第4話③
2045年3月31日(金)
この日は正宗にとっては中学生最後の日だ。
そんな日に日本全国は白銀に染まった。
それはここ東京都のGクラスの地域に住んでいる正宗が住まう団地も例外では無い。
正宗は寒さで目が覚める。
寝起きの為、起き上がろうともせずにスマホを弄る。
ネットニュースの上位は北海道の事件で埋め尽くされていた。
正宗はそのネットニュースを確認するとリビングに向かう。
「おはようございます」
「……あ、おう、おはよう」
正宗は母親以外との初めての挨拶にホログラムの少女相手ではあるが、緊張を見せる。
リビングにはホログラムの少女が一人で立ち尽くしていた。
正宗はテレビが付いていることに気づく。
「優しいお母様ですね」
「そうか?」
「えぇ、ホログラムの私を一人の人間として扱ってくださいました」
「そうなのか?」
「はい。その為、仕事に行く前にテレビを付けていくから見ていてと言ってくれました」
昨日、母親にホログラムの少女との経緯を隠さずに全てを伝えた。母親は疑うこと無く信じて、ホログラムの少女をこの家に住まわせて言いと正宗に告げた。
ホログラムの少女はテレビを見続ける。
「北海道に英雄……誕生」
ホログラムの少女はテレビに映る文字を口に出していた。
「英雄?」
正宗は椅子に腰かけるとホログラムの少女が告げた英雄と言う言葉を気にする。
「この異常気象は自然現象では無いそうです。北海道は全ての土地に五メートルの雪が積もったそうです」
「ほう……五メートルね……はぁ?」
「それもいきなり積もったそうです」
「……確かに自然現象じゃ無理があるな」
自然現象で少しずつ溜まったり、除雪等で雪を高くして五メートルなら分かるが、北海道の全ての土地にいきなり五メートルの雪が積もるなんてあり得ない。
「それで、北海道は?」
正宗は素朴な疑問をぶつける。
北海道の全ての土地が五メートルの雪が積もったとしたら被害は相当なものになるだろう。
「全て、除去された様ですよ」
「……えっ?」
正宗は予想もしていなかった言葉に驚きを隠せなかった。
予想が出来る筈も無い。昨日の時点で北海道の雪のニュースはやっていなかった。つまり雪は自然現象では無いだろうが数時間前に北海道の全ての土地に五メートルの雪が積もった事になる。北海道の全ての土地を埋め尽くす雪を除雪させるにはかなりの時間を要する筈だ。
「どうやって?時間もそんなに経って無いだろ?」
「私がさっき言った英雄の話は覚えていますか?」
「そう言えば……言ってたな」
正宗はホログラムの少女が告げた事を思い出す。
確かにホログラムの少女はそう言った。
「その英雄が雪を全て消したんです」
「どうやって?」
「wcsでやった様ですよ」
正宗は理解する。
wcsは生物以外を武器に変換させる一連の動作を意味している。
北海道の全ての雪に対してwcsを発動させたとしたら北海道の全ての土地を埋め尽くす程の雪を武器化した事を意味している。
「凄いな。大量の雪を武器にするなんて……」
wcsに必要な魔法石は持ち主の思いの力によってその武器の性能を左右させる。つまり、wcsを使って北海道全ての雪を武器化さた人間の思いがそれだけ凄かった事を物語る。
「雪だけではありませんよ」
「……雪以外にも?」
「はい」
「待てよ。二つ以上を対象にwcsは使えないだろう?」
確かにwcsは一つを対象にして発動させる必要がある。
しかし、例外が存在する。
それは同じ属性の物ならwcsで変換出来る。
「wcsを使用した人は雪、水、氷の属性を持つ剣に変換した様ですよ」
「……三属性の剣」
正宗は行き当たりばったりでwcsを使用したにも関わらず、北海道をwcsを使い救った人間と自身のホログラムの少女を比べてしまった。
北海道の人間の凄さを痛感しながらテレビを見る正宗はテレビの画面に映る時間を確認すると慌てて動き出す。
「もうこんな時間かよ」
ジャージ姿で居た正宗は素早く、ジャージを脱ぎ棄てて、道着に着替える。
それでも寒さを感じ、クローゼットからコートを取り出す。
正宗は急いで家を出る支度をする。
「悪いこれから道場に行ってくる」
「私も良いですか?」
「……おう」
正宗はそう答えた。
そう答えるしかなかった。
ホログラムと言え、ぞんざいに扱う事は出来ない為、正宗はそう答えた。
二人は正宗が通っていた道場に向かう。
二人が歩く道にはうっすらと雪が積もっていた。
正宗が雪を踏みしめると雪は溶ける位うっすらと積もってた雪だが、ホログラムの少女が歩いても足跡がつく事は無い。
そんなホログラムの少女を見て、正宗は隣に居るのが間違いなく、ホログラムなのだと再認識する。
「道場に通って居るんですか?」
「通っていたよ」
正宗は過去形で話す。
それはつまり、正宗が道場に通って居たのは過去の話と言うことを意味している。正宗は高校生になるのを機に道場を止めた。
今日、正宗が道場に行くのは高校生になる前にもう一度、道場に行くことにした。
その道場は東京都のGランクの地域ある。
つまり、その道場はGランクの人々が大半を占める道場である。
正宗はその道場では公式戦には参加せずに居た為、ランクが上がる事はなかった。
ランクの変動は学校等の公式戦、道場等の施設による公式戦があり、それにより参加者が多い。数は少ないが死者も出てしまい、対策が何度もされている。
「大きな建物ですね」
「……そうか?」
通い慣れている正宗に対して初めて訪れるホログラムの少女の目には大きく映る。
二人は門を潜ると、道場の玄関に到着する。
正宗は迷い無く、玄関から入る。
ホログラムの少女はキョロキョロと周りを見ながら正宗の後を付いていく。
二人は道場の広間に着く。
「一人だけ女性が居るんですね」
ホログラムの少女は道場に一人だけ居る銀髪で短髪な女性を気にする。
正宗はその女性に目を向ける。
「あぁ、新藤美穂乃だ」
「彼女もGランクなのですか?」
「嫌、あいつはDランクだよ。まぁ、ここに来る物好きだけど……」
正宗から銀髪の女性ー美穂乃をホログラムの少女は見つめる。
美穂乃の腰にはホルスターを確認するホログラムの少女は見たことの無い拳銃に目を引かれる。
会話が途絶えた事に正宗はホログラムの少女を確認する。ホログラムが美穂乃を見つめていることに気づく。美穂乃と言っても腰部分を見ている事に気づく。
「美穂乃は2丁拳銃を使うんだよ」
「そうなんですね。wcsは……拳銃に?」
「そう。あれが」
ホログラムの少女の質問に正宗は見えているホルスターに閉まってある拳銃を指差す。
その拳銃は全てが銀色だ。
「……何を対象に?」
「避雷針だ」
「避雷針?」
「新藤家が数百年前に作った避雷針が老朽化で取り壊しになるからってwcsで拳銃に変換させたんだよ」
「確か東京都は近年良く雷が落ちるそうですね」
「あぁ、美穂乃の持つ拳銃は超電磁銃(レールガン)だ」
「レールガンですか凄い威力何でしょうね」
「どうだろう。あいつこの道場で武器は一切使わないからな」
「では、全て体術で?」
「あぁ」
二人が美穂乃について語っている最中に張本人が正宗とホログラムの少女の元に向かって歩き始める。
正宗に対して笑みを溢すが隣に居るホログラムの少女に気づくと不思議そうな顔を見せる。
「明日から同じ高校生として宜しくね」
「あぁ……ランクは別だがな」
正宗は呟く様に言葉を吐き捨てた。
美穂乃はそんな正宗に目もくれず、ホログラムの少女を見つめる。
「それで正宗、その子は?」
「……えっと」
正宗はどう答えるべきか考える。
しかし、思い浮かばない。
そんな正宗の選択は一つだけだ。
「……ホログラムだ」
「……そっか……良い趣味してる……ね」
美穂乃はひきつった顔でそう答えた。
それ以外の答え方を知らない美穂乃はそう答える。
そんな美穂乃を見て、正宗は直ぐ様訂正する。
「wcsでホログラムを変換させたんだよ」
「そう……良い趣味だね」
「どんな趣味だと思ってるんだよ」
「自分で美少女のホログラムを造ってwcsで武器に変換して見せびらかす男」
「どんな男だ」
いがみ合う二人を見てホログラムの少女は笑みを溢す。
「仲が良いんですね」
笑顔でそう言ったホログラムの少女に対して二人はそれを否定する。
「「仲良くなんて無い」」
シンクロして答える二人にホログラムの少女はただただ、笑顔でやり過ごす。
「そもそも、この子がホログラムって事も怪しいよね」
美穂乃は挑発するように告げる。
正宗はその挑発に乗っかる。
「良いだろう。見せてやるよ。行くぞ……えっと、あの、その」
正宗は身振り手振り、じたばたする。
正宗はホログラムの少女を名前を言いたいのだが言えない。そもそも名前が存在しないのだから
「よし雷影神剣(デジタル・ブレイド)」
正宗は唯一知っているホログラムの少女が剣に変換した時の名を告げた。
しかし、ホログラムの少女は唖然として立ち尽くす。
それは美穂乃や周りに居た道場生達も同様だ。
「……さっきから何してるの?」
美穂乃は正宗を小馬鹿にするように告げる。
正宗は隠しきれない程の怒りを見せる。
「……今日こそお前を倒す」
正宗は美穂乃を指差し、告げる。
道場に居る道場生達はいつも通りの出来事に呆れていた。
「今まで私に勝てた試しも無いくせに」
「だからこそ今日倒すんだよ……お前を」
「良いよ。結果は見えてるけど」
二人の戦う為広間の中心に向かい合う。
「ルールはどうする?」
「……何でもあり。wcsもね」
道場生達は広間の壁に背を預け、二人の戦いを見守る体制になっていた。
しかし、誰一人、正宗が告げた事を信じるものは居なかった。正宗の隣に立つ美少女が、ホログラムだと言う事を。正宗も最初にホログラムの少女を人間と勘違いしたのだから正宗は道場生達が「ホログラムな訳無いだろう」と聞こえるが反論はしない。反論するよりも見せたほうが早いのだから。
「……行けそうか?」
正宗は念のため確認を取る。
ホログラムの少女は笑顔で答える。
「大丈夫です」
wcs-武器使用主義での下克上 斑鳩 @ikaruga4
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