焼憬の日

焼いてしまったよ

きみに送った写真を全て

きみから貰った写真も全て

あの綺麗な景色は二度と

私の眼には映らない

積もり積もった過去という

重たい枷を捨てられたなら

この身ひとつの自由があると

そう縋るようにして

全てを焔にべたのだ


きみと過ごした爛漫の影に

これ程までに心を刻む

堪え難さの芽が育っていたと

どうして疑えただろうか

空になった写真帖アルバム

取り遺された日付と註釈コメント

鮮やかに記憶を想起させるのは

今も息衝くあの日の亡霊

その存在は幽かであれど

こうも意識を蝕むならば

焼き棄てずにはいられない


思い出を削ぎ落して

身軽になったつもりでも

胸には虚無が圧しかかる

どれだけ過去を燃やしても

戻るものなど何もないと

涸れていく焔が私を嗤っていた

痛む瞼と痞えた喉を

舞い踊る灰と煙の所為にして

果たして何処へ往く為の

自由を手に入れられたのだろう

寄る辺なき孤独という名の平穏が

優しく私を手招いている

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夏へ至る殉情 近野弓鹿 @YumicaKonno

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る