サキュバスとラップ……一見何の関係もないものを見事に調和させた新感覚ファンタジー。
混ぜ合わせて奇をてらう? いいや、これは王道なのだ。
勝敗のわかりやすいバトル、爽快な気分にさせるレスポンス、ここには素人お断りのアングラ感なんてない。
ヒップホップ、ラップ、フリースタイル……ブームと言われても敷居が高い?
いやいやそんなことはない。これは非常にわかりやすい。
妖精オーディエンスで内容を総括、放たれるディスで世界観を解説、当意即妙のアンサーは大切……実に軽快に読ませる小説に仕上がってる。
骨子にあるのはラブ&リスペクト。
ファンタジーとの融合による馴染みやすいポップさの中にも、カウンターカルチャーの根底にある反骨、成り上がり、ひと泡吹かせる……そんな精神が確かにある。
思えばその構造は和製の異世界ファンタジーとの相性はバツグン。
ヒップホップはアングラ趣味? ラップは何も分からない?
分からないからこそ、こんな入り口も良いのではないだろうか。
小説や漫画においてしばしば現れるのが、突飛と思われる組み合わせだ。
大抵それは可愛い女の子と特殊なものの抱き合わせだったりする。
そういった作品がヒットするのは、一発ネタに終わらず、テーマ性や描写といった骨子が強固だからである。
この作品はポジティブな意味でそういう作品と並べられるべきだと思う。
フリースタイルバトルなどを発端としてヒップホップブームと言われて久しい現代。
文章表現のみの小説でファンタジーとフリースタイルラップを融合させている。
ライミングやヴァイブス、ディスを含めた音の上の会話の描写。
アンダーグラウンドではなくファンタジー世界という馴染みやすい舞台への置換。
ヒップホップの持つカウンターカルチャーとしての側面が貴族対サキュバスと辺境貴族の構図からにじみ出る。
この作品がハッピーエンドで終わったなら、それはラッパー達のメイクマネーの成就に等しいのだろう。
退屈を打ち壊すヴァイブスのライフル
ライムする怪物たちの勝負を見届ける
それがサキュバス・ザ・ラッパーなのだろう。