ぎゃくあそび


言葉にすれば、気持ちは私から逃げていく。


愛してると言うほどに、あなたに対する切なる願いが消えていく。

下手な自画像を見て自信を失い、炭素のくずになり果てる宝石のような。


もういいよ、と言うほどに、よくないと思ってしまうように。

私よりあなたが大事だったはずなのに、あなたは私を大事にしようとしてしまう。


逃げるな、と叫ぶわたしの心はもうあなたから逃げている。

距離をとるために、あなたの心を自分勝手に突き飛ばすのだ。


花占いをして、好き、嫌い、すき、きらい、つぶやくたびに

心のキャンパスが色をはっきりさせようとしてしまうのだ。

白、黒、しろ、くろ。しろかくろ。

一枚、一枚ちぎっては捨てて丸禿にしてしまった、自分で。

あなたへの感情はもっともっと、赤と緑と青の中心であり、白と黒の対極みたいなものだったのに。

解像度が上がるほどに、タネがわかった手品のように、滑稽になっていく。


よく、運命の分かれ道と表現することがある。

右か左か、正道か邪道か。

でも大事だったのはきっと、道を歩む時の足元が、喜々として地面をつかんでいるかどうかだったんじゃないか。


肌が喜ぶような人の愛し方をしたい。私は、まだそれを知らない。

愛をもらいたい、そしてあげたい。

どこかのあなたとやりとりをして、温みのある涙をわかちあいたい。

共に生きあいたい。そしてゆるやかにしおれていきたい。

めぐる星よりも、やわらか泥の粒子になりたい。空よりも海になりたい。


手を伸ばして、今日も、届かない月に向かって、

生きてやる

と、しぶとく叫ぶのだ。そして私は急に死にたくなるのだ。

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さみだれ 志摩田 一希 @renoa

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