まれて初めて出来た彼氏に、作った手料理を褒めてもらえた。
よかった。これもお父さんに子供の頃から料理を教えてもらっていたおかげだ。
うちの味付けって変じゃないかなって思ってたけど、気に入ってもらえてすごく嬉しい。
お父さんの順位、花丸急上昇!!
「実を言うとね、私はなんども博司に再婚を勧めたのよ。お坊ちゃん育ちの博司に男の手ひとつで娘を育てるのは大変だし、とても出来ないと思っていたから……」
昨夜、田舎から出てきたおばあちゃんが話してくれた
お父さんは家事をそれまでほとんどやったことがない人だったらしい。
それが私の為に料理を覚え、洗濯や掃除をし、幼稚園のお遊戯会で着る衣裳を縫い、その他にも女の子を育てるためのあれやこれやを頑張って身に付けてくれた。お父さんが大の釣り好きだったなんて話、私、初めて聞いたよ。
お父さんの順位、ついにトップ3入り。
そして今。
「姫子、綺麗だ」
白いウェディングドレスに身を包んだ私に、お父さんはそう言ってくれた。
順位、さらにひとつアップ!
「ありがとう。お父さん」
泣いちゃったらせっかくのお化粧が落ちちゃう。必死に我慢して、私はお父さんにずっと訊きたかったことを尋ねる。
「お父さん、今でも私のことが二番目に好き?」
「ああ。生まれてきてくれてからずっと。そしてこれからも二番目に大好きだ、姫子」
「子供の頃に言ってたよね。『いつかその意味が分かる日が来る』って」
ずっとずっと分からなかった。
「ようやく私にも意味が分かったよ、お父さん。それってとても幸せなことだったんだね」
我慢しきれず、涙が一滴頬を伝った。
お父さんが微笑んで、そっと優しく拭き取ってくれる。
「姫子、これからも幸せに」
「ありがとう。お父さん、私もお父さんのことが世界で二番目に大好き。あの人の次に、大大大好きだよ、お父さん!」
お父さんの順位 タカテン @takaten
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます