帰り道

汐茜 りはゆ

切り札はフクロウ

 今、世間でハヤっているらしい異世界モノ。日常のふとした瞬間、あるいは突然に起こった事故により命を落とし、気がつけば神さまからチート能力をもらって異世界へ転生とか。もしくは、現代社会より発展していない異世界で、現代知識を駆使して国作り!とか。夢が、妄想が、広がって尽きない憧れの異世界!

 私だって妄想する。やっぱり行きたい異世界って言ったら、乙女ゲームの世界かなぁ。主人公に……とは言わないけれどイケてるメンズを遠くから眺めていたい。良いなぁ、イケメン。……おおっと、現実逃避してた。

 まぁ、そんな非日常とは縁がない。

 よく晴れ渡った青空の下、今日も愛犬フミャとのんびり散歩中。春めいてきた風を心地よく思いながら、現実も良いなぁ、なんて思う。

 だって、豆柴犬のフミャは嬉しそうにくるんとした尻尾をフリフリしていて、可愛くて愛おしくて目に入れても痛くない。

 うららかなポカポカとした日差しを受けて、フミャと散歩出来るこんな普通が幸せだと思えるし、今も良いじゃん?


 信号待ちをしていると突如、大きなクラクションと鈍い音が交差点に響いた。事故だ! と思うより早く制御を失った車がこちらに向かってきていた。近づく車に驚いた犬は、突然、思ってもいなかった方向へ走り出した。

 愛犬に引きずられるように転倒した私は、なすすべなくアスファルトに激突した。

 薄れゆく意識……、咄嗟に出た言葉は。

(犬と倒れてワンパターン……)


 ***


 気がついたら、小鳥が横に座っていた。

 スラっとした体に黒い艶やかな翼が綺麗に輝いていて、おなかは白い柔らかそうな羽毛に覆われている。首周りには、鮮やかな赤いスカーフを巻いたような姿が特徴のこの鳥は……。

 思わずつぶやいた。

「……ツバメと座ろうスワロー?」


 よく見ると小鳥はツバメだけじゃなかった。

 たくさんの色とりどりな鳥に囲まれていた。見たこともないような、極彩色な鳥が多い。鶏冠とさかのある鳥や、尾羽根がしっかりしている鳥……と、その中の一羽がてとてと私に向かって歩いてくる。

 鳥の種類はあまり詳しくはないが、猛禽類かな。ミミズクかなフクロウかな、まんまるなくりくりな瞳がとてもカワイイ。ふと、フミャのくりくりな瞳を思い出した。

(あ!フミャ!……フミャ大丈夫だったかな?ココは何処なんだろう)

「むすめ」

 突然、低い重々しい声がすぐそばで聞こえた。とても驚き、声が聞こえた方へすぐさま顔を向ける。しかし、そこには先ほどのフクロウがいるだけだった。

「……フクロウ?」

 そのくりくりまんまるな瞳のフクロウは、とてもゆっくりと頷くと、さっき聞いた声と同じ、よく響く深い声色で話しはじめた。

「むすめよ、ココとは違う世界から飛んできたようだな。今ならまだ間に合う。おぬしがいた世界へ戻るがよかろう。」

 え! やっぱりココ異世界なの?……というか、それより何より、

「戻れるのっ?!」

 掴みかるように前のめりになって、大きな声を出してしまった。

 フクロウは驚いたのか、その羽毛でふっくらとしていた体を、ッシュっと細くしてしまった。

 ……カワイイ。

「あ!ごめんなさい!……でも、戻れるのね?」

 今度はゆっくりと確かめるようにフクロウに問いかけた。

 細くなった体を徐々に、元のふっくらずんぐりむっくりモコモコに戻すと、

「わたしであれば、戻す事が出来る」

 自信有り気に肯定してくれた。

 ……あぁ、良かった! 異世界に行きたいなんて考えてごめんなさい。私はやっぱりもとの世界に戻りたい。

 それにしても、戻せる事が出来るのはフクロウだけみたいな言い方だったな。

「やっぱり、はフクロウだね!」

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帰り道 汐茜 りはゆ @sekisen_r

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