4.君のきた街

数分後。


"…ちゃん"

どこかで声がしたようで、店内を見回す。


"はるちゃん。こっち"

私を呼ぶ声がする。座敷の角を見ると、中学生くらいの女の子がそこにはいた。


"わたしよゆき。覚えてる?はるちゃんに最初で最後、会いに来たの"

その言葉に、作業をしていた手が止まり、見入ってしまう。


"わたしね、もうここ(現世)にはいないから、一人で会いに来た"と。

中学生のある日 無理心中をしたらしい。

そして生きられなかった。


しかし、わたしのことを覚えてくれていて、あの軽装で、会いに来てくれた。


「ありがとう」


と 呟くとゆきはいつの間にかいなくなっていた。

「…はる?」

小木さんの声にハッとする。

「気分悪い?大丈夫?」


と心配されてしまった。思わず

「大丈夫です!」

と慌てて作業に戻った。


それ以降、不思議な現象は起きることはなくなったが、エントランスから店内に入る扉は掛け替えられていた。


というのがわたしが体験した最初で最後の不思議なお話。

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「また会いに来たよ」 ハルヤマチコ @rk2589

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