第5話

今日も今日とて平和な1日であった。今日は珍しく会計と書記が居残りしてまで俺の仕事を手伝ってくれた。いい事だ。これが当たり前になればまたいい事だ。

して、今日はみな様子がおかしい。どこかソワソワしていて落ち着きがない感じ。

どうしたのだろう。


「おい皆、そろそろ終わりでいいぞ。今日は早く終わったからな。帰っていい」

「そ、そんな会長。もっと手伝わせてくださいよ」

「そうですよ、書記として何でもしますから」

「そ、そうか」


やはり今日はおかしい。しかしここでこのやる気をねじおるのはまた間違ったことになるであろう。

ならば仕事を与えよう。と言っても仕事はもうほとんどないのだが。

ふむ。そろそろ部活動資金の調査をしなければならないな。これで行こう。


「会計は運動部の資金調査、書記は俺と一緒に文化系の資金調査に行こう」

「何故僕は1人なんですか?」


会計が訪ねてきた。


「勿論、運動部は少ないからな文化系にひんずぅを当てるのは当然だろう。それに俺と書記は文化系だったよな?」

「はい。私は茶道部です」

「と、言うわけだ、よろしく頼んだぞ」

「分かりました」


渋々と言ったところだろうか、会計は許諾してくれた。して、何故フードを被って外に出ようとする。


「会計。何故フードを被る」

「え、あー。日差しが強くて」

「ほお。今日曇りだが?」

「ゆ、UVが強いんですよ!」

「そ、そうか」


と、そんなことを言い残して去っていった。

俺は書記と一緒にまずは1番近い古典部に行くことに。


「おっす会長。今日はどう言ったご要件で?」

「資金調査だ。今月の使用料金を提示してもらおう」

「了解っす!」


と、まあこんな感じで滞りなくて…………いやあとひとつあったな。


「書記、あとは俺一人で行く」

「え、何故です?」

「諸事情だ」

「分かりました。先に戻ってますね」


まあ、理由は勿論未来のとんでもない発言やバカ丸出しの格好をされていたら困るからだ。俺もこの部活に入っているんだよな。

コンコン。


「未来。ちょっといいか?」

「ぐふふふ」

「おい、何をしている? 気持ち悪い声を出して」


見る限り、なんか、男装している? ショートのカツラ被って、角生えてる?

しかもなんだその分厚いゴーグルは?


「ぐふふふ、もっとちこう寄れ」

「おい、聞いているのか?」

「ぐふふふふふふふふふふふふふ」


きもっ、こわいこわい。手ワキワキしてるけどなに、怖い。ちょ、近寄るな。近寄るなよ。


「うわー」

「きゃ」


やっと女らしい声が出たか、なんて思ってもこの状況はやばい。未来が倒れ込み俺に覆いかぶさるような体制になってしまっている。傍から見たら、その、襲われてる感じが。


「会長」


やっとの事でゴーグルを外して俺を見てちゃんと日本語で話してくれている。

さっきまでの心ここに在らずという感じから一転して顔が羞恥で染っていた。


「す、すすすすすいません」

「いや、俺も悪かった」


良かった書記帰しといて。こんなところ見られたらやばいもんな。俺の洗濯は間違っていなかったようだ。ところでなんだこの荒れようは。 この教室もまた汚くなってしまったようだ。そろそろ掃除しないといけないな。


「して、何をしていたんだ?」

「あーこれはですね」


にひひひ、とまた気持ちの悪い声を上げて俺にゴーグルを付けてくる。


「おい、何をしている…………うわっ」


そこに広がっていたのは水着姿の二次元美女立ちがずらりと並んでいる。


『魔王様ァ』

「な、誰だ」


凄い、何だこのゴーグルは首を動かせば目線もう動く。凄い。見渡す限り女ばかりじゃないか。何だこの状況。立体に見えるその桃源郷。ここはどこだ!

慌てふためいているとゴーグルが外れる。


「会長。顔赤いですよ」

「な、何だこのすばら…………いけ好かない物は!!」

「VRですよ」

「ぶいあーる?」

「知らないんですか?」

「知らんな」


ええー、とオーバーアクションで驚いてくれた。いや、知りませんがそんなもの。


「VRって言うのは、スマホで体験できるレンズの着いたゴーグルのことで。立体視できるすごものです」

「立体視、だからあんなに現実的な、いや非現実的な光景ではあったけど、それはともかく、あの映像はなんだ?」

「ハーレムごっこです!」

「は? 何をしている!」


いや、ほんとに部室で何してるの? と叱責する俺とは裏腹に未来はニコニコ笑顔で続ける。


「今日の部活ですよ。ラノベ見たならわかりません? 魔王が転生先でハーレム作っちゃう話」

「あー、あったなそんなの」

「ところで会長は生徒会終わったんですか?」

「あ、そうだった!」


すっかり生徒会のこと忘れるところだった。危ない危ない。


「資金調査だ。使用料金を提示してもらおう」

「なるほど、そろそろですもんね。えーとここにあった気が」


ゴソゴソと机の中を漁る。


「あった!」

「見せてみろ」

「どうぞ」


あんなにモ○ハンで武器作ったりお肉用意したりしたのだから結構お金は使っているはずだが、予想では2万と言ったところか。どれどれ。

俺の予想は大きく外れた。その金額を見て驚愕の声が、


「…………4万円!!!」

「どうかしましたか?」


どうかしましたか、じゃねぇよ、部活金2万位でしょ。文系部(?)なんだから、もうちょっと抑えられたでしょ。


「なんでこんなに使ったの?」

「VRで、約4万」

「これそんなにするの?!」

「結構行きますよね」

「お前、来月の資金ゼロな」

「なんでぇーーー!!!」

「当たり前だろ、2ヶ月分の資金を使ったんだから!!」


なんでなんで、と、続けて俺をぽかぽか叩いてくる。いや、悪いの全部お前だから。

しかしまあ、4万円のものなんてそうそう触れないよな。


「なぁ、これ他のも見れるのか?」

「VRですか? 見れますよ。スマホをセットして」

「おおーすごい! ジェットコースターだ!

迫力ある!」

「こんなのもありますよ」

「うおっ、綱渡りか。怖いな」

「あははは、会長腰抜かしてる!」

「お、お前もやればわかる!」


俺のつけていたゴーグルを未来に無理やりつけようとした時、外から叫び声が聞こえた。


「うわぁぁぁ」

「まって、坂本くぅーん」

「まてぇー!」


窓から覗いてみると、会計と書記が山田先生に追いかけられていた。何したんだあいつら?


「ああーあの二人またやらかしたんですか」


興味なさげに未来が呟いた。


「あの二人、またってお前何か知ってるのか?」

「不純異性交友ですよ、この学校そういうの厳しいじゃないですか。なんでも、何度も生徒会サボって自転車二人乗りしたらしいですよ」

「なるほど、あちつら帰るの一緒で早かったもんな」

「今日はそういうの取り調べる日だったんですよ」


ああ、だからあんなにソワソワしてたのか。それで会計もフード被って外に出たりしてたのか。なるほど合点。


「ところで会長、こんなのもありますよ」

「ん、お、おいやめろ」


無理やりゴーグルをつけさせられるとそこに広がるのは、


「お、おいやめろ、おい! うわぁぁあ近寄るなよ。化け物!!!」


幽霊かゾンビがうぞうぞいる舘らしき所で襲われるというなんとも悪質な心臓に悪いものが広がっていた。


「うわぁぁあ!!!」

「うわははは」

「笑うな! お前もつけろ!」


俺も無理やり未来に付けてやると、まあ。それは面白い。腰を抜かして生まれたての子鹿みたいに足をプルプルさせている。


「はははは、お前も怖がりなんだな!」

「ふぇぇ、会長の意地悪」


けたけた笑っていると、未来がまた俺に近づいてくると覆いかぶさるように倒れてくる。あれ、デジャブ。

どんがらガッシャーン。

俺が倒れ込み、覆いかぶさるように床ドンしいる光景。


「かいちょ~」

「や、やめろ、離れろ。ゴーグル外せばいいだろ」

「そうか!」


と、時すでに遅し。


「なんだ今の音は?」


ガラガラと、さっきまでの会計と書記がを追いかけていた山田先生が入ってきた。この状況はやばい。


「は、離れろ未来」


手を伸ばして肩を掴みグイッと俺の身から話そうとした、イメージではそうだった。目論見が外れた。どこに当たったのだろう、柔らかかった。

ふにゃん。


「ひゃ」

「え、ごめ」

「おまえら」


結果、状況は悪化。


この後しばらく俺は怒られ続けた。この部活に入ってからたびたび怒られているような気がするが、いや、考えるはやめよう。


かくして、今日の生徒会は終わり、生徒会長、会計書記は不純異性交友が盛んであるとレッテルを貼られた。

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異世界部 柳翠 @adgjmptw0455

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