自分語り

あね

ありがとう



重めの小児喘息を持って生まれた僕は、物心つく前から入院生活だった。

病院と幼稚園を母の車で通う日々もあった。


僕が家に帰れる日は、ゲーム好きな父がたまに遊んでくれた。

プロレスごっこが大好きで、コブラツイストと腕ひしぎ十文字固めは幼稚園の頃からできた。


入院生活が長かったせいか、家庭で学べるはずの常識が昔からおかしかった。

押しちゃいけない火災用の非常ベルを押したら、どうなるんだろう。

4階から、下でお喋りしている主婦達に向かっておしっこをしたらどうなるんだろう。

家の水道に、バナナを詰めたらどうなるのだろう。

全部父に、こっぴどく叱られた。

怒るとめちゃめちゃ怖かった、けど面白い父だった。

ギャンブルが大好きで、よく競馬に連れていかれた。

よくわかっていない僕は、お祭りか何かと思っていた。

父から、何番がいい?wと聞かれ、黒いから2番!と言った。

大穴馬券を的中させて、父とはしゃいだ。

楽しいが家庭のことはあまり省みていないし、母をよく泣かせていた。いい父とは言えなかった父。

だが、僕は大好きだった。


そんな父が、ある日死んだ。

僕を病院へ送った帰り道、事故にあった、と聞かされた。

僕は成人するまで信じていたが、事実はそうじゃなかった。

河川敷で車にガソリンを撒き、焼身自殺だった。

父はいろいろなところに借金を作っていたようだ。

後から聞いて、驚愕した。


じいちゃんとばあちゃんは、母の事を思い親権を引き受けようとした。

だが、母はそれを断った。

引き離されたくなかった、と言っていた。

だが母の元に、遺産は何故か1円も入ってこなかった。

代わりに父の弟が保険金やらなんやらを受け取り、家を建てていた。


お金がない母は、元々務めていたフィリピンパブに出戻った。

暇な時はパチンコに行き、そこに僕と兄も同行させられていた。


母子家庭になり病院代がかからなくなったが、度々体調を壊す僕と生活苦で母はストレスを貯めていた。

よく僕と兄に暴力を振るった。兄が多かったが。

持てる物はだいたい凶器だった。普通に虐待だったと思うが、母の気持ちは少しわからなくもない、と言ったところか。お金がない苦しみは、どうしようもないだろう。と、今なら思える。

僕らが大きくなり、兄ももう中学生。母が兄をモップで殴ろうとしたところを兄が抵抗し、それ以来なくなった。

僕らは家庭の暴力から解放されたのだが、学校では兄弟そろってイジメられていた。

幼い頃は兄が『父が死んだ』と言う理由だけでイジメられていた。大きくなってからは『母がフィリピン人』と言う理由でイジメられた。今でもイジメられたやつらは許せない。憎い。

兄に対するイジメはよくわからないが、僕は結構酷かった。

元々治安が悪くイジメは常にあるのだが、Aがいじめられたら僕、その次はBで僕、と言った形で1回置きに僕はいじめられた。

精神的な物は少なかったが、よくリンチされた。シカトは正直軽いものだったが、リンチは痛かった。

暴力が小学校卒業まで続いたせいか、僕はだいぶ根暗で逃げ癖のある性格になった。

逃げなきなきゃ痛いんだから、仕方ない。


中学からはイジメも止み、友達が多くできた。

今でも付き合いのある親友が3人もいる。


高校辺りから少し荒れはじめ、お酒に逃げるようになった。

今思えばここら辺がターニングポイントだったのかもしれない。


初めて付き合った彼女にフラれて、女遊びが激しくなった。


高校を出たらバーテンダーになりたかった。

夜の世界で生きていたかった。

だが工業高校へ進んでいた僕は、就職進学率に響くから無理矢理進められた調理学校へ入学した。

調理スキルもいるからって。まぁいるわな。


そこで調理を学んで、中華料理を知った。

繊細さから大胆さまでの振れ幅に衝撃を受けた。

僕はバーテンダーを捨て、専門でできた仲のいい友達と共に、中華料理屋に就職をした。


しかし僕は劣等感の塊だった。

友達は器用で、コミュ力も高かった。

対して僕は全然不器用で、コミュ力も低く、環境が変わったストレスで頻尿を患ってしまった。

仕事もできないのにトイレにはよく行くのな、と責められた事もあった。すいません、としか言えなかった。友達は気にかけてくれていたが、嫉妬心でどんどんそいつのことが嫌いになっていった。


お盆のピークが終わり、当時付き合っていた彼女が来てくれた。

2人で朝焼けを見て、今の環境を思い、涙が流れた。

次の日にはマスターに、退職のお願いをしていた。


2週間のニートの後、実家の喫茶店で働き始めた。

調理を学んでいた僕には店の料理は簡単過ぎた。

店を変えてやる、くらいの気合いで働いた。

が、理想の高い僕には母が築き上げた常連と、店の不衛生さがどうしてもストレスだった。

僕は母と衝突し、再婚した父と衝突し、家を出た。

警備員のアルバイトをし、名古屋で一人暮らしをした。

その頃の僕は社会を舐め切っていて、自分の力でどうもでもなると思っていた。周りの人間を完全にバカにしながら、正社員で働く友人から完全に目を背けた。

惨めさからお酒を飲んだ。

そしたら家賃が払えなくなった。

僕は家賃を3ヶ月滞納し、いよいよ追い出されるところまで来た。

会社に連絡し、1週間休みをもらった。

そこを人生最期の時間として、これまでの友人と会う身辺整理に費やした。

会う人とも会って、残る1人は最初に付き合った彼女だった。

ホームセンターでロープを買って、その子にあったら死ぬつもりだった。


地元に帰り、その子と2人で飲んだ。

幸せだった。僕はずっと、この子が好きだった。

その子は何かを察して、僕が自殺するんじゃないかと踏んでいたらしい。

僕も僕で、帰る間際に泣き出してしまった。全て話した。

その子も泣いてくれた。もしかしたら2人が結婚する未来があるかもしれないのに、今死ぬのはバカじゃん、って言ってくれた。


お会計の際、手持ちのお金より多く飲んでいて、お金がなかった。その子がコンビニでお金を下ろしてきて、立て替えてくれた。

生きて、返しに来い、って言われた。

あれが1番惨めだった、けど返さない訳には行かなかった。

店を出たら僕の親友がいた。

その子が、僕が死ぬのを止めてほしい、と呼んだらしい。

僕らは昔よく行った、作りかけの橋の上で大の字に寝転がって、泣いた。翔平とさらちゃんには感謝しかない。僕は、死ねなかった。死なずに済んだ。


1週間のニート期間後、その子の実家のカフェで働く事になった。

好きな子と一緒に働ける、尚且つカフェで働ける喜びを噛み締めたが、不器用な僕はたくさん怒られた。

そのうち逃げたくなった。

お酒を飲んだ。

辞めたくなった。

わざとたくさん遅刻した。

辞めたいと伝える事から逃げた僕は、クビにしてほしかった。


結局、自分から辞めた。

実家の喫茶店で働きながら、次を探した。

寮付き正社員。ええやん、ってなった。

派遣社員だった。騙された。


派遣で働きながら、その当時付き合った彼女と楽しい時間を過ごした。

車はないけど、ワガママも言わずに僕に着いてきてくれたその子は、今思うと本当にいい子だった。

だけど、倦怠期に魔が差した。

僕の下に着いた派遣の女の子がいた。

僕はその子と仲良くなり、一夜を過ごせそうだった。

彼女に対して気持ちも冷めていて、目の前の女の尻を追いかけた。彼女を振る形になった。

僕は新しい女の子と付き合い、しばらく恋人ごっこを楽しんだ。

が、その子と性格的に合わないな、と察した。

から、その子から逃げた。

心の中で、前の彼女に申し訳ない気持ちが強かった。

しかも、その子がまだ僕のことを想ってる事も察した。

僕はモトサヤに戻った。

が、その頃からオンラインゲームを初めて彼女に気を配らなくなった。

大事にしたい彼女なのに。遊びたいばっかりだった。ゲームしなきゃいいじゃんって思ったけど、できなかった。楽しかったし。


けどそんな僕にも着いてきてくれてた。

ほんとに愛されてた。


オンラインゲームでたくさんの友達ができた。

みんないい人で、大好き。

リアルで繋がりもできた。ホントに嬉しい。


けど、最近ずっと自分の選択について考えさせられる。

1番最初に付き合った子。復縁できる機会もあったはずだった。俺が逃げてなきゃ。ちゃんと働いてたら。

そのときに作ったツケ。大きかった。

そのツケがなければ。

元カノと結婚したかった。

愛してたから。なのにゲームばっかりだった。

ゲームより優先できてたら。振るとき、環境が変われば、また何か変わるかなって思ってた、って泣きながら言ってくれた。その子の事を。

ずっと思い出す。


母さん。先に行っちゃってごめん。

いい関係は築けなかったのは、俺がずっと反抗期だったからだよ。母さんは悪くないよ。

兄ちゃん。お前はもっとちゃんとしろよ。俺の兄貴だろ。ゴミだけど優しいお前が好きだよ。

翔平、何も言わないでゴメンな。お前と旅したこと、ずっと思い出だわ。相棒として情けないけど、ホントに楽しかった、ありがとう。

小谷、お前は気づいてたなwけど嘘は俺の専売特許だから、悪ぃな。お宝置きっぱなしにしてごめん。けど俺を理解してくれてて、ありがとうw

馬淵、お前と最後にバカ話できてたくさん笑って、ホントによかった。お前には俺が逃げてるとこたくさん見せたけど、これが最後のプライドやねん。お前と仲直りできて、泣きそうだったよwありがとなw


みんなにも何か言いたいけど、キリないから、大好きしか言えない

こんな情けない俺を、イイヤツなんて思ってくれて、ありがとう。


父さんに会って、怒られるかもしれないけど、怒られる筋合いないわって怒り返したるんじゃ。

またプロレスごっこしに行ってくる


次産まれるなら、もっと器用な人か、クラゲか猫かな!

こんな俺だったけど、ありがとう。

もう逃げなくていいなんて、おめでとう、おめでとう。

後悔から解放されて、おめでとう、おめでとう。

練炭の準備ができたから、後は寝るだけなんで、寝ます。

おやすみ、世界。

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自分語り あね @Anezaki_

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