梟と鋏は使いよう

水樹 皓

第1話

『ねえ、知ってRU?』

「兄さん、いきなりどうしたんだi?」

『フクロウって”森の哲学者”って言われるぐらい賢いんだっTE!』

『どうでも良いけど、その枝豆犬みたいな喋り方やめてくれないかi? 僕らまだまだ駆け出しなのに、パクリ芸人とか言われたくないからne』

『そこで今回紹介する商品がこちらの”フクロウ印のボールペン”SA!』

『唐突だne。でも、これってただのフクロウがイラストされたボールペンにしか見えないんだけdo? 正直、こんなの誰も買わないyo』

『NONNON、これは普通のボールペンではないのSA! ほら、このボールペンを持って、この問題を解いてみNA』

『問題っte……これ、リーマン予想じゃないka。こんなの誰にも……って、あre?』

『このように、どんな問題でもスラスラ解ける、この”フクロウ印のボールペン”。今ならなんと、特別価格24980円でご提供DA!』


 受験勉強の息抜きにと、適当にネット番組をザッピングしていると、今の珍妙な通販番組へと流れ付いていた。


「……あほくさ」


 画面の中では無駄に爽やかな双子の外国人が騒がしく商品の紹介をしている。

 先程から、”身につけると何でも必ず当たるTシャツ”や、”どんなものでも切れる鋏”など、実に胡散臭い商品ばかりだ。


「そんなんで本当に問題解けたら苦労しないっての」


 俺は勉強を再開するため、スマホの電源を切った。


―――


――10年後


「はぁ、やっと仕事終わった」


 1人暮らしのワンルームへと帰宅した俺は、スーツがシワになるのもおかまいなしに、そのままベッドへとダイブ――


「――と、そうだ。忘れない内に……」


 しかけたところで、とある事を思い出し、1人暮らしを始める際に実家から持ってきた勉強机の前へと移動。


「あったあった。何だかんだで物持ち良いよな、俺」


 机の引き出しを開け、適当に中を探る事数秒。

 目的の物を取り出すと、2本の指で挟んで眼前に持ち上げ、傷等が付いていないか軽く確認する。


「”フクロウ印のボールペン”――だったっけ?」


 いつぞやのネット通販で紹介されていたボールペン。

 当時の俺は受験勉強で煮詰まって気がどうかしていたのか、次の日には電話して買っていたのだが、センター試験にはボールペン持ち込み禁止だという事をすっかり忘れてしまっていた。

 24980円という、当時高校生だった俺にとってかなりの大金を使ったので、捨てるに捨てられず。だが、申し訳程度にイラストされているフクロウの絵も微妙だし、特に使おうとも思わず。結局、机の引き出し奥深くに眠る事となっていた。


「うん、これで良いよな。適当にラッピングでもしといたらそれっぽくみえるだろ」


 そんな微妙に扱いに困っていたボールペンなのだが、今日たまたま処分――基、貰い先が見つかった。

 なんでも、俺の会社の上司が選挙戦に出馬していたらしく、見事当選を果たしたらしい。正直、俺はその上司とはあまり接点がなかったのだが、まあ一応プレゼントを用意することになったので……。


「一応、24980円だしな」


―――


――10年後


『――本日は何と、就任僅か1年で数々の問題を解き、今や解決師の異名で御馴染みのあの方にお越しいただきましTA!』

『さあさあ、こちらへどうzo』


 テレビの中で、どこか聞き覚えのある騒がしい声音と共に姿を現したのは、俺の元上司。

 何か、総理大臣になっていたらしい。


『今日もトレードマークのフクロウ印のボールペンが眩しいですNE』

『ええ、これは会社に勤めていた頃、後輩に貰ったものでしてね――』


 まあ、あれから10年だ。色々変わるのも当然っちゃ当然か。


「あのボールペン、俺のなんだぜ?」

「もう、馬鹿なこと言ってないで、サッサと優君お風呂に入れちゃってよね――あっ、オムツはちゃんと蓋つきのゴミ箱に捨ててよね! この前は――」

「ああ、はいはい。了解しました!」


 かく言う俺の環境も変わり、今では5年前に結婚した嫁に尻に敷かれている。

 独身時代が懐かしいぜ。



―――


――10年後


「――っし!」

「おおっ! 父さんすげーっ!」

「よし、このままラスボスも倒して、世界救っちゃうか――」

「もうっ、何時までもゲームしてないで、2人共サッサとお風呂入ってちょうだい」

「「はーい」」



―――


――10年後


「親父、まだそのゲームやってんの?」

「ああ、何回やってもラスボスの倒し方が分からなくてな」

「そんなんネットで調べればすぐ分かるのに」

「ふん、攻略法なんか見てクリアしても面白くないだろ」

「ふ~ん、別に良いけど。それより、ちょっとテレビ見たいからゲーム止めてくれる?」

「何だ、何かあるのか?」

「ほら、また総理が何か解決したらしいから。来週の面接で聞かれるかもしれないし、ニュース見とかないとやばいんだって」


 あんなに小さかった息子も、もう来年度からは新社会人。時の流れは早いものだ。

 俺はいそいそとゲームを片づけ、テレビを息子へと譲る。


「ちょっと、一段落付いたのなら、お風呂に――」

「はいはい。入ってきまーす」


 取りあえず風呂で攻略法を練るか。

 世界を救うのは大変だな。


――


『――ということで、これまでに数々の国の問題を解いてきたわけですが、遂に世界の問題まで解かれたということでSU。何せ、長年問題視されていた温暖化の問題を見事解いたのですから』

『確かに。今回はもはや、世界を救ったとも言えますne』

『はははっ、それは少し大げさかもしれませんね。実際には、私ではなくフクロウが解いてくれている様なものですから』

『ふむ、フクロウ――ですka?』

『ええ。詳しい事は話せませんが、もし仮に今回の事が世界を救った――と言えるのなら、それは私ではなく、フクロウの力です。その力を、たまたま私がとある男から譲り受け、持っていたというだけです』

『なるほdo……兄さん、今の話分かったかi?』

『いや、さっぱりだ弟YO』


 MCを務めているのは、今や大人気の外国人双子お笑いコンビ。

 弟の問いかけに兄がおどけてみせると、スタジオに軽い笑い声が起きる。

 総理も軽く口元を緩めた後、最後に一言、


『もし、そのフクロウの力をあのまま彼が持っていたのなら、きっと彼が世界を救ってくれていたに違いありません』

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