第1話 1
——いやぁ。異世界って本当にあるんだねぇ。そういえば昔、パラレルワールドっていうの聞いたことがある気がするけど、あれとは違うのかな?
後でスマホで調べてみようかな。
なんて、自分をごまかす為に冷静っぽくふるまってみたけど――。いやいや!? これを受け入れるなんて、ムリムリムリ! ものすご————っくパニック状態なんですけど!! 意味わかんないもん! みんな分かる!?
「せ、先生みんなはどこに行ったんですか!?」
先ずは疑問を一つ先生に。すると先生は、黒板の方を指さし、表情を凍らせて言った。
怯えてんのか、あの鬼教師が? いったい何があったんだ……。
「外だ……。“変な女”に連れていかれたんだ……」
「“変な女”? 連れてかれた?」
すると近くからの先生の鼻水をすする音のほかに、窓の外からワイワイと声が聞こえてきた。声からするに、こりゃあC組のみんなのだ……。
取り敢えずってことで、先生と一緒に教室の扉から出ることにした。
「うわぁ……。教室丸ごと……!」
出てすぐに教室の外観を見てみたが、長方形の箱のような見た目になってた。
——なんというか、教室っていう空間を切り出したみたいだ。ああ、それよりそれより……。
やや駆け足気味に黒板の反対側へと進んでみるとそこには——ええぇえ……!?
な、なななんと、赤、青、黄、緑——…髪の毛が! みんなの髪の毛があああ‼
——クラスメイト達の髪色がそれぞれ変わっていて、カラフルになっていたのだ。
「ななななな……!」
生徒たちのとんでもない姿を見て、先生もやはり驚きを隠せない様子……。
——ほらぁ、先生もびっくりしちゃってんじゃんっ!
すると、(恐らくクラスメイトの)瞳が緑色で赤色の髪の男子が、こちらを振り向いて手を振ってきた。
一瞬分からなかったけど、よくよく見ると、もしかして……⁉
「九重先生ー! 日高君!」
「も、もしかしてお前は瀬川か!?」
先生が名前を呼ぶと、瀬川? はこくりと頷いた。
瞳の色、髪の色こそ変わっているが、間違いなく彼は瀬川武仁であった。
——…えぇ、あのおとなしそうな武仁くんが⁉ ……いるよねー、長い休みが終わったらいつの間にかイメチェンしちゃってる人。……身近にいない?
「武仁くんはここがどこだか知ってるの? それにその髪の毛どうしたの……よく見たら目だって緑だし。カラコンしてたっけ?」
「ああー。これ?」
武仁くんは僕の言葉に、自分の後ろにいる女性に視線を向ける形で返してきた。女性は長い桃色の髪を後ろで一つに束ね、ポニーテールにしている。
——誰だ? 見覚えのないし、クラスにこんな人いなかったと思うけど……。
「貴様! 私の生徒に何をしたッ!」
先生が半ば叫ぶ形で女性に問う。あ~、この人が先生の言ってた‘‘変な女’’か。確かに髪の色変だぁ。まあ、それはクラスのみんなもだけど……おや?
——しかし謎の女性はひるむ様子は無く、それどころか微笑みをたたえて近づいてくる。そしてなんと、逆に先生がひるみ、後ずさってしまう始末……。なんか不気味ぃ。
「ぇ?」
しかし謎の女性は先生には目もくれず、そのまま僕の目の前まで歩き——
「お待ちしておりましたわ! カズハ様ですね? 貴方が最後の勇者様です」
「は、はぁ?」
……いや、突然そんなこと言われてもさぁ、理解できるわけないじゃん?
——どうやら顔にでてたみたいで、
「あら、わたくしったら! 失礼いたしましたわ。ご説明がまだでしたね」
謎の女性は「こほん」とわざとらしい咳を一つしてから、僕に視線を合わせて話し始める。
「わたくしは《シルヴィア・ロンイルド》と申します。この度勇者様方の一時ガイドを仰せつかりまして、お迎えに上がったのですわ。そして、ここにいる皆様が勇者様なのです」
なるほど……なんとなくわかった気がする(わかってない)!
「えっと、それでみんなの髪の毛は何であんな色に?」
そうシルヴィアさんに訊くと、一瞬考える仕草をしてから、ああ! っと明るい表情で理解したことを伝えてきた。まあ、異世界だし? ゲームアバターみたいにイメチェンしたくなる気持ちは分かるけどぉ?
「《初魔反応》ですわね。カズハ様には後ほど説明を行おうと思っていたのですが。……わかりました。少し説明は長くなりますがよろしいですか?」
「もちろん!」
シルヴィアさんが全員を案内したいというので、その道すがら《初魔反応》というものについて教えてもらった。
——《初魔反応》というのは、魔力を始めて感じた身体が魔力の影響で起こすものらしい。症状は二つ。髪と目がその人の魔力の属性により、色が変わってしま
う。髪色は第一属性。目は第二属性の色になるそうだ。ほほう……。
……まてよ。これを使えば学校で禁止されてた髪を染めるのを合法的にできて、アニメキャラみたいになれるってことじゃないか!
「あの、僕も魔法を教えてほしいです!」
「!? 葛羽お前まで何を言い出して!」
そう言うと九重先生が必死の形相で止めてきた。えぇ~だってぇ、みんなが羨ましいんだもん。
「もちろんです。適応属性確認用の魔法を後ほどお教えいたしますわ」
「やったー!」
「ぐぬぬ……!」
その後先生を無視した結果しばらくの間、先生からの“絶対にやめろ”という念がこもっているのだろう視線を背に受けることになった。
そして僕たちは、不安を覚えながらもシルヴィアさんについていくのだった。
かつての創造者は召喚勇者として舞い戻る。 瑞谷 桜 @mizutani_ou
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