第31話エピローグ

ゲーム騒動から三ヶ月が過ぎた。問題が起きたあの恋愛シミュレーションゲームは、しばらく開発が凍結する事になった。


完全に破棄する事も考えたが、あれだけのクオリティのゲームをお蔵入りにしてしまうのはもったいないと判断したのだ。

今後は同じ過ちが起きないように、ゲーム機本体、ソフトのシステムをしっかり見直して、安全対策を強化するつもりのようだ。


騒動を引き起こした張本人の中原清二は、現実世界に戻った後すぐに入院したが無事に回復を果たし、再びあの恋愛シミュレーションゲームのシナリオ作りに首を突っ込んでいた。懲りずにまたあのゲームの中に入りたいとか言いだし、その度に若林からこってり叱られているようだった。

そして圭人と一樹は報酬をもらうため、若林の家へと向かっていた。


「ついにこの日が来たか。家庭用VRスターなんて、夢のようだな」

一樹は今にも走り出しそうな軽い足取りで前を歩いていた。

一方で圭人は、重たい足取りで後ろを歩いていた。


「別にVRスターなんて欲しくないんだけどな」

圭人はあの一件以来、VRスターをプレーすることはなくなった。清二に攻撃された際に襲った激しい頭痛が記憶に残り、拒否反応を起こしていたのだ。


今若林の家に向かっているのは、一樹に連れられているからだった。若林からもどうしてもVRスターを受け取って欲しいという申し出もあり、今に至っているのだ。


「またそんな事言って。若林も言ってただろ? VRスターは癒しと元気を与える素晴らしい機会だって。お前にもちゃんとそれを分かってもらいたいから、こうしてプレゼントしてくれるって話になったんじゃないか」

圭人の事情は若林も一樹も知っていた。一樹に圭人を連れてきてもらうように頼んだのは、若林だったのだ。

若林としても、開発者として自分の会社が作ったゲーム機が悪いイメージのままでいられるのは嫌だったのだろう。


「だいたい、お前は贅沢だ。あんなにゲームの中で女の子達に囲まれてもてはやされて。ちょっと痛い目に遭ったからって、充分帳尻は合うだろ」

「おれは好きでゲームをしてたわけじゃないんだ。好感度を下げることに必死で、素直に喜べるイベントなんて一つもなかったよ」

「女の子のこと抱きしめたくせに」

「うっ……」

圭人はゲーム中、唯一自分の意思で抱きしめた女の子がいた。圭人にとってはそれがこのゲーム中に起こした最大の汚点だった。


「さっきはやりすぎた。これで許してくれって、格好つけちゃって。やる事はしっかりやるんだからな」

「ち、違う。あの時はおれも場の空気に流されてて……」

「しかも女の子のズボン脱がしてパンツ見ようとして、変態じゃねえか」

「それは違うだろ! あれはあいつの化けの皮を剥がそうとやむを得ず……」

「パンツ覗き魔」

「…………」

次々と蒸し返されたくないゲーム中の出来事を指摘され、圭人は赤面するのを止められなかった。


「あれ? どうしたのかな圭人くん? また妹ちゃんのパンツの色思い出しちゃったのかな? それとも、純白ちゃんの白いパンツの方がお気に入りだったのかな? 純白って、清純なイメージがあっていいよね」

「一樹……お前……」

圭人はドスの効いた声で友人の名を呼んだ。手をわなわなと振るわせている。

そして怒りに染まった顔で、一樹を睨みつけた。


「いい加減に、しろ!」

「お、やっと元気になったな。でも、元気になったのは下もだったりして」

「黙れ! その口を永遠に塞いでやる!」

圭人は逃げる一樹を追いかけ始めた。しかし悪い気はしていなかった。

おそらく一樹は、圭人を元気づけるためにわざとからかってきたのだろう。一樹の表情からは、それを読み取ることが出来た。

一樹は圭人に思い出して欲しいのだろう。あのゲームにも、楽しいことがあったということを。


「VRスターか。もう一度、信じてみてもいいのかもな」

理想を現実にし、心に夢と元気を与えるVRスター。

そのゲームの持つ本質を思い浮かべ、圭人は前向きな気持ちで走り続けた。

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余計なフラグはもういらない @shingo20

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