ラブコメ主人公に俺はなりたい
別れを告げた後、俺たちは各々の家に帰った、訳ではなく.......
「君たち!大丈夫か!」
あの戦いで銃弾を喰らった俺たちは、警察官の通報のもと、救急車によって運ばれ、最寄りの病院で集中治療を受けた。
ゆうかやかなえはというと、一晩の間に警察から取り調べを受けた。
かなえの不正な借金も無くなったらしい。
そして今、俺とトモキは、警察の事情聴取もあり、2人だけの病室で、傷が塞がるまで入院することになった。
眩しい朝日が包み込む部屋の中で、俺たちは朝食を食べていた。
「病院の食事も、なかなか悪くないな」
俺の意見にトモキが反応する。
「ああ、でも早く親の飯を食いたい気持ちもあるなぁ」
「どっちが先に治るか勝負しようぜ」
「ヤマト、お前の方が傷が深いからな?」
「やっぱやめとく.......」
そんな呑気な会話をしていると、扉からコンコン、とノックが聞こえた。
うむ、2回のノックはトイレの確認なのだが。
「失礼します」
「えっ」
思わず声が出た。かなえかなとも、ゆうかかなとも思っていた俺の予想を見事に裏切り、あの毒舌後輩、山岸みなみが入ってきた。
「ヤマト先輩.......」
「なんだ?また覇気がないとか、顔が薄いとか、目が死んでるとか言うんじゃないだろうな」
「冗談はやめてください、今日は先日の事を謝りに来たんです。先生に聞いたら、病院に運ばれたって言うものですから、学校に行く前に来ました」
「お前ってそんないい子だっけ!?」
「なんですか!へえ、いがーい、みたいな顔して!」
オーバーサイズな制服を着ながら照れてるこいつは少し可愛かった。しかしそこではない。
いつもはこんなに優しいのな、お前。
「だから、これ」
なみえは、フルーツの詰め合わせを、俺とトモキのベッドの間にあったテーブルに置いた。
「トモキ先輩もお大事になさってください。そしてヤマト先輩、あなたのアホズラを見ないと学校で元気でないです、早く治してくださいね」
そう言うと、なみえは学校カバンを持って、静かに部屋を出ていった。
人に心配されたのはいつぶりだろうかと、過去の記憶を探る。
あれ、親の顔しか出てこないや、うん。
────夕方になり.......
学校終わりと見られる、かなえとゆうかがやってきた。
かなえは深くお辞儀して。
「昨日は本当にありがとう、あのままだったら私、いまどうなってたか分からない.......」
「謝らなくたっていいさ、俺たちだって、自分たちの力だけでかなえを救えた訳じゃない、協力しなかったら今は無かった」
トモキが宥める。
そして俺も同意した。
「そうだ、助けるのに理由は要らない、だって、俺たちは仲間だろ?」
後付け感が否めないが、これが俺の本物の気持ちだ。
「そうだよ、かなえ」
ゆうかも言ってくれた。
俺はこの情景を見て、心の中である思いが固まった。
俺は今までこんなに素晴らしい仲間を作れていただろうか。
この学校に来なければ会えなかった仲間。
あの登校のとき、二人で歩いた帰り道、海に行ったとき、そして幾度となく乗り越えた困難.......
あの一瞬一瞬、その全てが、糸となり、この鮮やかに彩られた布を織り成したのだ────
もう.......迷うことはない。
「俺決めたよ、やっと見つけたよ」
俺は見つけた。足元にあったこの場所を。
ラブコメ主人公のあるべき場所を。
「俺は一つ、約束していたな」
「新学期の屋上の約束だよな?」
「ああ、でもこの考えは身勝手かもしれない。他のみんなも巻き込む、俺だけの考え方」
ただ一人に決められたストーリーを、一人のヤツがなぞり続ける。
その一本の糸に、ほかの糸が絡まりあって───
「俺は、ここに居たい。ここが恋だと信じる。どんな形であろうと、今の俺たちの関係は、他のものとは似もつかない、でもみんながそれぞれしっかり、恋してる!だから俺は、この場所に居たい」
調和を保つ為に、調和を乱す。
救うために救わない。
真逆に見えて、それらは全て表裏で繋がっていると俺は信じる。だから.......
「私はね、それでいいよ。だって、恋してる自分、すごい好きだから」
「ゆうか.......」
「俺もそれでいい、むしろそれがいい。大切なものは大事にしておきたいから。でも、この形は、脆くてすぐ割れて壊れるだろう。でも俺は今の状態を楽しむ、ヤマト、お前と一緒だ」
「トモキ.......」
「恋って本当に何かわからない。目に見えないし、掴めないもの。でも、だからこそ、それぞれの人とか、関係によって、形を大きく変えたり、変化したりするものだと思う。でも、諦めてないわよ、この環境が好きだけど、もっといい環境にもできるじゃない?こうやって考えてるときも、ヤマトの大好きな関係が結局続くんだけどね」
かなえは笑った。照れ隠しの笑いにも見える。
正解なんてどこにもない、だから面白い、楽しい。
俺がラブコメ主人公になれたのかも分からない。
でも、それもまた概念であって、今君がどう思うかで、無限大にパターンを持ちながら形を変える.......
だから、ただひたすらに目指し、考え続けるんだ。
ラブコメ主人公に俺はなりたい!と。
ラブコメ主人公に俺はなりたい! @amane0655
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます