土供養

安良巻祐介

 

 古代の埴輪によく似た人形を幾つも、段々畑の跡地に並べて、「土供養」という看板を掲げている。

 それらの人形の顔は、黒い孔で表された眼と、簡単な造形の鼻や口で出来ているのだが、眼が細められているわけでも、口が三日月になっているわけでもないのに、なぜか微笑んでいるように見えるから、不思議だ。

 看板の下にある碑文によれば、貧困と土壌の枯渇によって耕せなくなった畑を慰め眠らせるために、かつてそこで産されていた作物の形を模した人形を並べたとのことだった。

 そう言われてみると、確かに人形の形は、芋や大根などに似ているような気がしなくもない。

 では、これは、作物の雛というか、収穫霊というか、そういうものの表現なのか。

 ここへ来たのは、過疎高齢化地域の一集落が丸々音信不通となり、取り残されていた住人が消えたという噂の調査が理由だったのだが。

 人形の列を見つめながら、区役所から渡されている住人の写真を取り出してみる。

 すると、何だか、同じ微笑みを浮かべているように見えた。

 写真の中で肩を並べ、静かにこちらを見ている集落の人々と、枯れ果てた土地のうえで、土の鎮魂をするヒトガタの表情とは、見比べるほどに、よく似ている。

 土の上で生き、土を育て、土に生かされているのならば、人々もまた、作物の一つと言えるのかもしれない。

 人形の列の前でそんな事を考えるうち、ふと、集落の人々は、どこへも行っていないのではないか――などと思われてきて、何だか悲しいような、寂しいような、恐ろしいような気持に襲われ、写真を懐に収めて、日暮れよりも前に、その場所を立ち去った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

土供養 安良巻祐介 @aramaki88

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ