隠されたもの
灰の雪が降っていた。
玲瓏山の半ばに、力尽きて倒れ伏した肢体があった。
「愚かよの。結局そなたは殺される。愛して、愛して、……愛してやまぬ者たちに」
柴宿は穏やかに目尻に皺をよせる。
「こなたの手をとれば、かようなことにはならなかった」
皮肉げに、吐き捨てるように憐花は彼を睨んだ。
「お許しください。やはりひとは、ひとの手で救わねば」
優しく落ち着いたその声に、憐花は嘲笑うように口を歪める。
「結果はどうじゃ?そなたは結局なにもできぬまま死ぬであろ」
「そうでしょうか」
柴宿は微笑んだ。優しく、限りなく優しかった。
「そなた、」
憐花はぴくりと瞼を震わせた。
「それほどか。こなたを拒んで、振り切って。それほど……」
柴宿は何も答えなかった。
何もかも、知っている表情だった。
憐花が愛して、同時に畏れたもの。
浅ましく、貪欲で、それでいて美しいもの。
「大切なものです。貴女もでしょう?」
それでも信じ、愛しているのだと。
柴宿は微かに笑んだ。
灰の雪が積もる。
雪は、すべてを覆い隠した。
雪の下には、雪椿が一輪、寄り添うように落ちていた。
天の微笑 ぴのっ @pinosuke
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