8.4:【リテイクが劇的に減る指定書】の書き方
プロのクリエイターにとっての天敵といえば?
その1つは、リテイク――作り直しでしょう。
手塩にかけて作った成果物にダメ出しされて、しかも直すだなんて、誰しもが経験してイヤなもの。
さらに、昨今のゲーム業界は、求められるクオリティが飛躍的に向上。
登場キャラクターの多さが肝のソーシャルゲームにおいても、要求されるレベルが上がりすぎて、ひと月に頑張っても数体のキャラしか用意できないようになってしまった――などと、先日のYahooニュースのトピックにも挙がっていました。
おそらくは、クオリティを上げるためのリテイクが日々、数多行われている。
かねてより、この連載では、【もう、単独キャラクターでのクオリティアップは限界】と述べてきましたが。
いよいよ、個人の好き好きだけでなく、リテイクを減らす取り組みが、現場レベルでの懸案となってきたようです。
お客さんに喜んで頂くだけの高品質を担保しつつ、いかに効率化をはかるが今後の課題となりそうですが、今回は【キャラクター指定書】についての話。
キャラクター指定書とは、その名の通り、『どのようなキャラクターをデザインするかの設定を定めた書類』のことです。(※1)
例えば、↓のような項目ごとに、
●名前 ●性別 ●種族 ●推定年齢 ●身長 ●頭身 ●体重 ●体形 ●胸のサイズ(スリーサイズ) ●設定概要 ●髪型 ●髪色 ●目(色・形) ●肌色 ●服装 ●武器 ●性格 ●口調 ●人称(1人称~3人称) ●その他見た目の特徴 ●家族構成 ●友人(他の登場キャラとの関連性) ●好きなこと ●嫌いなこと ●キャラの目的 ●備考 ●参考資料(写真や、似ている既存作品のキャラなど)
設定をまとめて(だいたいメインライターや、プランナーが担当する)資料にし、実作業をお願いする絵師さんや、外注ライターさんに指示を出します。
ゲーム開発だけでなく、漫画家さんも用いていたり。
いわば、登場人物の設計書。この書類の出来で不出来で、キャラクターの方向性、魅力、作業のしやすさがかなり左右されます。
現場によっては、70項目という膨大な情報量の指定書フォーマットを使っているとか。
そんなわけで、広く使われつつ、現場によって書き方に違いがある――【キャラクター指定書】ですが。
ずばり、たった1つ、この資料の作り方であることを意識するだけで、リテイク回数を圧倒的に減らすことができる、のです。(実話)
開発現場で試して、実証済みなので、たぶん間違いない。
そのたった1つだけ意識すべきこととは、
『冒頭に、その【キャラクターのコンセプト】を目立つように書く』
だけです。コンセプトという言葉がお固いのであれば、
【一言で説明すると】
という、なじみやすい項目名でも構いません。
例えば、以前、私がディレクションを担当した巨乳グラビアアイドルものでは、キャラクター指定書の各冒頭に、↓のように表記していました。
○一言で説明すると:艦これの愛宕クローン、調教の助手
○一言で説明すると:元陸上部員、ケセラセラ
○一言で説明すると:ナマイキ金髪ツインテール
○一言で説明すると:小悪魔系アイドル、ロリ巨乳枠?
○一言で説明すると:毒舌系、一匹狼
【艦これの愛宕クローン】とキャラクターのモデルを宣言してしまえば、一発で関係者の脳内イメージが、統一されます。
【元陸上部員】と宣言すれば、「運動が得意なのかな?」「ボーイッシュな娘なのかな?」と推測・問題意識が生まれ、残りの項目を理解する手がかりとなります。
【ナマイキ金髪】【ツインテール】と宣言すれば、そこがこのキャラのトレードマークなのだなと、すぐに伝わります。(※2)
分かりやすい会話、伝え方のコツとして、よく『最初に結論を述べる』というポイントが述べられますが、それと同様。
数十個もある設定情報を同じ重みづけで見せつけられると、どれから確認してもいいか分からず、資料を受けとった人は読む前からゲンナリしがちです。
しかし、こうやって、全体像をつかむ為の羅針盤を最初に用意すると、効率よくキャラクター指定書を読み進めることができるのです。(※3)(※4)
あるいは、『一言で説明すると』に加えて、もう2つ――合計3つまで重要な情報を、冒頭に提示しておいてもいいと思います。
○巨乳ゲームだったら:項目『バストサイズ』『スリーサイズ』『カップ数』
○色んな種族が出てくる作品だったら:項目『種族』
○萌えゲーだったら:項目『性的アピールポイント』『担当フェチ属性』
○擬人化作品だったら:項目『擬人化の元ネタ』
○異能力バトルだったら:項目『特殊能力』 ex:4000度の炎を放つ
など、コンテンツの内容によって、どれの項目を取り上げるか取捨選択して、大き目に表示しておきます。
分かりやすいパワーポイント資料の作り方の定番として、『箇条書きは3つまで』というお約束がありますが、それに倣った形ですね。(※5)
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『なんじゃい、そんなシンプルなことか』と、思われた方も多いかと思います。
でも、そんな単純なことがなされていないプロの現場を、私は複数回、見たことがあります。
そして、例外なく不思議と『リテイク地獄』に陥っていました。
さらに、リテイクが続くと、これは私の主観が入りますが――絵師さん、ライターさんは、悪い意味で置きに来ます。
【そのキャラの売り】が良く分からないし、何十個とキャラ設定=デザインの縛りがあるので、自分の独創性を発揮するのも難しい。
リテイク、こわいこわい。
だから、ただ指定に違反しないように。
そんな撤退戦のごとき心境で描かれた成果物はどこか迷いがあり、しずる感に乏しく、魅力やテーマがぼやけている。無論、完成してもユーザーさんの支持を得られることは難しいでしょう。
だからこそ、冒頭にこのキャラはどういうキャラなのか?
どこを、魅力として全面に押し出してほしいのか?
【一言で説明すると】という項目を使って、キャラの方向性を打ち出して、説明することが重要なのです。(※6)
もしあなたが現場に立つ方で、まだ実践していないのであれば、騙されたと思ってやってみてくだい。
リテイクの頻度だけでなく、その指定書を見たスタッフの理解度や、成果物のクオリティ――的を射ている度が、劇的に変わりますよ。
また、キャラクター指定書だけでなく、CGの字コンテや、プロットなどにもこの表記法は応用できそうです。
(※1) キャラクター指定書
【キャラクター設定シート】など、現場によって呼び名は変わります。
(※2) 【ナマイキ金髪】【ツインテール】
【ツインテール】は、どちらかというと幼さの象徴。
【ナマイキ金髪】という、ワガママ、近寄りがたい属性に『幼さ』を加えることで、『隙がある』『実はポンコツ』と見た目から滲み出るようにしたい。
という設計思想があったため、↑のような一言説明は外せない要素でした。
(ただ、ワガママなだけなキャラに見えてしまうと、大失敗だった)
(※3)
順番としては、キャラクター名の後とかでも構いませんが、とにかくできるだけ早く、目立つ位置に提示してください。
(※4)
なお、コミカルな作品中のキャラの【一言で説明すると】には、6章で触れたモンタージュ理論、特に【二言バット】を用いるのが、結構お勧めです。
昨今の、なろう系作品のキャラの作り方のトレンドにもなっています。
◇ 6.3:【モンタージュ理論的な実践編】2 二言バット
◇ 6.4:【モンタージュ理論的な実践編】3 二言バットでオリキャラを作る
https://kakuyomu.jp/works/1177354054888713584/episodes/1177354054888851599
https://kakuyomu.jp/works/1177354054888713584/episodes/1177354054888851713
(※5)
マジックナンバー7±2という言葉を以前扱いましたが、マジックナンバー4±1という言葉もあります。どちらも、人間が一度に目にして覚えられる情報の限界量を示し、5~7個まで。あるいは3~5個まで。
どちらの説を信じるにしろ、3個までの情報なら誰でもすぐ頭に入るので、箇条書きは3個に抑えておくといいでしょう。
(※6)
しかるにこれは、ヒット商品を作る際の手順にも似ています。
商品を作る場合、コンセプト、セールスポイントを真っ先に立てるのはご存じかと思いますが、【一言で説明すると】という形で同様の手順を踏んでいるとも言えます。
つまり、人気キャラを作る手法――ライター、プランナーの思考訓練としても、この冒頭でキャラの特徴を述べるフォーマットは有効なわけです。
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