フクロウ・マン

くら智一

第1話

「へへへ……お嬢ちゃん、観念しろや」

「いや、やめて」

 袋小路の闇の中、数人の男たちがワンピースの肩元のはだけた少女を取り囲んでいた。

「じっとしてりゃあ、痛くしないんだよ。いっしょに楽しもうぜ」

「だ、誰か……」


 男たちの後ろの風景がゆがんだ。


「ん? 何か気配がしたな」

「おい、お楽しみタイムなんだ。気味悪いことを言うなよ」

「……でもよ、最近聞くじゃねえか、夜に出没する鳥のような男がいるって」

「おい、茶来男! こちらは4人だぜ。今さら怖気づいてんじゃねぇって……じゃあ、お譲ちゃん。続きをしようか」

ヒゲに覆われた醜悪な顔が三日月のようなニヤケ笑いを浮かべた。


「うわっ」

「……ん? どうした」

「…………」


「ネズミ、茶来男はどこいった……」

「それがですね。後ろの暗闇に引っ張られるように消えてしまったんでゲス」


「……おいっ! 茶来男いい加減にしろ、漫画のヒーローみたいにコウモリ男が登場するわけがないだろうっ!」

「…………」

「ん? 誰かいるのか?」


 ヒゲ面の目の前には闇が広がるだけだった。

「ネズミ、見て来い。王我は女を見張ってろ」

「はいでゲス」「ウス」

 ネズミが暗闇の中を一歩一歩、進んでいった。


「へ……キャビっ!」

ドサッ……


「なんだ!?」

【お前も聞いたことがあるだろう、闇夜には背後に気をつけろ、とな】


 暗闇から全身黒尽くめの男が姿を現した。


「なんだ、テメェ。コウモリヒーローのつもりかよ。デブのおっさんじゃねぇか!」

【失礼な卑劣漢め。かよわき少女を離し、早々に立ち去れっ!】


「やめろと言われてやめるやつがいるかっ! こっちには元格闘家の王我がいるんだぞ。お前の方こそふん捕まえて、明日の朝刊の見出しにしてやるわっ」


「ウス……」


 2メートルはあろうかという巨体を獣のように俊敏に動かして王我と呼ばれた男が黒ずくめのメタボ体型目指して飛び掛った。


【忠告はした。実力行使だ】

 中背のブラックコスチュームのマントがはためくと、至近に迫った大男の腕をつかみ、柔道の1本背負いで背後に投げ飛ばした。


「こ、この野郎っ!」

 ヒゲの悪漢がサバイバルナイフを懐から取り出し、太ったアメコミじみた男へ向かって跳んだ。

「ふげっ!」


 悪漢の手は絡めとられ、手とうでナイフと叩き落とされた。

【馬鹿なやつだ。眠っていてもらおう】


ガスッ


「…………」


「あ、あなたは……」

【名乗るほどではない。私はあの有名なアメコミヒーローだ】


コスチュームの下から腹がぶるんっと揺れた。


「その姿は……フクロウさん!」

【違う】


「ううんっ! 知ってるの。その憎めない太っちょさんはフクロウさんだわ」

【違う】


 何も違わなかった。翌日、新聞には『フクロウマン』現る、との見出しが載った。


 


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フクロウ・マン くら智一 @kura_tomokazu

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