第4話 周老子

男が指をパチンと鳴らすと、競技場内に突風が巻き起こった。


「ぐふっ・・・!」


俺のフィジカルではひとたまりもなく、瞬く間に壁に打ちつけられてしまった。皆も同様だ。何たる威力、これが魔法か!


「弱いんだよねぇ、弱い、弱い。君たちは弱いからガーベッジなのかな?それともガーベッジだから弱いのかな?」


あの野郎、めっちゃ煽ってきやがる。ひょろいくせに、魔法が使えるからって。イキリオタクかよ。碌な奴いねーな、魔法使いってのは。どうせ友達もいないんだろ。あ、俺もか。


しかし悪態をついたところで戦況が変わる訳ではない。俺は少し冷静になって状況を整理した。みんな倒れてくたばっている。かろうじて動けるのは俺しかいない。あ、これ詰んだ。


「ちょっ、ちょちょちよ、ちょっと待った!ストップ!ストップ!Youしばし待たれよ!」


俺は咄嗟に両手を前へ突き出し、静止する姿勢を取った。待ってくれの合図である。しかしこのポーズは異世界でも通用するのだろうか。


「むっ、あの構えは、まさかサンチンか・・・!?ネオ琉球空手に伝わる受けの型と聞く!今度は僕の攻撃を受け流してみせるっていうのかい!?下等生物の分際で舐めた真似を・・・!!」


めっちゃ怒ってるー!火に油注いだー!ネオ琉球空手ってなんぞ?サンチンってなんぞ?拳じゃなくて手のひらを前に向けてるんですが!そこんとこ都合よく解釈しないでください!


「うおー、いいぞ!根性あるー!やれ、ガーベッジ!」

「ガーベッジ!ガーベッジ!」


謎の声援が始まった。もう本当にやめてください。戦う意志はございません!


「・・・万物の間に流れし大いなる風の意思よ。天に使えし崇高なる雷の化身よ。我が生命を贄としてその力を集約し、彼の者に放ちたまえ!」


なんか唱えはじめたー!!これはやばい!

危険を察知した俺の身体は、奴の詠唱を超える速度でその身を地に至らしめていた。


「申し訳ございませんでしたー!!!」


DO・GE・ZA だ!!それも渾身のDO・GE・ZA だ!!!


「雷神の息吹トール・ブレス!!!」



あ、終わった・・・。




あれ、終わってない・・・。


なんだ!??



「なんで発動しない!?僕としたことが詠唱を間違えたか?いや、そんなことは・・・。」


なんかわからんが、どうやら魔法は発動しなかったらしい。


「違う、マナが集まらずに発散していく。今月は神無月ではないはずなのに・・・。神の周期に乱れが起きているのか?」


よくわからない独り言をぶつぶつ喋っている。やっぱり友達いないタイプだ。


「まだ、わからんのか。」


ふと聞き慣れない声がした。老人の声だ。俺は恐る恐る顔を上げると、俺と奴の間にいつの間にか怪しげな白髪の老人が立っていた。


「周老子!?なぜここに!?」


風使いの魔導士は驚いた表情をしていた。あとこの爺さん周さんって言うのか。中国の人かな?


「戦いを終わらせにきた。このままでは決着がつかんからな。」


どうやら戦いは終わるらしい。


「・・・周老子はお見通しのようですね。これは一体なんなのです?」


「古来から存在する神の怒りを封じる極東の礼式の一種じゃ。それも超強力のな。」


「礼式・・・ですか・・・。」


「そうじゃ。本来は日時や場所、道具などを事前に準備し、長い時間をかけて詠唱するものじゃ。そうしてやっと周囲のマナを発散させることができる。だが、彼はそれを対戦闘用に磨き上げ、短時間で効力を発揮できるように独自の術式を組み込んだ。おそらく、礼式だけではなく、近代営業柔術も応用しているのじゃろう。わしもここまでの使い手にあったことはないが、先程のネオ琉球空手といい、相当の使い手じゃわい。わしが間に入っていなければ、お主、やられていたぞ。」


おい、色々言ってるが、爺さん、俺ニートだぞ。

礼式も近代営業柔術もネオ琉球空手も使えんわ。


「周老子がそこまで言うのなら・・・。わかりました、悔しいですが、負けを認めましょう。」


え、負け認めちゃうの?マ?土下座したの俺なんですが?


「ガーベッジ!今回は僕の負けだが、次はこうはいかない!覚えていろ!」


そう言うと魔導士は踵を返して出口の方に向かっていった。

本当に負けを認めてくれたらしい。

そしてどうやら、俺は彼のライバルポジになってしまったらしい。

人生ってよくわからんもんだな。

あ、そういえば名前聞くの忘れたわ。

誰だったんだろうあいつ。



「少年、名はなんと申す。」


爺さんが急に話しかけてきた。

ちょっとびっくりした。

爺さんはなんだかんだ命の恩人なので粗相がないように接しよう。


「・・・FLM3281です。」


「違う、お主の本当の名前じゃ。」


「えっ、あ、え?あー、なるほど。本当の?あーはい、桐ヶ谷、あ、桐ヶ谷流星です。」


久しぶりに名前を聞かれたから焦ってしまった。

そういや俺、FLM3281じゃないんだよな・・・。

3ヶ月もこの世界にいたからすっかり毒されてしまった。


「良い名じゃ。アーノルド・ホンティーノ・アーハイム・桐ヶ谷・アル・流星よ。少し名前が長いので、わしの字、「瑜」にちなみ、これからは、アーノルド・Y・リュウセイと名乗るが良い。」


「あ、ハイ。」


「ならば今ここで高らかに宣言せい!お主の勝利と共にな!ハハハハ!」


色々とツッコミたいところはあったが、勝利後の高揚感と爺さんの勢いに乗せられてしまったようだ。

俺は闘技場の全ての観客に聞こえるように叫んだ!


「俺の名はアーノルド・Y・リュウセイ!!世界最強のガーベッジだ!!!」


その後、流星コールが会場に響き渡ったのは言うまでもない。

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なろうゲート 中西渢汰 @futa

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