8.5:【リテイクが劇的に減る指定書】の書き方 延長戦

 登場人物の設定を記す、『キャラクター指定書』の記述方法について考えていますが。

 そもそも論でいえば、【70項目という膨大な情報量の指定書フォーマット】自体が、果たして必要なのかどうか、という疑問があります。


 持論から申せば、『どちらかというとノー』です。

 ゲーム開発の現場には、合わないでしょう。


 凄まじい情報量のキャラクター指定書を制作するので有名なクリエイターとして、『ジョジョの奇妙な冒険』でおなじみの漫画家・荒木飛呂彦先生が挙げられます。

 しかし、それは、『脚本』『キャラデザ』『作画』が全て、同一人物(荒木飛呂彦)が担当するから、可能であり、有益なのです。


 たとえば、キャラ設定の項目の中には、『絶対に変えてはいけないもの』『理由があれば変えていいもの』『とりあえず表を埋めただけのもの』が混在しているはず。(※1)

 でも、どれがどれに合致するか知っているのは、荒木飛呂彦先生その人だけ。


 漫画の場合、全ての設計図を1人で管理しているので、そういう『他人には分からない設計書の見方』が混じっていてもいいのですが、ゲーム開発は分担作業が原則です。(※2)

 他人が作った設定資料なんて、【全てが等しく守らなければならない面倒な縛り】の塊にしか見えないのです。


 また、ゲーム開発現場の場合、キャラクター指定書を書くのは、プランナーやシナリオライターを担当する人です。絵の専門家ではない。

 そんな人が事細かにキャラデザの指定をして、なんのメリットがあるのでしょうか?

 またもや絵師さんの、技術やセンスを発揮する余地を潰すだけでしょう。


 私などは、『キャラクター指定書』の神髄は、


 ・決めるべき設定は決めておく

 ・前回述べたように、『一言で説明すると』などの羅針盤を冒頭に記す

 ・決めなくていいことは決めない。専門家であるイラストレーターなどにお任せする


 であると、考えます。

 例えば、【キャラの目の色】などは、コスチュームや髪色がどのように完成するかによって、適切な配色が変わります。

 『姉妹が同じ目の色をしているよ』というようなギミックに使わないのであれば、その項目は空白でいいし、空白にしておいた方が好ましいのではないでしょうか。


 この辺りの力加減は、アニメ業界が参考になりそうです。

 たとえば、書店などで売っている、アニメの『脚本集』を見てみると、驚くほどシンプルな情報量であることが分かるでしょう。


 書かれているのは、


 ・最初のページに、登場人物とその簡易な説明

 ・場所、時間(柱と呼ばれる)

 ・セリフ

 ・ト書き(場面の説明)


 ・場合によっては、カットが切り替わる印


 だいたいこれ位でしょうか。

 肝心のト書きの内容ですが、場面の状況説明と、キャラの表情が記されている程度で、本当に淡泊で最低限のテキスト量に絞られています。(※3)


 さて、脚本が完成すると、シナリオライターはお役御免。

 次は、絵コンテ――イラストつきの各シーンの設計図を制作するのですが、ここから一気に情報量が増えます。

 脚本にあった描写がカットされたり、反対に追加されたり。


 当然、絵コンテを描くのは脚本家ではなく(例外もあり)、演出家やコンテマンといった、イラストレーター畑の人。

 つまり、脚本段階ではすべてを決めず、後に広げられる余地をちゃんと残して、設計図を制作していたわけです。餅は餅屋。イラストや絵の魅せ方に関しては、その筋の専門家に任せた方が良いものができるし、なにより楽ができます。


 前回も触れましたが、昨今のゲーム業界では求められるクオリティが高まりすぎて、作業が爆発的に増え、現場が疲弊しているとか。

 だったら、贅肉になっている作業を削りませんか?


 キャラクター指定書において、やみくもに項目数を増やして実作業をする人を縛ろうとするのは、誰にとっても幸せにはなりません。


 プログラムに使う仕様書や、CGの差分を定める書類とかは、とにかく緻密に隙が無く定めた方がいいのでしょうが。

 キャラクター指定書に関しては、たぶん違う。

 イラストレーターたちが才能と創造の翼を羽ばたかせられるように、縛りを増やすのではなく、的確に羅針盤を見せるテクニックが、今後のシナリオライター・プランナーには必要になってくると思います。


 以上、前半と比べて、とりとめのない総論になるので、延長戦として述べてみました。

 『キャラクター指定書』の書き方に限らず、作業のシェイプアップがエンタメ業界全体の急務になるかもしれませんね。



(※1)

 その証拠に、ジョジョの奇妙な冒険第6部に登場する『ナルシソ・アナスイ』は、登場当初は女性だったのに、再登場したときは、男性になっていました。

 キャラの性別すら、荒木先生には、『理由があれば変えていいもの』に含まれていたのです。


(※2) 漫画の場合、全ての設計図を1人で管理している

 アシスタントはいますが、ストーリづくり、キャラクターデザイン、コンテ、場合によっては線画からペン入れまで、漫画家本人が行っているようです。


(※3)

 ただし、人や流派的なものによって、脚本の緻密度は異なるようです。

 シンプルなト書きだと、

 『歩くキャラA、ついていくキャラB。2人とも武器を持っている』

 という説明が、数セリフに1度くらいの頻度で出るぐらいの、簡潔なものになっています。

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