とあるフクロウの一日
きと さざんか
とあるフクロウの一日
フクロウは、不苦労、福来だのと言われているが、どんなものかね?
縁起物と担がれてはいるものの、フクロウたる吾輩には、その
ぐるりと首を回すと、人ひとヒト。なんでも人間が言うフクロウカフェなる場所に吾輩は住んでいるのだが、来る日も来る日も人間たちの相手をせねばならぬ。
カワイイ可愛いともてはやされてはおるが、撫でられたり、肩に乗せられたり、水を浴びせられたりと忙しい。
食う物には困っておらぬのが幸いか。しかし、空は飛べぬし、紐にもつながれておる。
窓から見える青い空は、なんとも美しく憧れる。あの空を思うがままに飛べたらどれだけ楽しいことだろう。
おっと、人間が吾輩によってきた。手には食い物。ここは素直に食うとしよう。
食うついでに人間をついばんでみる。すると、人間は吾輩に好意を寄せたようで、自慢の毛並みを撫でてきた。
しかたないので、吾輩は撫でられる。どうだ人間、柔らかかろう、美しかろう。吾輩の毛並みは、仲間の中でも特上だと誇っておる。
仲間たちも、それぞれに人間の相手をしている。まだ生まれたばかりの子供たちは人間を警戒しておるが。
吾輩は、人間に慣れるのは早かった。
ゆえに人間の扱いも心得ておるが、忙しい時は首をくるくるとひねらねばならぬ。
今日は休日というものらしく、吾輩たちは特に忙しい。ひっきりなしに、人間がやってくる。
これこれ、そこの人間。吾輩はもう腹が膨れておる。食い物はいらないのだぞ。
食う物に困らぬとはいえ、吾輩も仲間もこれだけ物を与えられては食いきれぬ。今は静かに休ませたまえ。
吾輩の愛嬌にも限界はある。休みたくなれば休ませてもらいたい。人間よ、どれだけ褒めたたえようとも、吾輩も疲れるのだ。
吾輩が目を閉じると、人間たちはまた吾輩を褒めちぎる。眠る姿ですら、魅力的らしい。
やれやれこれでは気が休まらぬではないか。
うつらうつらとしていても、吾輩の耳は声を拾う。
耳がよすぎるのも困ったものだ。森と呼ばれる場所ならば、重宝するらしいのだが。
パシャリパシャリと聞こえてきた。人間の持つ板切れが、吾輩の肖像を取らんと必死らしい。
板切れは、スマホというのだったか。いつぞや吾輩はそのスマホを見たことがある。
吾輩の姿は、なんともシャンとしておった。仲間たちと見比べてみても、吾輩の姿が一番だ。
それを仲間に伝えてみると、皆が皆、自画自賛しておった。吾輩が一番、いやいや、私が一番僕が一番。
自由の効かぬ吾輩たちは、食うか、寝るか、見比べるかしかやれることもない。そしてやはり、吾輩が一番である。
空が暗くなってきた。吾輩たちの勤務時間もようやく終わる。
人間の姿がまばらになり、世話役たちも、仕事を終えて一段落。
今日も今日とて忙しない一日であった。ようやく眠れるかと思うと、ほっとする。
徐々に明かりが消えゆく中、吾輩は我らフクロウの幸福が来るよう願うのだった。
人間よ、もっとフクロウの苦労を労いたまえ。
とあるフクロウの一日 きと さざんか @Kito_sazanka
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