本当の名前
同時刻、応接間。
フィーリアは一人、応接間に残されていた。
椅子に深く沈み込むと背もたれに背を預けて天井を見上げる。最初に他国の人間に対し、ベルンシュタイン王国の力を示すために豪華絢爛な造りになっている。
「はえー。王城を見た事も無かったのですが、初めて見るのと入城するのが同日になるというのも不思議です。ですが、ここでウーデン君は騎士としての務めを果たしていたのですね」
ウーデンとはアマルティアの死ぬ前のここでの名前だ。そして、私の本当の名をアリスィア。この名を頂く前は名前は無かった。ウーデンの両親が名付けてくれたのだ。しかし、二人はウーデンが大きくなる前に居なくなったので、ウーデンの記憶には殆ど残っていないだろう。
「思えば私の今使っている言葉とウーデン君の両親の言葉は同じなのでないか?」
ふとそんな事を思うと居ても立っても居られずウーデン君、いやアマルティア君に話そう。
『アマルティアさん?』
声を送っている途中から肌がピリピリとひりつく感覚を得る。離れていても分かる。これは彼が戦闘若しくは、敵意を向けられているという事だ。
『フィーリアか。何でもない。だが、暫く無視するぞ』
言葉から感じるのは驚き、だろうか。それはそれで胸騒ぎがする。
椅子から跳ねる様に起き上がると豪奢な扉から音が聞こえる。
「お茶が入りました。お待たせしてすみません」
声の主はアカーツィエ王女だった。ほっと胸を撫でおろすも心の奥ではあたふたする私がいる。
「い、いえ。調度品を見ていたのであっという間でした」
アカーツィエ王女は周囲を見回す。
フィーリア・イストリア(未完) 森尾友彬 @tomotty
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