空の王

犬派です

打ち捨てられた先で手に入れたものは

 世の中には何とも不条理が溢れている。


 ―――スキル


 それが人か人じゃない物を区別する物差しだった。


 優れたスキル。たとえば聖騎士や聖女、賢者などその道のエキスパートをえることが出来れば一生が安泰する。槍術や剣術など一般的なものであれば兵士や冒険者として名を上げる事も夢見ることが出来る。


 他にも解明されていないスキルが多少あるが有益なものは出尽くしていると。わからなければそれまで。


 スキル名無し。それは人を否定する言葉だった。俺はそうやって育った。


 スキルをもたないと分かると両親から捨てられた。あとは解読不能だったらしい。有益じゃない物と判断された俺は貴族ではなくなり、同時に人としても扱われることがなくなった。


 どうやって食べて行けばいいかもわからず彷徨うと似たような境遇の子は大勢いた。みんなで協力し盗んで必死に生きた。スキルのない子供たちで集まって協力しながら生きてきた。


 そんな生活に唐突に終わりが告げられる。奴隷狩りだ。


 孤児は簡単に手に入るリソースだ。元手がなくても攫えば金になる。意地汚い大人に連れられ奴隷にされた。もはやこの世には希望がないと思っていた。


 たまたまサーカスの団長を名乗る男が来た。何でも位置から鍛え、実力が付けば奴隷から解放するらしい。必死にアピールし俺はそれを掴むことが出来た。唯一の幸運だったろう

 、それが本当であれば。


 真実はどうであれご飯は沢山食べることが出来た。体の鍛え方も教えてもらい軽業師見習いになることが出来た。体を鍛え道具を作り、普通の人が出来なさそうな事を気が付けば出来るようになっていた。


 10mも高い壁を登ったり、三階建ての建物から降りても無傷で済む。


 ああ、この軽業師は転職かもしれないと思っていた。


 するとある日突然団長に呼び出された。


「お前を開放する。それから君を雇いたいのだけれどどうだろうか? 」


 人以下の奴隷となって10年経っただろうか。初めて嬉し泣きをした。そしてこの人を信用してもいいのだと思った。


 改めてサーカス団に就職した俺は奇妙な出会いをする。それは何かに呼ばれているようだった。


 呼ばれた先に行くとオウムがいた。サーカスで飼育している芸達者なオウムだった。


「ヤットキタ! ヤットキタ! 」

「何だ、俺暇じゃないんだぞ」


 奴隷時代では関われなかったそいつは俺を知っているようだった。


「マッテタ! マッテタ! 」


 まあ話せるといっても鳥だしな。オウムだから意味のあることは話さないだろうと思った。付き合ってる俺自身もばかばかしかった。


「我らの王よ、待っていた」


 身の毛がよだつとはまさにこのことだっただろう。目の前のオウムがいきなり平坦な声で話し始めたのだ。


「夜中、家の外でお待ちくだされ」

「どうゆう意味だ? 」

「マッテル! マッテル! 」


 謎を残したまま夜を迎える。今まで稼いできたお金を団長はしっかりと計算していたらしく、宿をとって寝ていた。奴隷上がりにはどうしていいかわからなかったが、柔らかいベッドは優しく体を包んでくれた。


 飲んだくれどもも静かになった夜外へ出た。


 当たり一面真っ暗だし、ランプの明かりすら見えない。だけど不思議と夜目が効いた。

 どこからともなく鳥の羽ばたく音が聞こえる。夜目の聞く自分ならその姿がわかってしまった。



 それは3mにもなるほどの大きなフクロウであった。



「我らが王、空の王よ。ようやくお会いすることが出来た」


 そのフクロウは話すことが出来た。


 曰く、空を飛ぶものの全てと意思疎通可能で従えることが出来る。空を飛ぶものの身体機能を一部自分の物にできる、そんな強力なスキルだった。


「俺が? そうなのか? 」

「間違いありません。我々と会話できることがその証。それに今夜目も効くでしょう」


 たしかに夜目が効いた。いつごろからだろうか、身軽になったのは。普通の人間にはとてもできる事じゃないのに。体を鍛えたからだと思っていた。いや、実際はもっと出来る。道具も使わずになんだってできるのだ。羽のように体が感じる事があった。


「思い返せば団長が引きとめたのもそのおかげか」

「左様。その力があれば何でもできましょう。文字通り王にでも」

「王に? 」

「確かに騎士や魔法使いなど非常に強力でしょう。ですが空にいますし数も人間より多い」

「それでも人には勝てないだろう」

「我々は視覚や聴覚まで全てあなた様と共有できるのです。一人がすべての鳥を操れるとしたら? 」

「いや、駄目だ。俺は元貴族だったけどそんなクソみたいな世界には戻りたくない。たとえ王になれるとも」

「なれば宝の持ち腐れとなりますか? 」

「いや、俺は……」





 ―――夜の帳が落ちた頃。ある日を境に義賊が現れるようになったそうだ。


 鳥のように空を架け、耳も良く、体のいたるところに目がついているような動きが出来るそうだ。


 近くにはいつも「ホーホー」とフクロウの鳴き声が聞こえると。




 ―――世の中は不条理であふれている。スキルで人を判別するこの世界なんて腐ってる。


 それでも自分に何かできる事があるのなら、成す力があるのなら力のない、人と認められない者達の為にやれることがあると思った。

 お世話になったサーカスを辞める事になったのは申し訳なかったけど、「やりたいことがあるんだ」と伝えると「それが終わったら戻っておいで」と言われた。



 冒険者になり、サーカスをにぎわせた軽業師はあっとゆう間にその名を聞かなくなった。

 昼は冒険者として、夜は義賊として空の王のスキルを使う。



 それが俺の決めた道だった。

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