ゴールドスミス

ゴールドスミス

 おれは その動物を見た時、金細工ではないかと疑った。

 それほどの金色の生き物だった。

 しかし、動いている。

 その滑らかな動きは機械仕掛けのそれとは全く違う。


 神々しさを放つその生き物を見つけたのは、ある動物学者だったという。

 動物学者は 見つけた動物に ゴールドと名付けていた、と彼は言っていた。

 世に この動物、ゴールド を発表しようとしていたらしい。


 もしかしたら、無名な学者は世に自分の存在を見てもらえると、心を踊らしていたかもしれないが、もちろん そうはならなかった。

 なぜ そう言えるかというと————


 ゴールド は闇オークションに出品されていたからだ。

 それをおれは競り落とした。



 おれは競り落として ひと段落している時、この動物を手に入れ、出品したという彼から話しかけられた。

 深入りする気はさらさらないが、どうやって ゴールドを手に入れたか訊ねると。

「知らない方がいい。その方が幸運だぜ」と言った。



 これで このゴールドという動物は、一体どこで生息していたか、どのように捕獲したのかが不明になったことは残念だが、世に出ていない貴重な生き物だということは都合がいい。


 おれがこの動物を世に出す。

 そうすれば、買値の採算が取れるどころか それ以上の金が手に入る、


 いまや中古と化した高級車を走らせ、数時間かけて郊外にある我が家へ戻る。

 道は徐々に狭くなり、車一台しか通れない狭い道を登った。

 我が家は 曽祖父が買った森の中にある。

 代々受け継がれた我が家は、外壁は所々剥がれ、蔓が這っている。

 一軒家というには少し大きい古びた家だ。

 いつ見ても、忌々しい感情しか湧いてこない家。

 だが、この家とも もうすぐ別れると思うと へんな愛着が湧いてくるものだ。


 俺は ゴールドの入ったケージを持って、車から出る。

 すると、勢いよく家のドアが開いた。

「あなた 大変よ! 」

 妻がかなり慌てた様子でこちらへ走ってきた。

「さっき 銀行へ行ったら、お金がないのよ! 」

「あぁ」

「何を呑気に——」

「おれが全部使った」

 彼女は目を見開き、言葉を失った。

「有り得ないほど珍しい動物を手に入れたんだ。かなり値段はしたが……」

「これを使って、一儲けするつもりさ」

 そういって、ケージに被せてあった布を取った。

 彼女はその動物を見て驚いた声をあげる。

 その動物を見ていくうちに、妻の顔が次第に恍惚な表情になった。

「綺麗ね……」

 こんなに喜んだ彼女の顔はいつ振りだろうか。

「この動物はゴールドって言うらしい。これで儲けたら、豪勢な生活が手に入るぞ」

「こんな家は捨てて、一緒に暮らそう」


「そうね。大切な人と住みたいわね。嫌な人と暮らすなんて虫唾が走るもの」

 そう言って 彼女は僕の胸へ向かってきたので、抱きしめようとした。


「だから、


 その瞬間、身体に衝撃が走った。






 私は ずっと前から用意していたピストルを夫の胸に当て、そのまま引き金を引いた。

 意外とあっさり 夫は倒れた。

 目を開いたまま倒れていた夫は、何かを言おうと口を動かす。


 それを目の端で捉えながら私は言った。

「私はあなたのこと、虫唾が走るくらい嫌いなの」

「まぁ、それなりにお金持ちだし お金と結婚したって考えればいいのかもしれない」

「でもね 嫌なものは嫌なのよ」頑張って好きになろうとはしたけど、と付け加えた。


「お金の無いあなたに用はないの」

 私はしゃがみ込んで夫の顔と見ながら言った。

「安心して、ゴールドちゃんの面倒はしっかり見るわ 」

「私は大切な彼と幸せになるから、心配しないで逝ってね」

 生気を失っていく夫に対して、想像以上に感慨はなかった。


 私は視線を 夫から、動物用のケージへと目を移す。


 ケージは開いており、そこに ゴールド はいない。


 焦って周りを探した。

 すると、光る物体が少し前の方にいるのが見える。

 家の明かりを反射して光っているのだろう。地面を這うゴールドは 森の方へ向かっている。

「ゴールドちゃん、そっちはダメよ」

 私はゴールドへ近付こうとした。

 しかし


 突然、空から何かがゴールドに向かって落ちた。

「なっ! 」


 それはフクロウだった。

 フクロウが鋭い爪の生えた足で金色の鼠ゴールドを捕らえている。

「離せ! 」

 私がピストルを向けるよりも早く、フクロウは身を翻した。

 数発撃つがどれも当たるはずがなく、フクロウが森の中へ消えていく。

「ま、待って! 」


 私は追いかけたが、フクロウも、金色の鼠ゴールドも見つからない。

 必死で探しているうちに、私は森で迷ってしまったことに気づく。


 私の住む国では、フクロウに怖いイメージを抱く人達が少なからずいる。今は繁殖期なので、尚更 気をつけなくてはならない時期だ。

 なぜなら ————


 私は 何かが迫ってくるのを感じて振り向く。

 一瞬フクロウが見えた。


 人を襲うこともあるから


 森に、甲高い悲鳴が響いた。

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