短編ドラマシリーズ「ゲーマー・サバイバル物語」
溶融太郎
1
西暦4000年、世界の機器は進化を極め、言葉を発しなくても自ら考え行動出来る様になった。人間並みに繊細な思考を持つ彼らは、医療、政治、文化、生活、産業、あらゆる分野で大いに役立ち、最早なくてはならない存在になった。
しかし、進化を極めすぎた彼らは意思を持ち始め、世界を蹂躙し始めた。
この事態を重く見た世界の政府は、RPG方式にてウイルスを破壊できるシステムの開発に成功。政府は各地のゲーマー達を集め、高い賃金で雇い入れた。これに志願した、ブラッド・ホークもまた、1人のゲーマーである。
「あ~いつになったら復旧すんのかなぁ。」
そんな見知らぬ人の声を聞きながら、ブラッドは政府の建物に向かっていた。
もう停電も3日目になる。発電所の機器系統に侵入したウイルスが、停電を引き起こしているのだ。
「志願しました、ブラッドです。」
ブラッドはそう守衛に伝えて、建物の中に入った。政府の建物内は明るかった。
予備電源やら何やらで電力を賄っているのだろう。そこはさすがに政府といった所か。ブラッドは、応接室に通され、ソファに腰かけた。
「初めまして。担当のウィリアムです。応募して頂きありがとうございます。」
ブラッドは名刺を渡された。
「では、システムのご説明をいたします。ブラッドさんの意識を、ゲーム内に飛ばします。ゲーム内の敵と戦って傷付いても、現実のブラッドさんの肉体は傷付きません。しかし、ゲームオーバーとなってしまったら、強制的に現実世界へ引き戻され、もう、リトライはできません。ここまでは大丈夫ですか?」
ブラッドは頷く。
「ゲームオーバーの場合は、1日分の日当を。ウイルスとなる、ラスボス撃破の場合は報奨金を。ゲーム内の進行は、ゲーム内の指示に従って下さい。準備はよろしいですか?」
ブラッドは頷く。そして、コンピュータールームへと案内された。
ブラッドには自信があった。日々、ゲームにのめり込み、世間と断絶された部屋でゲームに没頭してきたのだ。何より、ゲーマーが今、世界から必要とされる時代が
訪れた事を誇りに思っていた。
「こちらに寝て下さい。ブラッドさんの体の保持は、こちらで保証します。では
ゲームの世界に送りますよ?あ、そうそう、ゲームオーバーでも、クリアでも、
ゲーム内の記憶は残りません。では、いってらっしゃい・・・・」
ブラッドは、そのまま、深い眠りについた・・・・
「ブラッド!聞いているのか!?」
誰かの声にブラッドは、はっとした。
「もう一度説明するぞ、お前の任務はミルディアの周回警備だ。」
そう言ってくる男は、ブラッドの上官らしい。ブラッドはオプションメニューを開いた。先ず、この街はミルディアといい、ブラッドは傭兵である。
ジョブは使い慣れた剣士だ。
「この任務なら、1人で大丈夫だな。終わったら報告するように。」
この上官は、ヨハンというらしい。ブラッドは司令室を出た。
ブラッドは建物の外に出て、ミルディアの街を見渡した。ミルディアは穏やかな田舎町で静かに流れる川や、よく手入れされた草木が映える、ゆっくりとした街だ。
小鳥のさえずりが、ブラッドを落ち着かせた。ブラッドは装備を確認した。
どこにでも売ってそうな、剣と鎧だ。当面はこれで何とかなるだろう。
今の任務は、ミルディアの周回警備だ。ブラッドはミルディアの街を出た。
目の前に広がるのは、広い草原だ。ゲーマー的経験からすると、ここは序盤だろう。ブラッドはミルディア周辺を歩き始めた。大地を踏みしめる感触や、風が顔に当たる冷たさ、太陽の眩しさ、どれも現実と変わらない。ブラッドは自分の顔を、
パンパンと叩いてみた。・・・痛覚もある。今は、このゲームの中が、ブラッドの
現実となっている。一度、ゲームの中で生きてみたい・・・普段からそう思っていたブラッドには、嬉しくてたまらなかった。
「ギャアアアアオオ!」
ブラッドの前にモンスターが現れた。イエティ、インプ、グレムリンだ!
ブラッドは腰の剣を抜き、剣を振り抜いた!イエティ、インプを倒した!
グレムリンはブラッドを攻撃した!ブラッドはダメージを受けた!
だが大丈夫だ。そんなに効きはしない。ブラッドはグレムリンに剣を突き立てた!
グレムリンを倒した!
「カチャン・・・」
ブラッドは剣を鞘に納めた。大丈夫だ。戦える。ブラッドは手応えを感じた。
そして、そのまま周辺を見回ったが、モンスターは現れなかった。
ブラッドはミルディアの街に戻り、任務終了を報告した。
「うむ。ご苦労。次の任務だ。ミルディアのすぐ西の地の集落に、数体のモンスターが集まっててな。そいつらを掃討して欲しい。一応、ウチの兵士を連れていけ。ソイツのジョブは魔術師だ。今、内線をかける。」
ヨハン司令は電話をかけた。しばらくすると、一人の男が現れた。
「魔術師のピーターだ。」
司令は紹介した。
「初めまして。ピーターだ。よろしくな。」
ブラッドはピーターと握手を交わした。何やら気さくな奴だ。悪い奴ではなさそうだ。ブラッドとピーターは、司令室を出て、集落へと向かった。
「ブラッドっていったな?いつから傭兵やってんだ?」
ピーターが尋ねてきた。うーん・・・何て説明したらいいのか・・・
とりあえずブラッドは、もう20年位ゲームをしているので、傭兵歴20年と
答えた。
「20年!?すげえな!大ベテランだな!こりゃ、頼りになりそうだぜ!」
ピーターは驚いている。嘘ではないが、凄いと言ってくれるピーターを
ブラッドは、嬉しく思った。現実世界では、ゲームばかりやってる男を
凄いと言う人は、そういない。現に未だにブラッドは、独身だ。
「いーよな。自分に自信がある男は・・・俺なんて、しがない兵士だよ。
毎日毎日こき使われて、嫌になるよ・・・」
ピーターは何やらボヤキ始めた。
「この前なんて、俺、悪くないのに怒られてさ・・・すいませんとは言ったけど
何なんだよーとか思ってさー。」
ピーターはボヤキ続ける。現実社会でもよく聞く話だ。現実味がありすぎて、
ブラッドは、元の世界とゲームの中の世界と、どちらが現実なのか分からなくなり始めていた。
「おっ!集落が見えてきたぜ。」
ピーターが指差した。その集落には、家が5件建っている。
「あっ、軍の者ですけど、モンスターはどこにいますか?」
ピーターは、掃除していた人に尋ねた。その人は木陰を指差した。
木陰に数体のモンスターが眠っている。まだ被害は出ていないが、放っておく訳にはいかない。
「よし、いっちょ、やりますか!」
ブラッドとピーターはモンスターの方へ向かった。モンスターは2人の気配に気づき起き上がった。狼の様なモンスターが4体、唸りを上げて威嚇する。
「まあ、ここは俺に任せてくれよ」
ピーターはそう言いながら1人で、狼の前に立った。狼達は一斉にピーターに飛びかかった!すると、ピーターの体から炎が巻き起こり、凄まじい炎の竜巻が狼達を
襲う!
「ギャアアアアオオ!!」
狼達は一瞬で燃えカスになった!
「怒られてばっかでも、これ位はできるぜ?」
ピーターは、フッと息を吐いて炎を鎮めた。モンスター達を倒した!
ブラッドは驚いた!これ程の魔法の使い手が、ウジウジとボヤイていたとは。
凄いじゃないか!ブラッドはピーターにそう声をかけた。
「えっ?そう?そうかな?まあ、俺もこの国の兵士だし?たまには、役に
立つっていうか?いやあ、何か、こそばゆいぜ。」
ピーターは、上機嫌になった。
「まあ、ミリザリアの兵士として負けられないっていうか?いやあ、なんか
嬉しくなっちゃうな~。」
ピーターは笑っている。後から気付いた事だが、この国は、ミリザリアというらしい。ミリザリアは現在モンスターと対立し、戦争をしている。国を防衛する為、
軍隊が日々活躍しているのだ。
「任務終了だな。じゃあ戻るか。」
ブラッドとピーターは司令室に戻った。
「任務終了致しました。」
ピーターにつられてブラッドも敬礼する。
「うむ。ご苦労。では、次の任務だ。ミルディアのすぐ東に、モンスター達が巣を作ってしまってな。そこは、ミルディアの目と鼻の先だ。放っておいては非常に危険だ。その巣の主が、ケツァルコアトルスという大型の鳥類モンスターでな。
コイツが厄介なんだ。そこで、また1人、傭兵を雇っておいた。ソイツのジョブは武闘家でな。かなりの手練れだ。今、内線をかける。」
司令は電話をかけた。しばらくすると、1人の女性が現れた。女性と呼ぶには
まだ、早い様な、14、15歳位の少女だ。手足は伸びているが、顔はまだ幼い。
「少し若く見えるが、確かな実力者だ。名前は、リリアだ。この後、3人で休憩して、任務に当たってくれ。では、頼む」
3人は司令室を出た。
「私、準備をしてきます」
リリアはそう言うと、道具屋の方へ向かった。ブラッドは、少しリリアに苦手意識を感じた。難しい年頃の娘というか、無口そうなリリアは近づき難い雰囲気があった。2人は、リリアを待っていた。
「なあ、ブラッドよう・・・」
ピーターが声をかけて来た。
「実は俺・・・ロリコンなんだ・・・あの、リリアって女・・・どストライクだぜ・・・」
ブラッドは耳を疑った。人によっては、こうも受け取り方が違うのか。
しかし・・・さすがに、それは・・・ブラッドは、やめたほうがいいと言った。
「何でだよ!仕事であっても、この出会いは本物・・・俺のこの熱く燃え上がる
想いは、もう引き返せねえ!!」
ピーターの目には、炎が灯る。
「お待たせしました。」
そこに、リリアが戻って来た。リリアは当然、今のやり取りを知るはずもない。
「ね、ね、今から何処かに行かない?よし、俺とカラオケに行こう!2人でカラオケに行こう!」
ピーターはリリアに、ねっとりと声をかけた。すでにブラッドの姿は見えていないようだ。
「何か欲しい物とかあるの?俺が、俺が買ってあげるから。よし、ショッピングでもいいな。リリアはミニスカートが似合いそうだから、一緒に買いにブハアッッ
!!!」
リリアは、「キモイ!!」と言ってピーターをぶん殴った。ピーターは吹っ飛んだ。ブラッドは、大丈夫か?とピーターに駆け寄った。
「へへ・・・こうして殴られていれば、いつかは・・・・」
ピーターは、ボタボタと鼻血を出しながら笑っている。ブラッドは、ピーターの事を、確かにキモイと思った。
3人はミルディアからすぐ東にあるモンスターの巣に向かった。
「なあ、リリアー。機嫌直してくれよー。」
ピーターはリリアにそう言っていたが、リリアは警戒しているのか、ツンと
ソッポを向いている。しばらく歩いていると、巣が見えてきた。
ケツァルコアトルスがいる。
「アイツだな。よし、ゆっくり近づこう。」
ピーターの声にブラッドとリリアは頷き、3人はそろり、そろりと近づいた。
少し強い風が吹いた。気が付くと、ピーターは、リリアの髪の匂いを、
スンカスンカと嗅いでいた。
「キモイ!!!」
「ぶへえっっ!!!」
バキィ!とリリアはピーターをぶん殴った!ピーターの声にモンスター達が
気付いてしまった!
「ギャアアアアオオ!!!」
モンスター達は、いきなり3人に襲いかかった!
「ヤベェ!!まだ準備が!」
慌てるブラッドとピーターに
「大丈夫!一撃でいけるから!」
リリアは飛び上がり、回し蹴りを放った!その勢いは、真空の衝撃波を生み
辺りを薙ぎ払った!
「ギャアアアア!!」
モンスター達は全て吹っ飛んだ!ケツァルコアトルス達を倒した!
「肉体こそが、最強の武器よ?」
リリアは、フン、と鼻を鳴らした。
「すげえ・・・リリア、すげえ!」
ピーターは立ち上がった。
「俺達3人は最強のパーティーだぜ!ブラッド、これからも力を合わせていこう!」
ピーターは、鼻血まみれの手で握手を求めたが、ブラッドは握手を拒否した。
3人はミルディアに帰還した。
「任務終了しました。」
3人は敬礼した。
「うむ。ピーター、鼻血の跡があるぞ。大丈夫か?余程の戦いだったんだな。」
いきさつを知らない司令は、ピーターを心配した。
「えっ?これは・・・名誉の負傷というか、自分との戦いというか・・・
僕は、常に頑張っています!」
ピーターの言葉に、リリアはじっとりとピーターを睨んだ。
「うむ。ではこれより3人は会議室に来てくれ。作戦会議がある」
司令の言葉に3人は頷いた。3人は会議室に着席した。
会議室はガヤガヤと混雑している。皆は着席した。
「諸君、よく集まってくれた!」
上層部の者が壇上に立った。
「我々は、これより、ジルバル捕虜救出作戦を行う!」
ジルバルとは、ミルディアの北に位置する街の事だ。モンスター達にジルバル
は占拠され、捕虜を拘束されている。知能を持ったモンスターが存在し、
戦況を掌握しているのだ。
「現在、ジルバルを支配しているのは、エキドナというモンスターだが、今の
戦況では、この街を開放するのは、まだ困難である。先立って、わが軍の捕虜を救出しておく必要がある。戦力として、戦闘ヘリ、アパッチ・グリフォン、
戦車、レオパルド999を投入する。この戦力で道をこじ開け、近接戦闘部隊を投入後、装甲車両を回す。各、部隊は無線で連絡を取り、作戦に当たってくれ。
よろしく頼む。では、解散!」
会議室がバタバタと慌ただしくなった。3人は司令室に戻った。
「今回の任務は、救出作戦だ、戦闘ヘリ、戦車のオペレーターを呼ぶ。」
司令は内線をかけた。しばらくすると、2人の男性が現れた。
「紹介しよう。ヘリ担当、ベクターと、戦車担当、ルイスだ。」
新たな仲間が来て、司令室は賑やかになった。
「よう、ピーター、ロリコンは治ったのかぁ?」
ヘリ担当のベクターという男は、気さくな先輩といった所か。
「フン・・・愚か者め。戦場に私情を持ち込むとは・・・」
戦車担当のルイスはインテリで嫌味な感がある。メガネをかけている。
「イヤだなあ!僕はいつでも清き人ですよ!」
ピーターはヘラヘラ笑った。リリアはピーターを白い眼で見ている。
「うむ。皆集まったな。これを見てくれ。」
司令は、ジルバルの街の図面を拡げた。
「街の中心部に大きな建物がある。そこの地下に捕虜が監禁されているとの情報が
入った。捕虜は4名だ。幸いな事に、その捕虜の中にヒーラーがいる。捕虜の身の
安全は大丈夫だろう。先陣はヘリ、次陣に戦車、三陣に近接戦闘部隊、そして最後
に装甲車両を回す。ピーター、ベクター、ルイスは無線で連携してくれ。
後、くれぐれもまだエキドナとは戦うな。勝てる相手じゃないぞ。では頼んだ。」
皆、ぞろぞろと司令室を出た。ブラッド、ピーター、リリアの3人は、装甲車両
に乗り込み、ジルバルの街に向かった。
{あ、あーこちらベクターだ。聞こえてるか。ドーゾ?}
ピーターの無線から声が聞こえる。
「こちらピーター、聞こえます。ルイスさん、取れますか?ドーゾ?」
車両の中から、ピーターが無線に声を出す。
「・・・?ルイスさん?ルイスさーん!」
{こちらルイス。色々確認中だ。汚らしい声を出すな。愚か者め}
{ベクターだ。現在、中間地点で待機中、皆、合図を出すまで待機してくれ。}
「了解。待機します。」
{ルイスだ。了解。}
{やれやれー。昨日、パチンコで全部やられたからな。アパッチで八つ当たり
といきますか}
{ちゃんと貯金をしろ。愚か者め}
{そういうルイスも、婚活パーティーで、金使いまくってるだろ?}
{ぐっ・・・それは・・・そうだが・・・この前は、良い所までいったんだが・・・}
{ルイスはムッツリだから、変態に見られるんだよ}
{なっ!貴っ様ァア!!}
「まあまあ。今度3人でナンパにでも行きますか?」
{ピーターは小学生にも声かけるから、こっちはドン引きだ。ルイスは
熟女専門だしな。}
{ぐっ。貴様ァ!}
{じゃ、アパッチちゃん、行きますか。エントリーナンバー1番。僕、ルイス。
第一印象から決めてました}
{ベクター!貴様、撃墜されてしまえ!愚か者め!}
「よろしくお願いシマース」
先ずは、アパッチが先陣を切る作戦だ。ベクターは、単騎でジルバルの街にヘリで
突入した。
{こちらベクター。現在、ジルバル上空。眼下にモンスターを多数確認。中央の建物を避けて攻撃する。ヘルファイアとハイドラロケットで掃討する。近づくな!}
「ドゴゴゴゴゴゴ!!!」
アパッチの凄まじい攻撃が始まった。さすが、世界最強の攻撃ヘリと言われるだけあって、相当な火力だ。
{こちらベクター。粗方のモンスターは片付いた。細かい場所のモンスターは、
戦車で頼む}
{こちらルイス。了解した。2陣、レオパルド、出撃する}
「キュラキュラキュラキュラ」
戦車特有の走行音が聞こえた。
「ドガアアアアン!!!」
レオパルドが滑空砲を撃ち込む!こちらも凄まじい威力だ。
{ルイスだ!催涙ガス弾を撃ち込む!ピーター達は対ガス装備で突入しろ!}
ブラッド、ピーター、リリアはガスマスクを装着した。
「ドガアアアアン!!!」
{ガス弾を撃ち込んだ!ピーター!突入しろ!!}
「了解!3陣、近接戦闘部隊、突入!」
3人は、車から降り、ジルバルに突入した。
「こちらピーター!中央の建物を確認!建物内に入ります!!」
赤外線ゴーグルから、粉々になったモンスター達が見えた。3人は階段を下りた。
4人の捕虜が身を寄せ合っている。
「皆さん!救助に来ました。無事ですか!?」
ピーターはマスクを外して声をかけた。
「皆、大丈夫です!」
1人の若い女性が返事をした。彼女がヒーラーだろうか?
「こちらピーター!要救助者の無事を確認!車、回して下さい!!」
{了解した!}
「上に車が来ます!乗り込んで下さい!早く!!」
ピーターの誘導に、捕虜になった皆は、立ち上がった。
「俺達は、先に上がって、安全の確保だ!」
ピーター達は階段を駆け上がった。建物を出たら、装甲車が待機していた。
「マズイ!!エキドナが来た!!時間を稼げ!!」
ピーターの声に振り向くと、蛇の体をしたモンスターが凄い勢いで向かって来た。
「時間を稼ぐだけでいい!!」
エキドナが現れた!!
ピーターは、炎を巻き上げて焼き払った!!
リリアは、練り込んだ気弾を撃ち込んだ!!
ブラッドは、剣で切り裂いた衝撃を放った!!
「ギャハハアアアアッ!!」
エキドナには通用しない!!
「皆、乗り込みました!!」
装甲車に乗り込んだ女性の声がした!
{こちらベクターだ!!フラッシュ弾を落とす!!絶対に見るな!!}
{こちらルイスだ!!9mm機関銃を撃つ!足止め位にはなる!!}
「ガガガガガガ!!!」
爆音を背に、皆、車に乗り込んだ!
「出して下さい!!」
ピーターの声と同時に、車は走った!!
「こちらピーター!!捕虜、確保しました!!全員、無事です!!」
{よくやった!!上出来だ!!}
{ベクターだ!ジルバルから退避した!}
{ルイスだ!同じく!}
作戦は、大成功に終った!ブラッドは、ほっとした後、震えが止まらなかった。
汗が噴き出て、動悸が激しくなる。何度も深呼吸した。
「やったな!!成功だ!!」
笑って肩を叩いてきたピーターを凄い奴だと思った。戦場ゲームなら何度もやったが、現実となれば、死がすぐ隣に迫る。ブラッドは、命のありがたみを、ひしひしと感じていた。
「皆、よくやった!カンパイ!!」
「カンパーイ!!」
会議室は、ささやかな宴が行われた。救助された捕虜達も一緒だ。
「いや!素晴らしい作戦だった!君達が無事に帰ってきて・・・ウッウッウッ・・・」
上層部の士官は、酒が入ると泣くらしい。
「どうよ!俺のアパッチさばきは!モンスター共、タジタジだったぜ!!」
ベクターは得意げに豪語する。
「フン。戦車の機転があっての勝利だ!」
ルイスも負けじと口を開く。
「・・・・ルイスの真似!貴っ様ァ!愚か者め!」
「なっ!貴っ様ァ!」
「ハハハハハハ!!」
笑いの中心にブラッドはいた。こんな楽しい宴など、これまであっただろうか?
・・・いや、無い。現実では、せいぜい職場の忘年会で隅の方にいるだけだ。
作戦は大変な思いをしたが、いつの間にかブラッドは、確かな充足感を得ていた。
「はい、リリア。一緒にジュース飲もうね。ケーキもあるからね。」
「ありがとう」
ピーターは、リリアにベッタリだ。
「あの・・・」
女性の声にブラッドは振り向いた。
「助けに来てくれてありがとう。私、本当に怖くて・・・」
その女性は、捕虜になっていたヒーラーだ。ブラッドは、はっとした。
その女性はとても美しかった。艶々と輝くセミロングの髪に、ブラッドの
目は奪われた。
「私、エリーナと言います。ブラッドさん・・・でしたね?本当にありがとう。」
エリーナは、控え目な笑顔をブラッドに向けた。ブラッドはドギマギした。
あまり女性と接点のないブラッドには、エリーナの笑顔は眩しすぎた。
「お?何だ。ここだけ、良い空気出してんな。」
酔っぱらったベクターが割って入ってきたが、ブラッドは助かったと思った。
どう会話を交わせばいいのか、ブラッドには分からなかったからだ。
「ハハハハハハ!」
また、ベクターが輪を盛り上げる。宴は、笑いの絶えぬまま終わりを迎えた・・・
ブラッドは、ほろ酔い加減で、自室のベッドに横たわった。楽しかった宴を
思い出しながら、ブラッドは考えていた。このまま、この世界にいたらどうなるのだろう。いっそ、この世界にいたほうが・・・ブラッドは、オプションメニューを開いた。注意書きがある。
「注意事項。ラスボス撃破後、2日間の猶予を持ち、現実世界への引き戻しとなります。ゲームクリアの意思が無いと判断した場合も、引き戻しとなります」
そう書いてある。・・・そうか、この世界にはずっとはいられないのか・・・
ブラッドは、寂しいような、分かっていたような、妙な気持ちになった。
そのままブラッドは、眠りについた・・・・
「おはようございます」
ブラッド、ピーター、リリアは司令室で挨拶した。
「うむ。楽しい宴だったな」
ベクター、ルイスは他の作戦に向かったようだ。
「早速だが、次の任務だ。ジルバルの西の洞窟に、ゴーレムが居座ってしまってな。鍾乳洞であるこの洞窟は、観光名所でもある。退治してくれ。ゴーレムは、
中々の強敵だ。もう一人、傭兵を連れていけ。今、内線をかける。」
司令は電話をかけた。しばらくすると、ドアが開いた。
「こんにちは!あっ、ブラッドさん!」
ドアを開けたその女性は、先日の宴で話した、エリーナだった。
「うむ。彼女はヒーラーでな。これからの戦いには必ず必要になるだろう。共に向かってくれ。では、頼むぞ」
エリーナを含めた4人は、司令室を出た。
「もう、体は大丈夫なのか?」
ピーターは、エリーナに尋ねた。
「ええ。私は大丈夫。もう元気一杯よ。」
エリーナはニッコリ微笑んだ。周囲から好印象を受けるエリーナの仕草に、ブラッドの心は温かい気持ちになった。
「ブラッドさん、よろしくお願いね!」
エリーナはニッコリ微笑む。4人はゴーレムのいる洞窟へ向かった。
ミルディアから北西に進んでいくと、洞窟が見えた。美しい鍾乳洞の入り口が
口を開けている。
「現在立ち入り禁止」
の看板を抜けて、4人は進入した。
「すごーい。キレー。」
リリアの声にブラッドは共感した。観光名所というだけあって何年もの歳月をかけて形成された鍾乳石は、ライトアップされて幻想的な空間を演出していた。
内部はどこも被害は見受けられなかった。元々、ゴーレムは石で出来たモンスターだ。居心地の良いこの場所を根城にしたかったのかもしれない。奥の方に進んで行くとゴーレムが現れた!
「ゴオオオオオッッッ!!」
ゴーレムは拳を振り上げた!ブラッドは剣を抜き、ゴーレムに斬りかかった!
「ゴオッ!!」
ブラッドとゴーレムの攻撃は相打ちとなり、ブラッドは大きな傷を負った。
ゴーレムもうずくまっている。ピーターとリリアは身構えた!
「待って!」
エリーナは皆を止めた。エリーナはブラッドの胸に手を置いた。
「大丈夫?私に任せて」
エリーナの手から温かい癒しの光がブラッドの体に流れ込んだ。ブラッドは立ち上がった。そして、エリーナは何とゴーレムまで回復し始めた!
「おっ、おい!何してんだよ!?」
ピーターは驚いて大きな声を出す。
「このゴーレムは自然から生まれたモンスターなの。悪いモンスターじゃないわ」
エリーナの温かい光がゴーレムを包んだ。
「ここにいたらダメ。安全な所で暮らすのよ?」
エリーナの声に、ゴーレムはポタポタと涙を流し、静かに立ち去った。
「私は皆を元気にしたい。だから・・・」
エリーナはゴーレムを見送った後、ニッコリと振り返った。
ブラッドは、強くエリーナに心惹かれていく自分を感じていた。
「任務終了しました。」
4人はミルディアに戻り、報告した。
「ご苦労。次の任務だ。ミリザリアのちょうど中央に、首都、レイガルがある。
ここで開催される武道大会に、人間に化けたモンスターが出場しているとの情報が入った。4人1組で武道大会に出場し、モンスターを暴き出して欲しい。では、頼んだぞ」
一行は、軍の飛行機で首都、レイガルに着陸した。
「レイガルにようこそ!」
レイガルの空港には、大きな横断幕が垂れ下がり、賑やかなロビーには色々な土産屋が立ち並んでいた。
「腹が減っては戦は出来んからな。先ずは食事にしよう」
ここで一行は休憩をとる事にした。
「ピーター、あれ食べたい!」
リリアはピーターの腕を掴んでどこかへ消えてしまった。
「じゃ、ブラッドさん。私達は色んな物見ながら、何かつまみましょ。」
エリーナの声にブラッドは頷いた。2人は土産屋を回りながら試食品を食べていた。
「ん!これおいしい!口開けて?あーん」
エリーナはブラッドの口に試食品を、ドサッと詰めた。
「んご!」
ブラッドは中々飲み込めない。
「アッハハ!ごめんね!詰めすぎた?アハハ!」
大混雑する土産屋に2人は密着していた。エリーナの甘い香りがするほど、近いその目が合う度、ブラッドはドキドキした。
「あそこに帽子が売ってるわね。行きましょ。」
混雑する人並みに離されないよう、2人は体を掴み合った。
「んーとね。ブラッドさんには・・・これ!・・・ほら!よく似合う!」
エリーナは手をパン!と鳴らした。ブラッドは鏡を見た。
・・・似合っているのか?まあ、守備力は少し上がるだろう。ブラッドはその帽子を購入して頭に乗せた。
「キャッ!」
人込みに押されたエリーナは、ブラッドに、もたれかかった。
「あっ!!ブラッドさん・・・ホッペに口紅ついちゃった・・・」
押されたハズミでエリーナの口紅がブラッドの頬に付着した。・・・気にしなくていい。ブラッドは袖で拭こうとした。その時、ガッとエリーナがブラッドの腕を止めた。
「ダメよ。ダメ!そのまま!それはそれで・・・カワイイわ!ステキ!!」
エリーナは笑いながら、鏡を見ようとするブラッドを遮った。
「あ!ほら!あれ美味しそう!」
エリーナはニコニコとブラッドを鏡から遠ざけた。2人はそこで、たい焼きやソフトクリームを食べているうちに腹が膨れた。そこにピーターとリリアが戻って来た。
「ん?帽子買ったのか?・・・おい、ブラッド!何だそのキスマークは!?
お前ら・・・何してたんだよ!?」
ピーターの目が、カッ!と開いた。
「ンもうー、ヤダァ!」
エリーナはピーターを、パシンと、はたいた。そして、4人は、レイガルの闘技場に向かった。前2人に、リリア、エリーナ。後ろ2人に、ピーター、ブラッドで歩いている。
「おい、ブラッド・・・さっき、エリーナと何してたんだよ!言えよ!言えって!」
しつこく聞いてくるピーターに、ブラッドは大した事では無いと首を振った。
「ケッ!んだよ・・・よし、俺もリリアに口紅塗らせて・・・」
それは止めたほうがいい。ブラッドはピーターにそう言った。
「お前が言うなよ!!」
ピーターの目はまた、カッ!となった。
闘技場に向かう途中、一行は首都の建物の高さに天を仰いだ。
「首都は余り来ることはないが、いつ来てもスゲーなあ。」
ピーターの声に皆、頷いた。きらびやかな店舗は、一行の足を止め、ショーウインドウのドレスに女性陣は目を輝かせる。首都の街並は、若者たちを虜にさせた。
「お。闘技場が見えて来たぜ。」
一行は闘技場に進んだ。
「ピーター様ですね。大会出場の予約は承っております。3時間後、もう一度こちらにいらしてください。」
会場の職員はテキパキと仕事をこなした。
「3時間後かー。皆、どうする?」
ピーターの声に、皆、考えている。
「私、アイス食べたい!」
リリアは、可愛らしい店舗を指差した。ブラッドは、武器屋に行きたいと言った。
そろそろ、初期装備では限界が訪れていた。
「じゃあ、別行動でいいか?」
ブラッドは頷いた。
「私はブラッドさんと行くわ。」
エリーナは付いてきてくれると言った。ブラッドとエリーナは武器屋に辿り着いた。これまた、きらびやかな入り口に2人は足を止めた。
「すごーい。キラキラー。」
エリーナの瞳は、店舗のイルミネーションが映り込み、輝いていた。
2人は店に入った。武器屋といっても防具も置いている店だ。
立派な鎧や兜が店内を飾る。エリーナはキョロキョロと店内を見渡した。
「すごーい。戦う人の装備って、カッコイイ・・・」
ウロウロしているエリーナをよそに、ブラッドは、並べられた剣を見ていた。
「ブラッドさん!ジャーン!」
いつの間にか、エリーナは鎧を試着していた。
「似合うかしら・・・」
ブカブカの鎧と兜を付けたエリーナは、子供が大人の真似をしている様だった。
ブラッドは、エリーナの姿を見て大笑いした。
「あっ!ヒドイ。アハハ!」
エリーナと過ごす時間は、ブラッドにとって、幸せに思えた。
ブラッドは、並べられた剣の中で、一際、大きな剣を手に取った。
バスタードソードだ。両手、片手と持ち替えられ、突く、切るといった色々な
攻撃バリエーションのある剣だ。ブラッドは、バスタードソードを購入した。
「楽しかった!」
そう言うエリーナと一緒に、闘技場に戻った。
「お。戻ってきたな。」
ピーター、リリアと合流し試合会場に向かった。会場はすでに熱気に包まれている。
「さあ!始まりました!今年20年目を迎える、闘技大会!優勝の栄冠はどのチームに!」
アナウンサーが、試合を盛り上げる。
「実況は私、ブラハムと、解説はダリクでお送りします。ダリクさん、第一試合のライナチーム対ブラッドチームですが、勝敗の決め手はどこにあるでしょうか?」
「いやー。ライナチームですが、夫婦2人の参加ですからねー。やはり、どう2対4の不利を埋めるかという所ですねー。夫婦の息を合わせれば、あるいは面白い事が起きるかもしれませんから、そこに期待しましょう!」
「さあ!両チームの入場です!!」
派手な音楽がかかる中、ブラッド達は入場した。
「えー、ブラッドチームですが、今年からの初参加となります。実力はまだ未知数ですが、ピーター氏は言っていました。己の力を信じるだけだと。対するライナチームは、3回目の出場になります。これまでの対戦成績は2回戦を突破しております。経験がモノをいうか?間もなく、ゴングです!!」
ライナチームとブラッドチームは位置に付き、身構えた!
「ちっ!いきなり不利だね!アンタに友達が少ないからこうなるんだよ!
アンタ結婚式の時も友人来なかったじゃないか!恥ずかしいっちゃありゃしないよ!」
鬼嫁はダメ亭主の尻を引っぱたいた!
「情けないマネしたら、アンタ来月、小遣い無しだからね!!」
「ヒイイィィィ!」
ダメ亭主は風の魔法を練り上げた!辺りの風向きが変わる!
「おっと!ここで旦那さん!攻撃に出る!風魔法を放った!これはどうだ!?
ブラッドチームは全員かわしている!ブラッドチーム、素晴らしい動きです!
・・・これは?ブラッドチーム、4隅に陣を取りましたね?」
「ブラッドチームは連携の取れたプレーですねー。攻撃をかわしたそのすぐ後に
そのまま陣形をとるという、このプレーなんですよ。これなんですよー。」
「ブラッドチーム、炎と気弾の挟み撃ちだ!これは旦那さん、何とか凌いだ!」
「旦那さんも、もう必死ですよー。生活かかってるんでしょうねー。」
「アーッ!ここでブラッドが来た!!ブラッドが剣を振り上げたー!!
そのまま一撃ィィィー!!」
「あーあ!!旦那さん、これは厳しいなー。」
「どうだ!?立てるか!?旦那さん、立てるのか!?・・・これは立てなーい!!」
「これは防げませんよー!」
「只今のシーンを、スーパースローVTRで見てみましょう。あー、これはいい
仕掛けでしたねー。」
「いやー!何度見ても気持ちいい!!これですよー!!」
「おっと?ここで嫁さんが首を振りましたね?試合続行不可能の判断ですか?」
「良い判断でしょう。旦那さんはやられ損ですけどねヒヒッ。」
「ここでゴングです!ブラッドチーム、2回戦進出です!」
ブラッドは、旦那さんに声をかけた。旦那さんはヨロヨロと立ち上がった。
「アンタ!ほんと情けない!帰ったら風呂掃除だよ!!」
「ヒイイィィィ・・・」
ライナチームは帰って行った・・・
「ヒューウ!!」
会場が湧いた。ピーターはカッコ付けて両手を上げた。ブラッドもこんな歓声は始めてだ。ブラッドチームは控室に戻った。
「さあー、2回戦が始まりました。先程、素晴らしい戦いをした、ブラッドチームですが、情報が入りました。軍のメンバーで構成されたチームとの事ですね。」
「軍の?それは強そうだ!」
「メンバーのエリーナ氏は言っていました。大切な仲間と勝利を分かち合いたいと。」
「いやー!彼女が傷付く所は見たく無いですよー。私、最初から彼女の事気になってましたからねー。」
「ダリクさんも好きですねぇ。」
「そりゃそうですよー!男は皆そうですよー!」
「さあ、両チーム、入場です。対するダダルチームですが、ボディビルの仲間で構成されたチームです。リーダーのダダル氏は言っていました。鍛え上げた肉体で戦いたいと。ダリクさん、勝敗のポイントはどこにありますかね?」
「いやー。ボディビルといえば、肉弾戦のイメージが強いですからねー。
ブラッドチームは、距離を取って戦う戦法が有利じゃないですかねー。」
「なるほど・・・おっとこれは?ダダルチームの肉体美に会場がどよめきましたね。ダダルチーム、見せますねー。」
「まあ、私は嬉しくはないですけどね。」
「両チーム、位置に着きました。間もなく、ゴングです!!」
「頑張れエリーナ!」
「おや?ダリクさんは、ブラッドチームのひいきですか?」
「男は皆そうだと思いますよ?」
「さあ!ゴングが鳴りました!おー!ここでリリア選手とダダル選手、激しい接近戦ですね!会場が湧いています!」
「これは力が拮抗してますねー。リリア選手は将来が楽しみですねー!」
「アーッ!ここでピーター選手が他の選手に殴り倒されたーッ!!」
「ボーっと見てるからいけないんだよ!何してんだ!!」
「おや、エリーナ選手、ピーター選手に駆け寄りましたね?これは・・・
回復してるんですね。ピーター選手、立ち上がりました!」
「私の心も回復して欲しいですよー!」
「おっーと!ピーター選手、怒っている!怒りをあらわにしているー!!」
「これ卑怯だといってますねー!そんな訳ありませんけどねー!」
「ピーター選手、何やら詠唱してますね?これは・・・魔法ですね。ピーター選手の足元から冷気が上がってますね。」
「夏にやって欲しいですよねー。」
「ピーター選手、強烈なブリザードを放ったーッ!!ダダルチーム、全員、うずくまって震えている!これは効いた!これは効いているーッ!!」
「筋肉は寒さに弱いですからねー!盲点でしたねー!」
「アーーーッ!!ここでブラッド選手とリリア選手の合体衝撃波だーッ!!
決まったァァァァァ!!ダダルチーム、全員、戦意喪失ーッ!!ここでゴングーーー!!ブラッドチーム、決勝戦進出ー!!!」
「ナイスチームプレーでしたねー!」
「いや、素晴らしい試合でした!スーパースローVTRで見てみましょう!
ここでピーター選手がブリザードを放った後からの衝撃波ですよ!!」
「私はエリーナ選手を見てますけどね。いや、この笑顔、最強だ。」
会場が大いに湧いた。どうやらエリーナにファンクラブができ始めているようだ。
両手を上げるピーターに、ファン達は、どけ!どけ!と手を振る。
笑顔で手を振るエリーナに、フラッシュが焚かれた。勘違いしたピーターは
ポーズを決めた。ブラッドチームは、控室に戻った。
「さあ、ダリクさん、ここまで来ましたねー。」
「来ましたねー!来ちゃいましたねー!」
「例年に無い盛り上がりを見せる今大会、大人気となったブラッドチーム。対するは、これまた初参加のリゼル選手。決勝はダークホース同士の戦いとなりました。
この、リゼル選手ですが、これまで1人で勝ち上がって来てるんですね。これは相当な猛者ですね。さあ、両チーム、入場です!!」
「キタキター!エリーナカモーン!!」
「ブラッドチームの入場に会場が熱くなります!仲間との絆を信じ、これまでの死闘を乗り越えて来た。仲間がいるから戦える。チームはそう信じて揺るがない。
夢、希望、未来、それぞれの想いはあるが、今、チームは1つとなる。
ブラッドチーム、花道を通り抜け、さあ!リングに舞い降りた!!!」
「凄い歓声だなー。いや、分かりますよー!もうね、私も虜ですよー!
完全なホームグラウンドですよー!」
「さあ、そして。対するリゼル選手入場です。これまで1人で戦い、勝ち抜いてきた。信じる者は己のみ。最強は1人でいい。生き残りをかけたこの試合、最後に立っているのは自分だけだ。無表情な眼差しには、絆など、容易く打ち砕いてくれる。
そう言っているかのようだ。リゼル選手、今、静かに、リングに降臨!!!」
「いや、このリゼル選手、周りの声など気にしてませんねー。これは強敵ですよー!いやー!余り、ヒイキな事は言えませんけどねー!」
「さあ、決勝戦!間もなく、ゴングです!!」
会場が、シン、と静寂に包まれた・・・
「さーあ!試合開始です!おーっと!ピーター選手、雷を集めました!雷撃攻撃ーッ!リゼル選手、これを片手で打ち払ったーッ!」
「まずは様子見といったところですね!」
「リリア選手、接近戦に誘い込む!あっという間にロープ際ー!!」
「よーし!!いけるぞ!!」
「リゼル選手、後が無い!正面、左右と囲まれた!このまま決まってしまうのかー!?」
「それでいい!!いけいけ!!」
「アーッ!!あ?リゼル選手、飛んで浮いている?え?空中に浮いている!!何だこれはー!?」
「オイオイ!そんなのありかよ!?」
「リゼル選手、そのまま上から火炎放射ー!!ブラッドチーム大丈夫かー!?」
「頑張ってくれー!!」
「エリーナ選手!皆を回復する!!しかし、まだ炎が止まない!!リング上、大惨事だァー!!!」
「止めてくれー!!」
「いや・・・これはどうした!?何かが起きている!!これは・・・ピーター選手、下から水の魔法で相殺している!!」
「よしよーし!!いい対応だ!」
「アッ!リゼル選手のさらに上にリリア選手が飛んでいる!!その下にはブラッド選手が待ち構えているーッ!!リリア選手、上からリゼル選手を叩き落としたーッ!!!」
「そこだ!!いけえー!!!」
「ブラッド選手、下から剣で突き上げたーッ!!!」
「ヤッター!!!」
「リゼル選手、ダウーン!!起き上がれるかーッ!!!?」
「起きなくていい!!!そのままねてろーッ!!!」
「アッ!!?リゼル選手、体が変化して・・・?これは!!・・・モンスターだ!!モンスターが化けていた!!」
「トドメを刺さないと!!」
ブラッドは、バスタードソードを逆さにして、剣を突き立てた!人間に化けたモンスターは絶命した!
「試合終了ーッ!!!何という幕切れ!!何という決勝戦!!決勝戦に相応しい、
いや、それ以上に、人類代表としてブラッドチーム!素晴らしい功績です!!
会場が・・・レイガルが・・・このチームを称賛して止まない!!今日の試合は伝説に残るでしょうねー!」
「もう私、感激して涙が出ますよ!このねー、チームはもう、ヒーローですよー!
無名な所からここまで勝ち上がって、優勝ですからねー!!首都の救世主かもしれませんからねー!!」
「いや、会場のボルテージが冷めませんねー!!さーあ!ブラッドチーム、花道を引き揚げます!!うわあー!眩いばかりのフラッシュですねー!!ブラッドチーム、皆、笑ってますねー!」
「あー!!もういいなあ!!私もこのチームに手を振りたいですよー!!」
「これで、大会は終了となります。ダリクさん、これから新しいスターに注目ですねー。」
「目が離せませんよー!」
「実況は私、ブラハム、解説は、ダリクでお送りしました。ダリクさん、今日はありがとうございました。」
「ありがとうございました。」
「では皆さん、さようなら。またこのスタジアムでお会いしましょう!」
「いやー疲れたぜー。」
4人は、控室で帰還の準備を終えていた。
「帰って報告だな。」
4人は闘技場の入り口に辿り着いた。外には、ファンやら報道やらが出待ちして大騒ぎになっていた。裏口から逃げよう!ブラッドは、エリーナの手を取った。
「うん!!」
4人は、するりするりと裏口から逃げて、ミルディアに着いた。
「任務終了しました。」
「ご苦労。お前達、新聞に出てるぞ。まあ、任務の妨げになるからな。報道陣はシャットアウトだ。次の任務だが、炎、冷気、雷のモンスターが各地で暴れ始めてな。イフリート、シヴァ、サンダードラゴンだ。聞いた事もあるだろう。これらを討伐してくれ。先ずは、シヴァからだ。ミリザリアの最北端に、ユーラルという街がある。そこから、シヴァのいる洞窟に向かってくれ。ユーラル地方は、とても寒い。防寒装備を万全にして望め。ユーラルの街で休日を取った後、洞窟に向かってくれ。」
4人は司令室を出て、飛行機に乗った。
「ユーラルかー。遠いから行った事なんてないぜー。皆はどうだ?」
ピーターの問いに、皆、首を振る。しばらくすると、眼下に首都レイガルが見えた。闘技場も見えた。今思うと、楽しい出来事だったのかもしれない。ブラッドはそう思っていた。さらにしばらくすると、街が見えてきた。多分、あれがユーラルだろう。飛行機はユーラルの街に下りた。飛行機から下りた4人に、冷たい風が吹いた。
「うわあ!すごーい!」
リリアが目を輝かせた。ユーラルの街には、氷でできた彫像が並べてある。
ユーラルの街は、氷像が盛んな街で、この気候を活かした温かい鍋や、温泉、汁物等が有名である。また、スケートリンクやスキー場、オーロラ等が望める為、ユーラルは常に観光客で賑わっている。
「司令も気が利くなー。こりゃ、休みたくもなるわなー。ヨシ、2日間の休日を満喫しよう!皆、まずどこへ行きたい?」
ピーターの問いに、皆、笑顔でソワソワした。
「ううう~。しかし寒いなー。まずは温泉に行かないか?」
皆、笑顔で頷いた!ユーラルの温泉街には様々な屋台や土産屋が立ち並んで、独特の世界観が広がっている。温泉卵のユーラルの宝玉が有名だ。4人は立派な温泉宿に辿り着いた。
「ここに宿泊するのもいいな。ヨシ!部屋を取って温泉に浸かった後、街を散策しよう!」
フロントに部屋を予約し、部屋に案内された。もちろん男女は別々だ。
「うはあ~・・・こりゃまた・・・」
ピーターが感嘆の声を上げた。窓から見える雪景色はユーラルの街を一望でき、美しい庭園には、鮮やかな曲線を描いた砂の地面が見る者を虜にさせる。
「すごい所だなー。こんな贅沢していいのかなー?」
ピーターは、余りの荘厳な景色に目を丸くした。
「あっ、いやいや!温泉に行かないと!」
はっとした2人は、旅館の温泉に向かった。ロビーでエリーナ達と出会った。
「部屋どうだった!?凄い景色でしょ!?こんな所に来れて幸せ~。」
エリーナ達は、ウットリと悦に入る。
「いや・・・多分、驚くのはまだ早いぜ・・・メインは温泉だからな・・・」
4人は、心を弾ませて温泉に向かった。
「こりゃ~凄すぎるわあ・・・」
ブラッドとピーターを出迎えたのは、見事な露天風呂だった。モウモウと立ち込める湯気を進むと目の前には、絶景の大パノラマが拡がる。海に面したユーラルの地形の為、エメラルドグリーンの海に、夕暮れ時の太陽が時間を忘れさせる。
ユラユラと浮かぶ船が、この絶景に彩を添えた。
「日々の疲れなんか吹っ飛ぶぜ~。あ~生き返るウ!!」
おっさんの様に温泉に浸かるピーターは、頭にタオルを乗せた。ブラッドもため息をついて浸かった。確かに、疲れが抜けていくようだ。フワフワになった体を洗い、また絶景と温泉を堪能した。トロトロになりながら2人は脱衣所に向かった。
「お?これ知ってるぞ?ユカタだな。せっかくだ!着ようぜ!」
2人は浴衣を着た。
「ギャハハ!ブラッド!!それ逆向きだぞ!!文化を学べ!文化を!」
ブラッドは慌てて着なおした。カラカラと下駄を履いて2人は浴場を出た。
「しかし、このゲタという靴は見た事はあるが、歩き難いもんなんだなー。」
ピーターは、片足を上げて下駄を覗き込む。そこにエリーナ達も現れた。
エリーナとリリアも浴衣を着ていた。
「良かったよー・・・凄く良かったよー・・・」
エリーナ達は絶景を思い出し、目を遠くさせた。風呂上りのエリーナの姿もまた、絶景の1つに思えた。少しのぼせたような、赤みがかった頬にブラッドの目は吸い込まれた。
「お食事をご用意してお待ちしております。」
女将にそう言われながら、ブラッド達は温泉街に向かった。
すっかり暗くなり始めた温泉街は、提灯などの灯りが燈り、街並は、また別の美しさを誇る。立ち並ぶ屋台に4人はキョロキョロと辺りを見回した。
「こういう時は、必ずやるもんなんだぜ?」
ピーターは、射的屋に足を向けた。
「ほら!ブラッド!いい所見せろ!」
ピーターに、射的用の銃を渡された。
「あ!あれがいい!!あれ!!」
エリーナは、ペンギンのぬいぐるみを指差した。ブラッドは銃を構えた!
「パン!」
見事にぬいぐるみは倒れた!
「キャア!!やった!!」
エリーナは、ブラッドに抱き着いて喜んだ。ブラッドはエリーナにぬいぐるみを手渡した。
「えっ!何か・・・すごく嬉しい・・・」
エリーナは、ペンギンを抱きしめた。
「フン・・・男を見せやがったな・・・次は俺の番だぜ。待ってろ。リリア。
俺の前で立っていられる景品は無いぜ・・・」
「パン!」
「・・・ありゃ?俺の弾、どこ行った?」
「・・・ピーター・・・ヘタクソ・・・」
リリアは目を細めた。
「次はコイツだ。」
一行が足を止めたのは、金魚すくいだ。
「金魚すくいのピーターたぁ、俺の事ヨ!」
ピーターは、フンフンと金魚をすくう。
「スゴイ!ピータースゴイ!!」
リリアは目を輝かせた。ブラッドとエリーナは、一緒に同じ金魚を追っている。
「キャア!そっち行った!そっち行った!やった!!キャアー!!」
ブラッドは大きな出目金をゲットした!!しかし、アミはその直後に穴が開いてしまった。ブラッドは開いた穴からエリーナを見た。エリーナも開いた穴からブラッドを見ていた。
「アハハハハハ!!」
4人は金魚を貰うのを止めて、旅館に戻った。
「お食事の支度が整いました。4名様で、どうぞこちらに・・・」
4人は個室に通された。これまた見事な料理が並ぶ。
「スゴーイ!!美味しそう!!」
絢爛豪華な料理は絵になる程の姿だ。近海で取れた海の幸がテーブルを所狭しと並んでいる。美しく並べられた刺身は立派な絵皿を透かして光っていた。そして、鍋には、カニや伊勢海老が佇んでいる。
「おいひー。おいひーよー。」
4人は、舌鼓を打った。
「そうだ!!この後、オーロラを見に行かないか!?どうせ明日も休みだ。
夜更かししても大丈夫だろ!」
ピーターが大きな声を出した。
「見たい!!オーロラ見たい!!」
エリーナが返事をした。
「ヨシ!食事の後はオーロラ探検だ!んぐ!しかし、これうめーな!!」
4人は食事を終え、部屋に戻って厚着でロビーに集合した。皆、モコモコだ。
オーロラツアーバスに乗り込んだ。
「何かワクワクするー。」
エリーナは足をバタバタさせた。バスは出発した。高く降り積もった路肩の雪が、
この地方の厳しい冬を物語っている。ブラッドはバスの中でウトウトしていた。
もう夜の11時だ。バスの揺れが心地良い・・・
「ブラッド、着いたぞ。」
ピーターに起こされて、ブラッドは目が覚めた。どれ位走ったのだろう?
腕時計は、深夜0時だ。4人は、バスを下りた。白い息が勢いよく出る。
目の前は、目を見張るような星空だ。澄んだ空気がクッキリと星々の光を通した。
その時、ツアー客達から歓声が上がった。天を仰ぐと、大きな青いカーテンが
夜空に輝き、
「オーロラ・・・初めて見た・・・」
エリーナは、ブラッドの服を掴んだ。エリーナの白い息が体にかかる。
2人の手と手が触れ合い、寒さの為か、そうでは無いのか、いつしか手を繋いだ。
エリーナの手は温かかった。4人は感動した後、バスに乗り込んだ。
「明日は、スノボに行くか?朝10時に集合って所だな。」
ブラッドの隣の席にエリーナが座った。ユラユラと揺れるバスに2人はまどろんだ。エリーナはブラッドの肩に頭を乗せ、ブラッドはエリーナの頭に自分の頭を乗せ、手を繋いだ。お互いに体温を分け与え、寒さは感じなくなった。そのままバスはゆっくりと戻った。
次の朝、ブラッドは6時に目が覚めた。ピーターはまだ寝ている。ブラッドは1人、朝風呂に行く事にした。早朝は、まだかなり寒く、一際立ち込める風呂の湯気が、前を見えなくする程だ。ブラッドは風呂に浸かりながら、街並を見ていた。
西の空はまだ夜だ。ブラッドは湯に深く浸かり冷えた体を元に戻す。露天風呂は貸切だ。ブラッドは、体を洗った後、風呂を出た。部屋に戻ると、ピーターが起きた。支度をして、朝食に向かった。
「おはよー。」
エリーナとリリアがやって来た。リリアはシャキッと起きていたが、エリーナは
フラフラとしている。寝ぐせを1つ2つ跳ね上げて、ボーっとしている。
4人は朝食を食べた。
「今、8時だな。この後、スノボに行こう。」
「うん・・・」
ピーターの声に、まだハッキリ目が冷めないエリーナは、小さく頷いた。
10時、4人はロビーに集まった。エリーナは、寝ぐせを直し、しっかりとメイクを決めている。そこは大人の女性だ。4人はバスに乗り込んだ。
「今から行くスキー場は、新しいらしいぜ。サラサラの新雪でオープン!だと。」
ピーターはパンフレットを見ながら、話している。
「私、スノボは余り経験ない・・・」
エリーナは、自信無さげに答えた。ブラッドは、スキー、スノボはソコソコ経験がある。趣味位ないとな・・・そう思って始めたスノボだ。
「大丈夫大丈夫!すぐできる様になるから!」
ピーターは笑った。バスはスキー場に辿り着いた。バスを降りると、一面が銀世界だ。キラキラと太陽を跳ね返す光景は、誰もが憧れる場所だ。まして、それが男女のレジャーとなれば、最高のシチュエーションである。ゲレンデには、最新の音楽がかかり、リゾート気分満載だ。4人はレンタル屋に向かった。
「あっ!これもカワイイ!ね!私、どっちが似合うと思う?」
エリーナは、首を傾げてブラッドに尋ねた。こーゆー時はなんて答えるのが妥当なんだろうか?確率は2分の1だ。ブラッドは、ゴクリと唾を飲み、ピンクのウェアを指差した。
「やっぱりそう思うよね!良かった!!」
正解したようだ。ブラッドは、ほっとした。4人はそれぞれグッズをレンタルし、外に出た。スノボウェアのエリーナはとても輝いて見えた。こういう女性は、
いつも遠巻きから眺めているだけだったが、すぐ手を伸ばせばそこにいる。
ブラッドは、幸せを感じていた。
「初心者は、エリーナだけか?じゃ、頼むぞブラッド、俺とリリアはリフトで上に行く。」
ピーターはそう言い、さらにブラッドの耳元で囁いた。
「いい所見せろ。今日で決めちまえ。」
ピーターは、親指を立てて立ち去った。
ブラッドとエリーナは、歩いて坂を登った。
「怖い・・・大丈夫かな・・・」
怖がるエリーナの体を支えて、ゆっくりとスノボで下る。
「キャアアー!下りてる!凄い!アハハ!キャアー!!」
エリーナは楽しそうだ。しばらく滑っていくうちに、エリーナは上達してきた。
ブラッドは、リフトで上に行ってみるか?とエリーナに聞いた。
「行く!!」
エリーナは元気よく答えた。2人は、リフトに乗った。
「高ーい!怖ーい!」
ユラユラと揺れるリフトにエリーナはブラッドにしがみついた。
リフトを下りた2人は、ゆっくりと坂を滑り降りていく。
「気持ちいいー!!」
髪を揺らしてエリーナは笑顔になった。坂を下りると、ピーターとリリアも下りてきた。
「もう昼すぎだな。飯にしようぜ!」
4人は昼食の為、食堂に向かった。そこで食べたカレーと、トン汁は、やたら美味く思えた。ゲレンデで食べるカレーは何故か美味い!皆も多分、同じ事を思っているのだろう。ガツガツと食べている。4人は昼食を終えて、また、リフトに乗った。何度も滑る内に日も陰り始めた。これで最後にしよう。エリーナとブラッドは、ゲレンデを下り始めた。
「キャツ!!」
エリーナが転んだ、さすがに疲れたのだろうか?ブラッドは手を伸ばした。
エリーナを引き上げた弾みでブラッドも転んだ。
「あっ!ごめん。重かった?アハハ!」
ブラッドの体の上に乗ったエリーナは笑った。2人は倒れたまま見つめ合った。
「また・・・口紅つけてあげよっか?」
エリーナはブラッドの口にキスをした。口の中にエリーナの甘い香りが広がる。
2人はそのまま雪の上でキスをしていた。強く抱き合い、互いの唇を求めた。
「私達・・・どうなるの・・・?ブラッドは、どうしたい・・・?」
ブラッドは思い出した。・・・そうだ、これは、ゲームの中だ。
自分は、ずっとはこの世界にはいられないのだ。2人の仲が進んだ所で、お互い
傷付くだけだろう。まさかゲームの中でこんな事になろうとは・・・
ブラッドはそう思っていた。・・・考えておく。明日から、また任務だ。
そう言って、ブラッドは、はぐらかした。
「そう・・・分かった・・・」
エリーナは立ち上がり、先にゲレンデを下りた。ブラッドもゲレンデを下りた。
レンタルを返し、バスに乗り込んだ。帰り道、
「・・・・・」
窓の外を見つめるエリーナに、ブラッドは、少し溝を感じた。だが、仕方のない事だ・・・仕方がないんだ・・・どうしようも無い・・・ブラッドは、ずっとそう
思っていた・・・
次の日、4人は朝食を済ませ、ユーラルの街を出た。シヴァ討伐の為だ。
「おーし!ここからは、気持ちを切り替えて行こう!」
ピーターは、叫んだ。・・・確かにそうだ。色々あったが、雑念は不要だ。
ブラッドは、余計な事は考えない様にした。一行は、東に進路を取った。
しばらく歩くと洞窟が見えた。入り口は凍りついている。中に入ると、
ヒヤリ、と冷気が漂った。足を踏み入れた瞬間、世界は変わった。
冷たく輝く雪の結晶が美しい。だが、これも魔物の仕業だ。進むにつれて、
気温が下がっていく。4人はジャリジャリと凍った地面を歩いた。
・・・・いた。シヴァだ。
「ウフフ・・・」
美しい女性の姿をしたモンスターは、妖しく笑った。
「皆!この姿に惑わされるな!コイツは人間を凍らせて喰う!!」
ピーターの声に身構えた!
「アヒヒヒヒヒ!!」
シヴァは、おぞましく笑いながら凍てつく暴風を巻き上げ放った!
ブラッドの体は凍傷を負い始めた!
エリーナは、暖かい魔法のカーテンでブラッドを包み込んだ!ブラッドの
体温が息を吹き返す!
「皆、コイツの弱点の炎で焼き払う!時間を稼いでくれ!」
ピーターは念じ、長い詠唱を始めた!
ブラッド、リリアはシヴァに攻撃した!固く氷のようなシヴァの体は、
攻撃を弾き返した!
エリーナは、激しく輝きを放つ光弾をシヴァに放った!シヴァの目は眩んだ!!
「ナイスだエリーナ!!さあ、出来たぜ・・・お灸を据えてやるか・・・」
ピーターの掌から、ドロドロのマグマが溢れている。
ピーターは、煮えたぎるマグマでシヴァを飲み込んだ!!
「ギャハアアアア!!!」
水蒸気を上げてシヴァは消え去った!シヴァを倒した!!
「ふうーっ!次はイフリートか。報告しておくから、このまま移動しよう。
イフリートは、レイガルの西の火山にいる。」
ピーターの指示で、火山に向かった。
一行は、火山に辿り着いた。所々で小さな煙が上がっている。
「司令の話だと、イフリートが火山を誘発させる恐れがあるんだと。」
それは危険だ。放っておくわけにはいかない。4人は洞窟内部に入り込んだ。
洞窟内部は足場が悪く、歩き辛い。眼下には、マグマが煮えたぎっていた。
「こりゃ、落ちたら一発アウトだな。気をつけろ。」
ピーターが注意を促す。
「しかし・・・暑いな・・・」
皆、汗をポタポタと落としている。ここは火山だ。マグマが著しく気温を上げている。
「そうだ!ほらよ。」
ピーターが、小さな氷を創り出して皆に配った。
「ひゃー。助かるー!」
エリーナは氷を顔に当てた。皆、ほっとした表情をしている。
しばらく歩くと、イフリートがいた。何とイフリートは、マグマをゴクゴクと飲んでいる。
「けったいな奴だぜ。こいつらの辞書に、猫舌って文字は無いな。」
ピーターは皮肉を言った。
「グルオオオオッ!!!」
こちらに気付いたイフリートは、炎を身に纏った。
エリーナは、冷たいカーテンで皆を包んだ!炎のダメージが軽減する!
「また時間を稼いでくれ!」
ピーターは詠唱を始めた。
「グオオオオオッ!!」
ブラッドは、イフリートの拳を剣で受け止めた!リリアは掌底でイフリートを突き放した!
「ゴオオオオオッ!!!」
イフリートの放った、爆炎が4人を襲う!皆、防御している!
「アチチチ!!これでも喰らえ!!」
ピーターは、氷の結晶にイフリートを閉じ込めた!
「今だ!!結晶ごと奴を打ち砕け!!」
エリーナは、魔法で結晶に振動を加えた!結晶に亀裂が入った。
ブラッドとリリアは、亀裂に攻撃を叩き込んだ!!
「パリーン!!」
結晶はイフリートごと粉々になった!イフリートを倒した!
「ヨシ!これで終わりだ!最後は、サンダードラゴンだな。サンダードラゴンは
ユーラルの街の南の草原にいるらしい。行こう!」
4人は火山を後にした。
一行は、ユーラル地方の草原を歩いていた。
「皆、大丈夫か?まだやれるか?」
連戦に、ピーターが皆に声をかけた。皆、頷いた。大丈夫そうだ。
「あ、いたぜ・・・」
サンダードラゴンは、ノシン、ノシンと近づいて来る。
「パリパリパリパリ・・・」
サンダードラゴンは口を開けた。
「マズイ!よけろ!!」
4人は飛びのいた!
「カッ!!」
閃光が4人の間を突き抜けた!
「ズドオオオオッン!!!」
後から落雷の爆音が叫ぶ!!エリーナは、水の壁を創り出した。
「この壁に絶対触らないで!!」
サンダードラゴンが放った稲妻が、水の壁に吸収されて電流が走っている!
「この野郎・・・さっさと口を開けやがれ・・・」
ピーターは何かを狙って構えている。
「パリパリパリ・・・」
サンダードラゴンが口を開いた。
「今だ!!」
ピーターは、サンダードラゴンの口に水の槍を放った!
「パァン!!」
ショートしたのか、サンダードラゴンは口から煙を出してぐらついた。
「アイツに絶対触れるな!!今は危険だ!!」
ブラッドとリリアは、衝撃波を組み合わせて撃ち込んだ!
「グウオオオッ・・・」
そのまま息絶えた。サンダードラゴンを倒した!
「ヨシ!ミルディアに帰ろう!任務終了の報告だ!」
一行はミルディアに帰還した。
「任務終了しました。」
4人は敬礼した。
「うむ。連戦で疲れたろう。明日は休日にしてくれ。では、明後日またここにきてくれ。」
4人は司令室を出た。
「なあ、明日、都合良ければ、皆、飲みに行かないか?」
ピーターが提案してきた。
「いいね!賛成!!」
エリーナは、手をパン!と叩いた。ブラッドとリリアも頷く。
「じゃあ、また明日!!」
4人はそのまま解散した。ブラッドはすぐに帰宅し、ベッドに倒れ込んだ。
余程、疲れていたのか、そのまま朝を迎えた。
ブラッドは、朝から掃除、洗濯を済ませ、買い物に出掛けた。久しぶりに
何でもない日常だ。このゆっくりとした時間に、ほっとしていた。
すぐ夕方になった。ブラッドは支度を済ませ、居酒屋に出掛けた。
エリーナが1番乗りで待っていた。大きく手を振り、パッと笑顔になった。
休日のエリーナは、また一段と美しい大人の女性だ。キラキラとアクセサリーを
輝かせている。周囲の男性も女性も、エリーナに見とれてしまうようだ。
後からピーター、そしてリリアと集まった。
「よーし、集まったな。飲むぞ~。」
意気揚々と店内に入るピーターを先頭に、4人は居酒屋に滑り込んだ。
「いらっしゃいませ~。4名様ですねー。こちらにどうぞ~。」
個室に通された。基本的にブラッドは、居酒屋が大好きだ。居酒屋特有の匂いは、
どこも変わらない。
「カンパーイ!!」
4人は元気よくグラスを鳴らした。リリアはソフトドリンクだ。
「いやー!3連戦はきつかったけど、いつもの3倍、酒がうまいわー!」
ピーターは、もう2杯目を空けた。中々の酒豪だ。
「そーそー!割と頭、使ったよねー。アハハ!」
エリーナも負けじとグラスをカラにした。テーブルの隅にある、モニターで注文している。ブラッドとリリアは急いでグラスをカラにした。
「唐揚げと、枝豆、じゃがバターと照り焼き、あ、串盛り合わせ、たこわさ、だし巻き卵、シーザーサラダ、刺身、カニみそ・・・あ、もう注文できないや、アハハ!」
「注文早いなーエリーナー。居酒屋よく来るのか?」
「うん友達とー。女子会だねー。でも胃袋は男だねー。アッハハ!」
酒を手にしたエリーナは、貫禄が出てきた。ブラッドは食べ物が並ぶのをワクワクした。テーブルは、これでもか!という位に、皿が並んだ。
「いただきゃーす!」
4人はガブガブ食べた!貪り食べるスタイルが、居酒屋のいい所だ。
「これまで色々あったよなー。ま!これからも色々あるんだろうけど!」
「そーそー!何の仕事も大変よねー。」
少々、アダルトな会話に、リリアは、ピーターとエリーナを交互に見ている。
ブラッドは、そろそろ、自分が異世界の人間である事を、皆に伝えなければ・・・
最近そう思っていた。いや、嘘をついたり、悪い事をしている訳では無い。
事実を言えばいいだけだ。しかし、何故か、喉に引っかかる。エリーナとの事も
ハッキリさせなければならない。ブラッドは、聞いて欲しい事がある。
そう口を開いた。
「ん?何だ?」
皆がブラッドに注目した。ブラッドは、自分が異世界の人間で、報奨金を得る為に、この世界に来た。そして、いつか、戻らないといけない。そう言った。
「ブハハ!ブラッド!もう酔ってんのか!?何言ってんだ!?」
ピーターは大笑いした。エリーナとリリアもつられて笑う。
・・・確かに、これが正しい反応だ。ブラッド自身、おかしな事を言っている・・・そう思えた。
「そーゆー事にしといてやるよ。でも、アッチの世界に戻る時は、ちゃんと言ってくれよ?プフフ・・・」
ピーターは、本気で取り合わない。やはり、伝わらないのだろうか?ブラッドは、それ以上、言うのをやめた。
「もー食べられないな。今日はお開きだ。」
4人は店を出た。
「じゃあ、また明日。」
4人は、解散した。ブラッドは、ミルディアの街並みを見ていた。この街から始まり、これからどこに向かうのだろう・・・ブラッドは、目を細めた・・・
「さっきは、酔ってたんでしょ?」
エリーナが声をかけて来た。
「私、ブラッドが他所の国の人でも・・・」
エリーナは、ブラッドの背中に、そっと、抱き着いた。
「ブラッドには、出来ればずっとこの国にいて欲しい・・・」
エリーナは、背中越しにブラッドの体に腕を回した。
・・・それが出来たなら、今、ここで振り返ってエリーナを抱きしめたい。
そして、この気持ちを伝えたい・・・もう、報奨金など、どうでもいい・・・
エリーナと、ずっと一緒にいたい・・・ブラッドは、心を引き裂かれるようだった。しかし、エリーナを想えば想うほど、誰かに監視されているようで、エリーナを抱きしめる事が出来なかった。ただ、エリーナの手を強く握った。エリーナも握り返してくる。だが、ブラッドは、今は何も考えられない・・・そう言った。声が少し震えた。
「ブラッド・・・・」
エリーナの悲しそうな声が聞こえた。ブラッドは、逃げる様に自室に戻り、ベッドに飛び込んだ。・・・エリーナ・・・エリーナ・・・エリーナ・・・・
愛してる・・・エリーナ。もう何度、エリーナの名前を心の中で叫んだだろう。
大人になったブラッドは、いつしか涙も出なくなった。幼い頃の様に泣いてしまえば幾らか楽になれたかもしれない。ブラッドは、こういう時はどうしていいか分からなかった。最新ゲームから、レトロゲームまでやりつくしたが、こんな事はこれまで経験がない。いや、誰かに相談した所で正しい答えなど、返せる者がいるのだろうか?ブラッドは、苦悩に耐えながら、夜を明かした。
「おはようございます!」
4人は、司令室に出頭した。ブラッドとエリーナは、お互い目を合わせる事をさけた。
「うむ。今から会議室に集まってくれ。」
司令の言葉に4人は頷いた。
「よっ!久しぶりだな!」
ベクターとルイスも会議室に着席した。
「諸君!よく集まってくれた!我々はこれより、ジルバル奪還作戦を行う!」
また、上層部の者が壇上に立った。
「以前、ジルバル捕虜救出作戦の時、モンスター共を掃討したが、エキドナの奴は、またモンスター共を従えて、体制を立て直したらしい。これでは、まさに
イタチごっこだ。この辺で、直接エキドナを叩く!」
会議室が、にわかに熱を帯びた。
「救出作戦の時と、やや同じだが、1陣にアパッチ、2陣にレオパルド、3陣に近接部隊で出撃する。近接部隊には、護衛として、銃装備の歩兵を付ける。万全の体制でエキドナと戦闘してくれ。いいか!必ずジルバルを奪還して、また人が暮らせる様にするのだ!よろしく頼むぞ!では、解散!」
4人は会議室に戻った。ベクターとルイスも司令室にいる。
「うい~しばらく見ない間に、ちょっとはマシな顔になったな、ピーター。」
ベクターはピーターをからかった。
「半人前に毛が生えたと言っているのだ。愚か者。」
ルイスはメガネを上げながら水を差す。久々のやり取りだ。
「よし。会議室で言っていたとうり、それぞれジルバルに向かってくれ。期待しているぞ。」
4人はジルバルに向かった。
「あ、あーこちらピーター、お2人とも取れますか?ドーゾ?」
{こちらベクターだ。上空で待機!}
{こちらルイス!待機中だ。}
3人が無線を飛ばす。
{昨日、パチンコで全部やられたからな。腹いせといきますか。}
{またか!ベクター。貯金をしろと言っているのだ!}
「カカカン!」
{あっ!!ベクター!貴様ァ!今、撃ったな!!今、撃っただろ!!}
{ワーリーィ!手元が狂った!ヒッヒヒ!・・・あっ!こらバカ!!砲身こっちに向けんなルイス!!}
{サッサと撃墜されて来い!!愚か者め!!}
{やれやれー。バカ犬が吠えるから行きますか。245回目の婚活に行ってくる!!}
{まだ236回目だ!!愚か者!!}
ベクターは、ジルバルに向かった。
{こちらベクター。いるよいるよウジャウジャと。よーし!近づくなよー。}
「ガゴゴゴゴゴゴ・・・」
アパッチの攻撃が始まった。
{ベクターだ!上空で待機する!次は頼む!婚活マン!!}
{変な名で呼ぶな!!}
「ドガアアアアン!!!}
レオパルドが攻撃する。
{ピーター!出ろ!!}
「了解!!3陣、出ます!!」
4人はジルバルに突入した!歩兵も脇を固める。
「タタタタン!タタタタン!」
歩兵の銃撃が壁を創る。・・・いた、エキドナだ。
「ヒャハハハアアア!!」
エキドナが現れた!!
「俺達も強くなっているんだ!勝てるはずだ!!」
ピーターが叫ぶ!
ブラッドは、バスタードソードを両手に構え、渾身の力で振り抜いた!!
リリアは、気を全身に巡らせ、強烈な波動掌底を撃ち込んだ!!
ピーターは、凄まじい稲妻を呼び寄せ、稲光を上げて落雷させた!!
エリーナは、肉体を破壊させる重圧球で、地面ごと押し潰した!!
「ガハアアアアア!!!」
エキドナがよろめいた。
「よし!いけるぞ!!」
皆、勝利を確信した。だがそれは、油断であった。
「ヒャヒヒヒヒィー!!!」
エキドナがエリーナに襲いかかった!エリーナの脳天目掛けて、牙を向けた!
ブラッドは、エリーナに手を伸ばした!・・・届かない・・・まるで、スローモーションの様に、エリーナに危険が及んだ。
「ウガァ!!」
何かがエリーナの盾になった。何だ?
「アナタ・・・・」
エリーナが声を出した。盾になったのは・・・ゴーレムだ。以前、鍾乳洞でエリーナが回復した、ゴーレムだった。
「ウガアアア!!」
ゴーレムは、エキドナを殴り飛ばした!さらに襲い掛かる!
「ヒャハアアア!!」
エキドナは、口から濃硫酸を吐き出し、ゴーレムの体を打ち抜いた!!
ゴーレムはエリーナを見ながら、倒れ込んだ。
「ああっ!今、回復を!!」
エリーナがそう言ったが、ゴーレムは首を振った。その顔は微笑んだ様だった。
「ガラガラ・・・・」
ゴーレムは崩れ去り、元の石の塊に戻った。
「ありがとう・・・エキドナ!!許さない!!」
エリーナは、ほとばしるプラズマ球を創り出し、撃ち放った!!エキドナの血液が煮えたぎる!!
「ギャアアアアア!!!」
エキドナは絶叫した!ブラッドは、剣でエキドナの心臓を貫いた!!エキドナを倒した!!
「こちらピーター!目標、撃破しました!!」
{やったな!!金星だ!!}
{フン!これだけお膳立てしたんだ。まあ、よくやったといっておこう。}
ブラッドのバスタードソードは折れてしまったが、皆、勝利に喜んだ。エリーナは、ゴーレムの破片を1つポケットにしまった。ジルバルも、やがて人が住み、
元の姿を取り戻すだろう。皆、帰還した。
「任務終了しました。」
4人は敬礼した。
「よくやったな、お前達、ジルバルは復興が始まるぞ。」
司令は戦果を労った。
「しかし、これまで、よく戦ってきてくれた。この世界は、平和になりつつある・・・」
司令は、目を細めた。その時、司令室の電話が鳴った。
「はい・・・はい・・・何ですと!?分かりました!!すぐに!!」
司令が血相を変えた。
「テレビをつけてくれ!!」
司令の声に、ピーターはテレビをつけた。
「こちら現場です!レイガルは大変な惨劇が起きています!!」
テレビレポーターがライブ中継を報じていた。
「レイガル上空に巨大なドラゴンが現れ、首都を壊滅に追い込みました!そのままドラゴンは飛び去りましたが、レイガルにはモンスターが押し寄せています!!
大変危険な為、これで我々は退避します!!あっ!!モンスターが来・・・ザザー・・・」
中継は、そこで途絶えた。
「皆、見たな!?急いでレイガルに向かってくれ!ブラッド!剣が無いんだな!?
これを持っていけ!!」
ブラッドは、司令からファルシオンを受け取った。4人は、すぐさまレイガルに向かった。
「ヒドイ・・・」
レイガルに着いた一行は、惨状を目の当たりにした。破壊された街並みや、おびただしい血痕が、生々しく惨劇を物語った。
「ギエエエエッツ!!」
レイガルに攻め込んだモンスターが4人に襲い掛かった!
「とりあえずモンスターを掃討するんだ!!」
ブラッド達は、武器を構えてモンスター達を倒して回った。
「あらかた片付いたな。・・・ブラッド、また剣が折れたのか・・・もう、市販レベルの装備じゃ、太刀打ちできなくなってきてるんだな・・・」
ピーターの声に、ブラッドは頷いた。4人は、レイガルの人々を救助して回った。
「空にドラゴンが現れて、東の方に飛んで行ったんだ!!」
ケガをした人が、そう言った。また、新たな強敵が現れた・・・4人は、大きな戦いを予感した。一行はミルディアに戻った。
「また、大変な事が起きたな・・・」
司令は苦い顔をした。
「レイガルに現れたドラゴンは、ブリトラだ。長い眠りから目覚めたのだろう。古い文献には、最悪の悪竜とある。奴はただ、破壊と殺戮を好む邪神だ。打つ手は・・・・クソッ!!何かないか・・・・」
司令が頭を抱える。レイガルを襲ったモンスターにすら、武器が壊れてしまう始末だ。このままでは勝ち目が無い。
「司令・・・その文献なら、読んだ事があります・・・」
ピーターが口を開いた。
「子供の時に、家にあった本ですが、祖父とよく読んでいました。祖父が言うには、ブリトラが目覚めたら、すぐ近くに安置された剣で倒せと・・・・何回も言い聞かされたので、完全に覚えています。その剣がある場所は、レイガルの北に印がしてありました。」
司令が顔を上げた。
「レイガルの北・・・そこは、放置された祠があったな!無意味な場所だと思っていたが・・・良し!その祠に向かってくれ!我々は、ブリトラの情報を探っておく!」
4人は頷き、祠に向かった。
4人はレイガルから北に進路を取った。進んでいくと、荒れ果てた祠が見えた。
「あれだな、よし、入ろう。」
ピーターを先頭に、一行は地下へと進んだ。内部は大分、埃が舞っている。
ブラッドは口を抑えた。さらに進んで行くと、台座が現れた。その台座の上には、
鉄の塊が置いてある。・・・ただの錆びた鉄の塊だ。これまで何人もこの祠に侵入してきたのだろうが、この何の価値もない、ただの鉄の塊が放置されているのは、
無価値だからだろう。
「何だこれ?これ、剣じゃないだろ・・・じーさん、ぼけてたのか?」
ピーターは呆れ返っていた。ブラッドは、鉄の塊に手を置いた。
「カアァァァァァ!!!」
何と、鉄の塊は輝き始め、見事な刀身を誇る剣に姿を変えた!ブリトラが現れた今、抗う者の存在を誇示しているかの様だった。眩しく輝くその剣を、ブラッドは、高く掲げた!
「すげえ!!その剣・・・アロンダイトだ!まさに文献に載ってた剣だ!じーさんの言葉、正しかったんだ!じーさん、ありがとう!!」
ピーターは、天に向かって感謝した。ブラッドは、アロンダイトを鞘に納めた。
「これで戦えるな!」
4人は、帰還した。
「アロンダイトの剣を入手しました!」
4人は報告した。
「うむ。その剣に期待しよう。では、会議室に集まってくれ。」
4人は会議室に着席した。ベクター、ルイスもいる。
「これより、軍はブリトラ討伐作戦を行う!奴はとんでもない強敵だ!この戦いは、ミリザリアの存亡が掛かっている!全戦力を以って討ちに行く!!」
上層部が決意を露わにする。恐らく、これが最後の戦いになるだろう。
「アパッチ部隊、レオパルド部隊、空と陸の戦力はブリトラを囲む陣形を取ってくれ。アパッチ部隊の指揮はベクター、レオパルド部隊の指揮はルイス、各、隊長となって部隊を動かしてくれ。」
ベクターとルイスは頷く。
「近接戦闘部隊は待機後、様子を見て、突撃してくれ。恐らく、ブリトラには銃火器は通用しない。近接攻撃に頼るしかない・・・危険な任務だが、やってくれるな?」
4人も頷いた。
「よし・・・皆、必ず勝って、またここで勝利を祝おうじゃないか!!皆、ワシを残して、3階級特進なぞ、絶対に許さんぞ!!ワシを追い抜こうなど、千年早い!
いいな、絶対に・・・・」
上層部はその言葉で声を詰まらせた。こみ上げる思いがあるのだろう。司令も目を閉じ、天を仰いだ。
「武運を祈る!!では、解散!!」
4人と、ベクター、ルイスは司令室に戻った。
「皆、よく顔を見せてくれ・・・」
司令は皆の顔を眺めた。
「ブラッド、ピーター、リリア、エリーナ、ベクター、ルイス、ここまで本当によくやってくれた・・・お前達は、私の誇りだ・・・」
司令は涙を浮かべた。
「止めてくださいよ!!縁起でもない・・・グスッ・・・」
ピーターも涙ぐんだ。
「・・・・そうだな。皆、必ず、また元気な顔を見せてくれ・・・では・・・健闘を祈る!!」
司令は敬礼した。皆も敬礼を返す。そして、皆は司令室を出た。
「あ、あー。皆さん、取れますか?」
ピーターが無線を飛ばす。
{ベクターだ。待機中。}
{ルイスだ。同じく。}
神妙な面持ちなのか、2人は言葉が少ない。
「やだなあ、いつも通りでいいんじゃないですか?」
{そうだな・・・昨日は、ようやくパチンコで勝ったんだ。このまま死ねないな。}
{何だ、ベクター、勝ったのか?珍しいな。}
{買った金で飲みにでも行くか?ルイス。おごってやるぜ?}
{私は貯金がある!おごらなくていい!・・・だが、まあ・・・たまには、いいかな。婚活ばかりでは、気がもたんからな・・・}
{キマリだな!よし!パチンコで、もうひと稼ぎと行くか!}
{それじゃ、また全部無くなるだろ!結局、また私がおごるのか!?}
{そんときは頼むよー。困った時はお互い様だろ?}
{私は困らん!!ったく、生き残ってから考えろ!}
{そーしますか。じゃ、アパッチ部隊、出る!!}
{同じく、レオパルド部隊、出る!!}
空と陸の両部隊はブリトラに突撃した。モンスター達が立ちはだかる!
「ゴゴゴゴゴゴゴ・・・」
凄まじい爆撃がモンスターを襲う!
{こちらベクター!ブリトラ発見!!攻撃する!」
{こちらルイス、同じく攻撃する!}
アパッチ部隊は上から、レオパルド部隊は離れた所から攻撃した。おびただしい弾がブリトラを襲う!ブリトラは攻撃を受けながら、空へ向かって、光を放った!!
アパッチ部隊は炎を上げて墜落している!
{ベクターだ・・・ダメだ!脱出・・・ザザー・・・}
「ベクターさん!!」
{ベクター!!くそ!全車砲撃!!}
レオパルド部隊がブリトラを砲撃する!しかし、ブリトラはレオパルド部隊を薙ぎ払った!!
{こちらルイス・・・戦車隊は壊滅・・・ピーター、後は頼ん・・・}
「ルイスさん!くそ!皆!行こう!!」
4人は走った!巨大な悪竜が吠えた!ブリトラが現れた!
「最後の戦いだ!!絶対負けれれねえ!」
ピーターが叫ぶ。皆、武器を構えた!
ピーターは、炎熱の業火で辺りを焼き尽くし、天をも焦がす大火を放った!!
リリアは、万物を打ち砕く怪力で打撃を繰り出し、大地を粉砕した!!
エリーナは、宇宙空間から大隕石を引き落とし、灼熱の猛火球を降らせた!!
ブラッドは、アロンダイトを掲げて念じ、荒れ狂うハリケーンで全てをなぎ倒した!!
「ギャアアアアン!!!」
ブリトラが咆哮を上げた!!
ブリトラは、大きく開いた口から、鋭い光を放った!一瞬にして遥か先の山々まで吹き飛ばし、眼前の生物を圧倒する!!
「グハアアアアッッ!!!」
ピーター達は、致命傷を負った!!
「皆、立ち上がって!!」
エリーナは、膝をつきながらも、天女の様に暖かい光を皆に分け与えた!!
4人は立ち上がった!
「力を一つにするんだ!!」
ピーターの声に皆は全ての力を集めた!!ミリザリアを想う4人の気持ちを一つの光に集約し、命ある者の息吹を呼び集めた!!その光の球は脈々と鼓動する!!
ブラッドが叫んだ!!
「ファミコン世代を舐めるなよ!!ガンガンいこうじゃないか!!!」
「行けええぇぇぇぇぇー!!!!」
4人は息吹の球を撃った!!凄まじい破壊の衝撃が大陸を激しく揺さぶった!!
「グギャアアアア!!!」
ブリトラは耳を衝くばかりに吠え、倒れ込んだ。
「・・・・終わったのか・・・?はは・・・もう立てねえよ・・・」
ピーターも皆も力尽き、へたり込む。だが、
「グルルルル・・・・」
ブリトラはまだ生きていた。力無くブルブルと口を開いた。
「ダメだ・・・もう、ダメだ・・・・」
力尽きた4人は、立ち上がれない。ブラッドも、うなだれて下を向いた。
その時、アロンダイトが鈍い光を纏い浮き上がった。
「何だ?何をする気だ・・・?」
ピーターが呆けてアロンダイトを眺めた。アロンダイトは見る見る輝きを増し、
熱く輝いている。
「カアアッッッ!!」
ブリトラは、口から閃光を放った!アロンダイトはその閃光までも取り込んでさらに、直視できない程に輝く!!
「ウギャアアァァァァァ・・・・・」
アロンダイトの輝きは、ブリトラを包み込んだ!アロンダイトは、ブリトラを封印し、また、鉄の塊に戻った。
「・・・やった・・・ブリトラが消えた・・・・やった!!勝ったんだ!!!」
ピーターが大の字になって叫んだ!
「もう、ダメだと思った・・・」
リリアは力無く、ほっとしている。ブリトラを追い詰めた事で、アロンダイトは封印する事が出来たのだろう。また、ブリトラが封印を解いた時、アロンダイトはその姿を現すだろう。その時まで、大切に保管し、後世まで伝えなくてはならない。
時代を超えて、この戦いは繰り返される。だが、その度に勝つのは人間だ。
「やったな・・・」
ベクターとルイスは、支え合ってやって来た。皆、ボロボロだ。
「ほら、迎えが来たぜ・・・」
パラパラと音を立てて、ヘリが近づいてきた。
「帰ろう。ミルディアに・・・・」
皆でヘリに手を振った。
「感無量だ!!!乾杯!!!」
上層部の声に、皆、グラスを掲げた!軍では、大祝勝パーティーが行われた!
「よくやってくれた!!よく勝った!!!」
ブラッドは、上層部に固い握手を求められ、痛いくらいに腕を振られた。
「よくぞ・・・よくぞ・・・ううう~・・・うおお~・・・」
酒の入った士官は、涙やら鼻水やらヨダレやらでグズグズだ。ブラッドの腕は、ビチョビチョになった。困ったブラッドは、外に出て腕を洗った。外に出たブラッドは、ミルディアの街を見ていた。最後の敵を倒したブラッドには、あと少ししか、
この世界にいる事が出来ない。2日間の猶予というのは、プレイヤーに与えられた温情だろう。ブラッドは、ミルディアの街並みを目に焼き付けておきたかった。夜の海に浮かぶ船の光が美しい。
「ミルディアは、良い所だったでしょう?」
ブラッドは、その声に振り向いた。エリーナがいた。エリーナは、ブラッドの隣で潮風に当たる。
「ブラッドが異世界の人だというのは、本当だったのね・・・今のブラッドを見たら、誰でも分かるよ・・・」
確かに、地元の人間なら、街並みを見て回る事はしない。
「ブラッド・・・・」
エリーナの顔が崩れ始めた。耐えきれないのだろう。ブラッドは、エリーナを抱き寄せた。ラスボスを倒した今なら、許される事だろう。
「エリーナ・・・愛してる・・・」
やっと言えた。ようやく口にする事ができた。
「私も・・・ブラッド・・・愛してる・・・」
2人は、どちらともなく、唇を寄せた。
「んん・・・は・・・んん・・・ブラッド・・・んん・・・・」
2人の熱が、吐息を交わすたびに体温を増した。本来なら気持ちが通じ合った場合、幸福の極みだが、2人は、愛してるという言葉は、別れだという事を悟っていた。
「お願いブラッド・・・このままじゃ・・・悲しすぎる・・・」
2人は、夜の街並みに消え去った・・・・2人が辿り着いたどこかの一室、ブラッドとエリーナは、抱き合い、消えていきそうな関係を留めている。2人の汗は、
キラキラと美しく光る。エリーナの汗とは別に、他の雫が落ちて来た。消えてしまうのを避けられないブラッドを嘆き、涙していた。エリーナの涙を見たブラッドも、つられて、ようやく涙する事ができた。何度も、何度も、愛してると言い合い、残された時間が経過するのを憎い程惜しんだ。2人は疲れ果て、抱き合って眠りについた。そして、夜が明けた・・・・
「もう、戻ってしまうのか?」
4人は、ミルディアの防波堤にいる。釣り人達が、竿を投げている。あれから、ブラッドは、知人に挨拶して回ったり、司令に辞表届を出したりと、身辺整理も終わった。
「絶対、また、ミリザリアに来てね。」
リリアが珍しく、悲しそうな表情をした。ピーターとリリアは、メールを交わしているらしい。後、4,5年もすれば、周りも公認の仲になるだろう。
「また、俺達に会いに来てくれよな!」
ピーターが親指を立てた。ブラッドは頷いた。また、この仲間に会いに来よう。
心に強く刻んだ。
「ブラッド・・・本当に、色々ありがとう・・・また会えるって信じてる・・・」
エリーナは、悲しそうだが、微笑んでいる。
10・・・9・・・8・・・
ブラッドの頭上にカウントダウンの数字が現れた。皆には見えていないだろう。
7・・・6・・・5・・・
「俺達は、最強のパーティーだ!誰1人、欠けちゃいけねえよ!」
ピーターが、ニッ!と笑う。
4・・・3・・・2・・・
「ブラッド!会いに来てね!」
エリーナの、元気な声が、最後に聞けた。ブラッドは、笑って頷いた。
1・・・0。
ブラッドは、この世界から消え去った・・・・
「お疲れ様でした。」
ブラッドは目を開けた。そこには、政府のウィリアムがいる。
「おめでとうございます。ゲームクリアです!ブラッドさんのお陰で、街の停電が復旧しました!」
ブラッドは窓の外を見た。いつも通りの世界がそこにある。ブラッドのヒゲは、少し伸びていた。日にちの経過にして2、3日という所か。ゲームクリアに必要な、
5、60時間だろう。何の事もない、いつもの事だ。
「ゲームの中で、覚えている事はありますか?」
ブラッドは、首を振った。本当に何も覚えていない。ただ、寝て起きたら報奨金が振り込まれている。こんないい話は無い。
「ウイルスは他にもまだまだ存在します。ぜひまた来てください!お願いします!」
ゲームクリアの実績があるブラッドだ。これから丁重に扱われるだろう。
ブラッドはまた来ると言い、街に出た。やたらと太陽が眩しく思えた。ゲームの中では、何が起きていたのだろうか?せっかくクリアしたのなら、達成感だけでも味わいたいものだ・・・ブラッドは、伸びたヒゲを触りながら、自宅に戻って歩いていた・・・・
続く。
短編ドラマシリーズ「ゲーマー・サバイバル物語」 溶融太郎 @382964
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