異世界チート界ナンバーツーの勇者
茅田真尋
第1話
チート勇者は二人と要らぬ。
創造主の一声で開催された、チート勇者ナンバーワン決定戦。各国から集められた選りすぐりのチート勇者どもが、トーナメント形式の大会を通して他の勇者を駆逐するのだ。優勝者のみがこの世界における真のチート勇者と認められ、敗者は全員前世へ送り返される。
前世ではろくな人生を送れていなかったチート勇者たちにとっては、この上ない恐怖だ。もちろんこの俺、加藤よしおも例外ではない。享年45歳のニート童貞。30歳などとうの昔。魔法使いなんてレベルじゃない。賢者の名を頂いたとしても文句言われる筋合いはなかろう。
そんな大賢者が今宵チート勇者王の座をかけた運命の一戦に挑むのだ。
これまで異世界チート勇者界ナンバーツーと目されたこの俺が、ついにナンバーワンへとかけ上がる時が来たのだ!
......だが、そう簡単にことは運びそうにない。なぜなら決勝の相手は異世界チート界ナンバーワンと目される男、プレイ・スウィッチなのだから。
俺はもう何度あの男との勝負に挑んだことか。実のところ、俺はこれまで一度だってプレイに勝てたことはない。だが、俺はなんとしても奴に勝たねばならぬ。負ければ前世!童貞! 賢者! 魔法使いっ!!
「加藤よしお様、決勝のお時間です」
「ぬオオオオオオオオオオおおおっ!!!」
最後に気合いの雄叫びをあげ、俺は決勝控え室をあとにした。
「レディースアンドジェントルメン! 今宵は、全チート勇者のナンバーワンが決する記念すべき日となりました!」
ステージ上のレフェリーが観衆に向けて通りいっぺんの大音声をあげる。
まったく、チート勇者の王が決まると言うのに、もう少し気の利いたことは言えないのか。これも茅田真尋とかいう馬鹿な創造主の手抜きの賜物に違いない。
「青コーナー! すべての空間を統べる男! かぁぁとぉぉぉ、よしおーーーーー!!!」
俺の紹介を受けて、周囲のギャラリーたちの興奮混じりの歓声が会場を満たす。自分の名と共に会場が沸くのは悪い気分じゃない。前世なら到底考えられないことだ。
「そして、赤コーナー、全てのゲームを操る男、プゥレーイ・スウィッチィィィィ!!」
奴の登場を受けて、俺のときとは段違いの歓声が会場を満たす。このとき、自分がナンバーツーであることを嫌でも思い出してしまう。
「チート勇者王トーナメント決定戦、レディィィィィ、ファイト!!!」
レフェリーの合図で、戦いの火蓋が切って落とされた。
ぐずぐずしている暇はない! 俺は速攻で勝負を決める腹積もりだった。
レフェリーの紹介にあった通り、プレイのチート能力はゲームだ。前世で一般に流通しているゲームにおいて使用可能な技は全て自由自在だ。だから、アルテマだろうがマダンテだろうが、奴にとっては呼吸をするようなものなのだ。そんなものを先に使われては、残念ながら俺にはなすすべがない。
ショボいチート勇者だ、ていうか、チートですらねぇと罵倒するでない。ジョジョのカーズ様も言っていた。勝てばそれでよかろうなのだッ!
つまり、先に動かれては打つ手なしだがそれはあり得ないということだ。なぜなら、攻撃へ移行するまでのスピードこそがこの俺のチート能力だからだ。勝負は始まる前に決しているのだ!
俺は右手の指をぱちりと鳴らした。その刹那、プレイの身体は音もなく無惨に切り裂かれた。
俺のチート能力は半径100km以内の空気を操ることだ。今はプレイの周りの空気を一瞬で鎌鼬へと変化させたのだ。
奴は虚ろな目をしばたかせて、その場にくずおれた。
「勝者、加藤よしおーーーーー!!!」
レフェリーの勝鬨が場内を満たした。
よっしゃぁぁぁぁぁ!!!
これでチート勇者王は、この加藤よしおだぁぁぁぁぁ!
.......なんて、うまくは行かないんだよなぁ。
畜生! プレイの野郎......!!
俺はもう何度あの男との勝負に挑んだことか。実のところ、俺はこれまで一度だってプレイに勝てたことはないんだ。
汚ねェだろっ......! リセットするなんて。
ゲームの能力が思うがまま。それは構わねぇよ。竜巻旋風脚だろうがトゲゾー甲羅だろうがどんとこいだ。
だが、負けた瞬間にリセットなんて小学生みてぇなセコい手使いやがって。どこぞのもぐらに反省文書かされるぞ!
RPGの勇者は絶対魔王には負けない。負けたって、その死はなかったことになるからだ。そして着実にレベルを上げて、最終的に魔王を討伐する。今の俺はまさしくその魔王の立場だった。
プレイの奴は戦う度にレベルが上がっている。俺のチートじみた瞬殺鎌鼬の速度を上回るのも時間の問題だ。
「加藤よしお様。決勝のお時間です」
「ぬオオオオオオオオオオおおおお!!!」
腹の底からヤケ糞の雄叫びを上げて俺は、もう何度目かもわからない不毛な決勝戦へ赴くのであった。
異世界チート界ナンバーツーの勇者 茅田真尋 @tasogaredaru
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