りーちゃんとゆーたんのお話

かなめ

第1話 にゃー、と聴こえたから

その日は雨だった。

瀬里が毎日毎日通る、いつもと同じ帰り道。だけど、その日は小さな出逢いが隠れていた。


「……鳴き声?」


どこからだろう。

きょろきょろと辺りをみる。見つからない。でも、たぶん、いる。どこ?

かすかな、最後の力を振り絞るような声。たすけたい。おかーさんも言ってた。困ってる人がいたら助けてあげてって。

だから瀬里は探した。小さな手足を目一杯使って。


「どこ?どこにいるの?」


しゃがんだり、時には茂みをのぞきこんだりして瀬里は夢中で探した。黄色い傘が邪魔だけど、瀬里が濡れたらおかーさんが哀しむから握りしめる。あと、あとで苦しくなるのは瀬里だというのも知ってるから。


「どうしたの?」

「……え?」


このお姉さん、だあれ?少なくとも瀬里は知らない。近所のヒト?でも瀬里は見たことないなと思った。

だけど今の瀬里には、そんなことより大事なことがある。


「お姉さん、瀬里を助けて」

「いいよ。どうしたの?」

「ちょっとだけ、しぃってして」


瀬里は、口元に指を持っていって【静かにして】の合図をお姉さんにした。

お姉さんはちゃんと口を閉じてくれた。

ほんの少し。でもすごく長く感じた。


「…………ミィ」

「聞こえた?」


かすかな声。


「……聞こえた。仔猫かな……。ひとりきりで探してたの?」

「うん。でも……でも、瀬里には見つけられなかったの。どこかな」

「そっか。でももう遅いし、お家に連絡もして……ないのかー。きっと心配してると思うから、お姉さんが代わりに探すよ。それじゃだめ?」


途中でふるりと瀬里が首を振ったら、お姉さんはちょっとがっかりしたように続けた。困ってる……だけど。


「瀬里が探したらダメなの?」

「今日はもう駄目だよ。あぶないから」

「あぶないの?でもきっと今、探してあげないと、泣いてるあの子がかわいそうだよ?」

「それでも、今日は駄目」

「……ふぇ……うっ……瀬里、瀬里ね?あの子見つかる……まで、な、泣か……ないって……決めっぐ、てっ…………うわあぁぁあん」

「そっか。えらかったねセリちゃん。ひとりですごくすっごく頑張ったね。……お家のヒトと連絡とれる?」


瀬里はずっと寂しくて悲しくて泣きたかった。でも、瀬里が泣いたら、瀬里の泣き声であの子の声が聞こえなくなるって気がついてからは、泣けなかった。



瀬里はどうしたら良かったのだろう。


あの子の声には、瀬里が先に気がついたんだ。瀬里が探したかった。でも、お姉さんはお家の人が心配してるって。確かに辺りはすっかり暗くなっていて、瀬里はひとりで探すのは怖かった。


「……泣かないで。ほら、じゃあこうしようか」

「っく……なぁ、に?」

「切り札を切ります。お姉さんのオトモダチに探してもらう。いま」

「いま?」

「探し物が得意な子なの。すぐに探してくれるわ」


探し物が得意?でも瀬里ずっと探してたけど見つからなかったよ?


「……フクちゃん、どうせ、そこに【居る】でしょ?ついでだから探して」

『その名で喚ぶな。あと、ナンで俺が』

「3日間、柚のおやつ献上」

『足りんな、4日』

「ぐっ…………わかった手を打つ。フクちゃんよろしく」


そのすぐ後に、ばさばさと音がした。え?とり?なに?いきもの?


「大丈夫よ。フクちゃん、探し物がとても得意なの」

『……おだてても日数は減らさんからな。ん、こやつか。そちらに連れていけばいいのか?』

「ええ、連れてきてください」


フワリと、羽が落ちてきた。そして、目の前に真っ白なフクロウがあらわれる。どこにいたの?


「……ミィ……」

「あっ!ありがと!!お姉さん!えっと……あ、なたが、フク、ちゃん?」

『いかにも。ワレがフクである。礼にはおよばん。ついでだついで』

「良かったねー。フクちゃん照れてる」

『……増やそうか?』

「申し訳ありません。……さて、これで帰れるね。さらについでだから、柚お姉さんが送っていこう。お家のヒトに説明しないとね。改めまして、私は恵口 柚(えぐち ゆず)、16才。見ての通り女子高生です。ゆーたんって呼ぶ人もいるよ!」

「あの……文挾 瀬里(ふはさみ せり)、です。今度、8才になります。あの、ありがとうございました」


ペコッとお辞儀をしたら、手のひらを出された。

それが、りーちゃんとゆーたんのお話の始まりでした。

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りーちゃんとゆーたんのお話 かなめ @eleanor

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