第4話
今日も今日とて良い一日であった。と言うのも、今日は休日。幸せの土曜日である。土曜日というのは明日も学校が休みという幸せ。少し夜更かししてもいいかなという期待。素晴らしい。うちの高校は宿題もないので休日を存分に楽しむことが出来る。
あの、美少女(笑)の米屋未来に弄ばれる心配もない。いい休日である。
今日は本を読もう。積ん読解消には快適な一日だ。少し雨が降ってはいるが、ポツリポツリと雨が地面を叩く音はまた俺の集中力を引き立ててくれる。
ペラリ。ペラリ。ペラリ、ペラリ、ペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリ。
ペラリ。
どんどん本の世界に吸い込まれていくのと共にページをめくる手が早まっていく。
2時間したぐらいだろうか。計三冊の本を読み終えた。初めから読んでいた訳では無い。俺は1冊を完全に読み終えるまで待てないので、1冊50ページ読んだら次のを50ページ。これを繰り返すので3冊読み終えるのはほぼ同じ日になるのだ。
3冊分の余韻に浸っていると外が晴れている。雲の隙間からこんにちはした太陽は眩しく光り輝いている。
「本屋に行くか」
ちょうど積ん読も解消したので新しい本を買いに行くことにした。うちは散々貧乏貧乏と自嘲しているが、本代ぐらいバイトで賄っている。社割も働くので本屋でバイトしている。店長がいい人だ。
「おにぃどこ行くの?」
リビングで鉢合わせした妹に尋ねられる。中学生の妹は俺と同じく生徒会長をやっているらしくかなりの高カーストに所属しているとの事。高校にいても少し耳にするぐらいには有名人である。
「ちょいと本屋へ」
「くそ遠いじゃん」
「くそとか言うな」
太陽のおかげでくそ暑い中自転車をひたすら漕ぐ。坂道に差し掛かったところでギアを落として軽くなるのと同時に漕ぐ量が増える。
「はぁ、はぁ」
たしかにこの日差しの中外に出るのは間違いだったか?
それでも俺の休日は本と共にあらんとのこと。
やっとの事で見えてきた本屋に安堵の息がでるがそれと同時に喉が渇いたので先に近くのコンビニで飲み物を買った。
ゴクリ。
ぷはぁ。旨い。喉の乾きを一瞬で湿してくれるコーラは旨い。砂漠にあるオアシスの如く炭酸で喉が焼け付くようだ。
さて、本題の本屋さん。今日は何を買おうかな?
まずはやはりピックアップ商品を重視しなければ。今年映画化される商品からコミカライズされるものまで、色々あってまた俺の心に癒しを与える。
本屋はどうしてこんなにも心踊らされる場所なのだろうか。
宝物を探すべく慎重に1冊1冊の表紙やあらすじを見て回る。
俺はいつも一般文芸を数多く見て回るが米屋の興が移ったのかライトノベルの文庫を見て回ることにした。
なんと言うか。表紙がちょっと可愛いな。いや、カッコイイ系もあるけどほとんどが美少女が写っている。
「うーむ。どれがオススメなのだろうか?」
「迷いますよね」
「そうだな。未来は…………ほわぁ!」
「てへへ、どうもです」
俺の横にいつの間にか居た未来はカゴいっぱいにライトノベルを詰め込みにこにこ笑顔で俺の顔を覗き込んでいた。
「き、奇遇だな」
「そうですね」
「そうだ! なにかオススメはあるか? 俺はこういうのには疎いから」
キリッ。未来の目付きが変わった。今まではのほほんとした大きな円な瞳だったが今は切れ長の目に切り替わっていた。
「会長。オススメは、自分で読んで決めるものです!」
「え、いやいや、俺読んだことないから、その読んだことあるお前の意見を」
「違いますよ!」
何が?
未来は前のめりになって俺につめよってくる。近い。
「本を選んだ時の幸福感、読み終わったあとの読後感。それら全て人に聞いていいんですか?」
「いや、そこまで言ってはない」
「ダメなんです!」
「はぁ」
「最初は好きな表紙でも好きな女の子でもレーベルでも、なんでもいいから自分で選んでください!」
「ほお」
どうやら、ライトノベルの世界は俺が思っていた以上に奥が深いらしい。
俺が間違っていたのだろうか。ネットのレビューばかり気にして星評価ばかり気にして、俺は間違っていたのだろうか。
「す、すまなかった。俺が間違っていたようだ」
「分かればよろしい」
俺は再び本棚に目を向ける。やはりこういうのは魂が共鳴した作品を読むべきか、分かってきたぞ。ああ、そこの表紙俺と今目が合った。そこの表紙は俺になにか訴えかけている。ああ迷う。ここは、楽園か。沢山の宝物の中から最低でも3冊選べと、鬼畜ながらも天国である。迷う。しかし、これだぁ!!!
「ふっ」
(にや)
俺の鼻につくようなため息と未来の微笑。共鳴したのは俺たちらしかった。
ガシッ。
手を取り合う俺達はすこし、頭がおかしかったのかもしれない。
「ありがとうございましたぁ」
「いい買い物が出来た」
「上出来です。会長。ちなみに先に言っときますけど、ラノベめちゃめちゃ金かかりますよ」
「へぁ?」
なんで、最低でも500円ちょっと。高くても680円。さらに行けばもっと高いが、1ヶ月で3冊なら無理ないだろう。バイトめちゃめちゃしてるし。家系的にも最近余裕が出てきたし。
「会長の買ったやつ…………いや、辞めておきましょう」
「なんだ、気になるだろ! おい待て。チャリで逃げるな! おい!」
意味のわからないことばかり残していきトンズラしてしまう未来。まあ、今日はいい買い物が出来たしなんでも言っか。
夕方になっていたので少し冷えるが自転車を漕いでいればそれは気にならない。
家に帰って早速、今日買ったラノベを開いている。おお、手が進む。そこらのミステリーと同等だ。
ペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリ、ペラリ。
「ふぅ、面白かった。挿絵というのか、適度の休憩を挟みつつ、俺に癒しを与えてくれる。最高だ」
つ、続きが読みたい。あいにく今日は全く違う本を3冊買ったので続きがないのだ。き、気になる。いや、これをほかの本で紛らわそう。
ペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリペラリ、ペラリ。
これも面白い。面白いぞ。つ、続きが見たい。ああ、何だこの気持ち。余韻に浸りたいのに続きが気になってそれどころではない。
「おーい、宗一郎。ご飯だぞー」
「はーい」
今いい所なのに。まあいい。この気持ちを抑えるのにちょうどいいだろう。
気になる。
気になる。
気になる。
気になる。
気になる。
気になる。
「気になる!!!」
どうすればいいんだこの気持ち。はっ! 明日はバイト。ということは本屋に行ける。ちょうど明日は給料が出る。いやでもダメだ。家計が。
翌日。
「買っちゃった」
昨日の続きが気になって買っちゃった。あれよく見ると15巻まで出てるから全巻買うの大変じゃん。もしかして未来が言いたかったことって。
『会長の買ったやつ――――大量にあるので大変ですよ』
と言いたかったのか。たしかに。これは金がかかる。BOO○・OFFで買えば? だめだ。ラノベの表紙はツルツルすべすべの新品がいい!
ああー、なんか未来に乗せられたような気がする。
「面白いしいっか」
かくして、俺の休日は終わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます