賢者様は肩の上

幽美 有明

森の賢者は鋼鉄の森に住む

 森の賢者は鋼鉄の森に住む。これはおとぎ話の中の一説である。

 鋼鉄の森に住む賢者とは一体なんなのか、世界中の冒険者が鋼鉄の森を探したが見つからずにいた。

 そして魔法と科学が発展した未来、一部の人はまだおとぎ話を追いかけていた。


「全く父さんには呆れるよねフロイト」

「ホーホー」


 多くのビルが建ち並びその中のアパートの一室では1人の少年と1羽のフクロウが会話をしていた。


「鋼鉄の森に住む賢者を探すんだって言って世界中を飛び回ってさ。いつの間にかフロイトを連れてくるし」

「ホー」

「そりゃあ賢者がいない訳では無いんだろうけどおとぎ話だし、最近は魔法のレベルも高い人なんて大勢いるから賢者なんてどこにでもいそうなもんだけど」

「ホーホー」

「さて、今日もネットサーフィンしようか、フロイト」

「ホー」


 ボクは父さんの必要としている情報を探すのが仕事。つまり鋼鉄の森を探すことなんだけどがむしゃらに探しても見つからないので、ネットサーフィンしつつ探してる。


「クロモさん帰ってこないかな暇だよ」


 クロモさんはうちのメイドで結構古くから家に仕えてるらしい。とはいえ今は手足が義手だったりするんだけど。

 なんでも父さんにはついて行って怪我をしたかららしいけど、父さんはどれだけ危険なことしてるんだろね。


「んー、今日も収穫なしかなー」

「ホーホー!」

「どうしたん、フロイト」

「ホーホー!ホーホー!」

「窓側どうした」

 カーテンを開けるとちょうどそこにはこっに向かって来る箒に乗った女の子がいた

「え?」

「きゃーーーー!どーいーてーくーだーさーい!」

「ばぁ!」


 ギリギリ尻もちをついて避けることが出来たが、俺の後ろが大変なことになっているのは見なくてもわかる。


「箒で突っ込んでくるやつが今のご時世いるのかよ、おい!」

「すいません!すいません!すいません!今変な人たちに追われててとにかく今出ていきますから!」

「あーもう遅いみたいだわ」

「ええ?!」


 窓の外には空を飛んでいるガタイのいいこわぁーいお兄さん方が立っていた。


「とりあえず、おかえり願えますかね?」


 返答は魔法が飛んできた。


「もうだめー!」


 まあ、生身の人間が当たればそりゃあしにもするがここはおとぎ話に命をかけるやつの家だぜ?なんの備えもないわけがない。


「お前達のそれが魔術である以上俺には効かないね。ハッキングスキルなめんな」


 魔術と魔法。パッと見似てるかもしれないが全く違う。魔術は科学が魔法を模したもの。つまり機械的に魔法使ってるようなものなのさ。なら、ハッキング出来る。


「逃げるぞ、そこの女!箒もって付いてこい!」

「は、はい!」

「クロモさん!」

「はい、なんでしょうか坊ちゃま」

「坊っちゃま呼びはやめてくれ!てか今すぐ俺のところ来れない?やばいんだよね!」


 遠隔通信でクロモさんに連絡する。結構強いのよ、クロモさん。

 通信越しに恐らくこっちの音も聞こえてるはず。


「お傍に」


 そう直ぐにでも来てくれ……


「早くない!?てか箒乗ってるのによく場所分かったね!」

「メイドですから」

「メイドでなんでも済まそうとしてない!?」

「いえいえ、そんな。ふっ!」

「片手間に追っ手倒してるし!」

「メイドですから」

「絶対メイドで済ますつもりでしょ!とりあえず逃げるよ!」



「だあ!ここまで来れは撒けたか?」


 高層ビル群の真下。陽の光がほとんど届かないスラム街の手前でかくれていた。


「どうでしょうか。大きな組織が動いているようですから」

「原因はこいつだこいつ!家のデータは全部使えなくしたから安心だが、お前なんで追われてるんだよ」

「えっと森の賢者のことが書いてある本を持っててそれが原因です」

「森の賢者のことが書いてある」

「本と仰いましたか?」

「は、はい」


 この世界で森の賢者と言えばそれは一つだけ。鋼鉄の森に住む賢者のこと。これはとんだ拾い物をしたみたいだな。


「よし、助けてやる代わりに少し読ませろ。俺の一族は代々なんでか知らねえけど森の賢者追ってるんでな」

「助けてくれたのでいいですけど、あなたお名前は?」

「ログトォーナ、適当に呼べ」

「じゃあ、ログさんと。これがその本です」


 さて、何が書いているのやら。


 森の賢者が実在することは紛れもない事実である。では鋼鉄の森はどこにあるのかと言えばそれは未来である。本当に鋼鉄の森があるのではなく、これは比喩であろう。鋼鉄の木々と思えるような場所に森の賢者が住んでいるのである。


「1ページだけ?」

「その先はどうしても開けないんです」

「ほんとに開けねぇ、それにしても鋼鉄の木々ね」


 上を見ると高層ビル群が立ち並びその間から陽の光が射し込んでいる


「鋼鉄の森は比喩ね。クロモ、ビル群の建材ほとんど鉄だよな」

「そうですね、高さと強度からして間違いありません」

「このビルを1本の木に見立てるとこの街が森に見えてこないか」

「そうですね、見えるかもしれません」

「そんでもって、あれは未来を指していたと」

「はい」

「鋼鉄の森ここじゃね?こんな量のビル群ある都市なんてここぐらいだしよ」

「そうなるかと思います」

「灯台もと暗しじゃん完全に。父さんに連絡しても繋がらそうだし」


 はーどうすんだよ。俺別に魔術やら魔法やら使えないんだが。さっきは魔術だったからいいが魔法は俺にはどうしようもできないし。


「坊っちゃま、囲まれています」

「え、まじ?」

「本気と書いてまじです」

「逃げるしかないじゃん、とにかく。つかフロイトどこいった」

「先程から本の上におりますが」

「ログさんこの鳥なんなんですか〜!」

「知らん、外から父さんが連れてきたよくわからん鳥だ。調べても名前が出てこねぇ。とりあえずフロイトは任せた、行くぞ」


 ビルの隙間を抜け、箒に乗って空を逃げる。


 後ろからは空飛ぶ黒服が、これまた追いかけてくる。


「敵どんな感じクロモさん!」

「どうやら魔術が効かないとわかり、魔法使いしかいませんね」

「それ俺無理じゃん!クロモさん頼んだ!」

「さすがに万能メイドの私でもあの数は手にあまります。何人か落としてはいますが」

「それでいいから続けてくれ!てかおまえ名前なんだっけ?!」

「ウサミミですー!」

「よしウサミミ、フロイトなんか光ってね?!」

「絶賛光ってて眩しいでーす!」


 俺とウサミミが前、後ろにクロモさんの形で飛んでるんだが、さっきからフロイトが光にに光ってなんか眩しいんだよね!


「フロイトどうしたんだ、フロイト!」

「ホー……」

「様子おかしいし一旦どっかで休憩したい所なんだがなっ!」


 突如としてビル影から現れた何かを咄嗟に避ける。


「おいおい、なんてもん持ち出してやがる。対軍兵器を人間殺るために持ち出すなよな?!」


 B-24Orthlosオルトロス、科学と魔法の技術を合わせた大型戦闘ドローン。戦場に投入すれば1機で2個分隊を相手にできるってヤバいやつ。

 破壊するなら魔法を使うしかない。魔法によってほとんどの物理兵器を止め、魔法にもある程度の耐性があるが魔法の方が効く。というか機械だからまず雷なんか落ちれば回路がショートして墜ちる。だから雷の魔法が使えりゃいいんだが、魔法使える人は居ない。

 俺は魔術を無効化できるだけ。クロモさんは体術と魔術。ウサミミはまず使い物にならない。逃げるので精一杯だからな。


「このままじゃ死ぬぞ!あのドローンやるなら雷の魔法がないと倒せない」

「坊っちゃまどこからその情報を?」

「ハッキングして前に盗み見た!つか、マジでどうする」

「ここは建物に逃げ込むのが得策ですが」

「この辺のビルの窓は強化ガラスだから到底無理!」


 ああ、どうするどうすればいい。どうしたら生き延びられる!


「ホーーーー!」

「わっ!どうしたフロイト。てか目の色変わってませんかね?!」


 キュィィン


「あっ、万事休す」

「ホーー!」


 おおぅ、フロイトさんそんなに翼広げてどうしたんですか。なんかバチバチ鳴ってる青白い玉がいつの間にか浮かんでるんですが、フロイトさんそれはなんですかね?


「ホーー!ホー!」

「とりあえずフロイトGO!」


 バチバチバチバチ!


「ホー!」


 ジ……ジジ……ボンッ!


「墜ちましたね」

「墜ちたな」

「墜ちましたよやった!」

「ホーホー」

「フロイトさんや、君何者ですかね?魔法使える鳥なんて聞いたことないんですが。おっと、そんなに甘えてくるな。よしよし」

「えっと逃げましょ?」

「そうですね。坊っちゃま行きますよ、坊っちゃま」

「よしよし、可愛いやつだなお前は」

「そうあれは坊っちゃまが5歳の」

「よし!逃げるぞ!確か近くに地下への入口があるはずだからな」

「変わり身の速さは流石でございます」


 確かこの辺りだったはず、父さんの秘密基地。マンホールどければ入口なんだがさてどこだ。


「捜し物はこれですか?」

「あっ、そのマンホール開けて中入ればいいから」


 中に入るとそこには重厚な扉があった


「これどうやってはいるんですか?」

「俺がいれば開く、ほら」


 ゆっくりとロックが外され秘密基地の全貌が見えてきた。


「よく来たなログ!」

「何してんだ父さんこんな所で」

「お前達を待ってたのさ!森の賢者であるフロイトもな」

「フロイトが森の賢者?」

「フロイトはフクロウという鳥で、別名森の賢者と呼ばれているのさ」

「フクロウ?そんな情報知らないぞ俺」

「当たり前だ、異世界の情報だからな」

「異世界?」

「ああ、異世界だ。我が一族は異世界人の子孫だからな。ちなみにこれを知っているのは当主だけだ」

「まじか」

「まじだ」


森の賢者は鋼鉄の森に住む。おとぎ話は今動き出す。

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賢者様は肩の上 幽美 有明 @yuubiariake

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