第41話彼女とこれからと


 自分の道。


 ただそれを信じるだけだ。


 と、そう思った。




 自分だけの騎士道。




 疲れたな、とアンは思った。



















 崩れそうな城からふらふらと現れた、壊れかけた白銀の鎧を見て、リーゼリットは目を丸くした。


 その鎧は見たこともなかったが、その立ち姿は紛れもなく見知った騎士のものであった。




「……アン殿?」




 割れた兜から見えるのは、紛れもなく彼女の顔であった。




「……リーゼリット……」




 視線を向け、その背に負われたシルヴィアを見て、アンの瞳が小さく弧を描いた。




「よかった――」




 気が抜けたのだろう。


 当初の目的を達成したことに。少なくとも、自分が誰かを助けられたことに。


 ほっとした。




 リーゼリットの目の前で、彼女は崩れ落ちる。


 安堵のまま、眠りに落ちたのだ。



















 夢を見た。


 騎士として、人々を助ける夢だ。


 笑顔で、ありがとう、と言ってもらえる夢だ。




 それはきっと、幼い頃に夢見た騎士の姿。




 きっと、これから慣れる自分の姿。


 なりたかった自分に、ようやく手が届いた。



















 それから――




 戦後処理等含め、様々なことがあった。


 ガレス帝国を失い、人類は勢いを失った。


 元々拮抗していた戦力は崩れた。


 目の前にあるのは絶望であり、明日への希望を失った。




 失ってばかりの戦いの中で、掴めたものは少ない。


 魔王軍の進軍は続いているし、人々の生活は脅かされている。


 未来は絶望である。




 だけどそれでも、光を失っていない。




 どうにかしようと前へと進もうとする人はいるのだ。 


 笑顔を求めて、希望を作る。




 これはきっと、そんな騎士の始まりの物語。


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人見知りの暗黒騎士さんは魔王軍をリストラされたので、今度は自分に素直に生きてみる 鉛空 叶 @kanae

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