エピローグ
エピローグ
どこまでも続く雲ひとつない青い空。
爽やかな風。
カオリは消魔署の屋上で一人お弁当を食べていた。
この場所から見える名峰アルバルトの山を眺めることはカオリの日々の“幸せ”になりつつあった。
ご飯を食べている横には、カオリが霊傑となった時に契約した精霊が座っている。
カオリは何気なく問いかけた。
「ねぇ、そういえばよくわかってないんだけど、霊傑になる条件てなんなの?
みんな霊傑になればもっと人を助けられるのに」
「え? そんな情報、人間に教えると思う?
みんながみんな、僕たちの力を正しく使えるわけじゃないでしょ」
「それもそうね」
カオリは納得して頷いた。
だが、カオリは自分がこうして契約できた理由をなんとなく察していた。
自分が“幸せ”と感じることと、他の人たちが“幸せ”と感じていることが異なっていることに秘密があるに違いないのだ。
だが、そんなことに気づいたからと言ってなんの意味があるだろうかとカオリは考える。
カオリが他者にどれだけ自分の“幸せ”を説明して理解してもらっても、その“幸せ”を真の意味で共有することなどできないのだ。
結局、霊傑になる方法など人それぞれちがうのだ。
カオリは寝転がった。
消魔署は基本的に空間の高い場所に設置される。
おかげで見上げれば雲ひとつない空が見える。とても気分がいい。
「“幸せ”だなぁ」
カオリがそう呟いた時。心地の良い昼下がりに鳴り響くサイレン。
ウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!! 魔災発生! 魔災発生!
ウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!! 魔災発生! 魔災発生!
「カオリ! 出動だよ!」
ナディアが下で叫んでいる。
「わかってるよ! ナディアこそ遅れないで!」
カオリはすぐに霊傑の力を発動。
屋上から飛び降りると自分と耐魔服を浮かべ、消魔車の方に飛びながら服を着替える。
ナディアが叫ぶ。
「あ! それ使うのずるい!」
「ずるくないもん!
私の実力!
ここまで器用に操れるようになるまでどれだけ練習したと思ってるの!」
「おい、二人ともピクニックに行くわけじゃないんだ。もっと真剣な顔しろ」
ロンが二人に釘をさす。だが、カオリはそんなもの御構い無しだった。
「何言ってるの! これはチャンスなの!
私が“幸せ”を実践するためのね! ね、アスカ!」
「一緒にしないで!
私の“幸せ”はかっこいい男の人を助けてその人と結婚して寿退社することよ!
あんたみたいに助けるだけで“幸せ”になんてならないわよ!」
「あはははは! アスカの“幸せ”は遠そうだね」
「ハァ!?」
カオリは誰よりも先に消魔車へ飛び込む。
運転席にちょうどボブが座ろうとしている時だった。
「ボブより早く乗れたのは初めてかな?」
「カオリ。霊傑の力を耐魔服を着るというくだらないことに使うなよ」
ボブはふてくされたように言う。
どうやらカオリが思っていた以上に、彼は最初に消魔車に乗り込むことが好きだったようだった。
カオリは手の中でシルフィリアの力を使って風を起こし、ボブの方をポンポンと叩いて慰める。
「何言ってんの! 早く出動できるに越したことはないでしょ!」
そして、カオリは外に向かって叫ぶ。
「トーマス! 何チンタラしてんの!
女に負けないんじゃなかったの!?
と言うか私をシメるみたいなこと言ってたけどそれはいつになるのかな!?」
「ウルセェ! いつか必ずやってやるよ!」
「はぁ。お前ら、ちょっとテンション下げろ。変なミスするぞ」
ヴィンセントが消魔車に乗り込む
。結局、カオリは以前の独断専行を怒られなかった。
むしろ、ヴィンセント自身、自分がまだ霊傑になっていないことそれ自体が自分の足りてなさを表している。
人に注意する前に自分から直すべきだったとカオリに言っていた。
自分の消魔士としての存在をもう一度考え直すチャンスをもらったとカオリに礼まで言うほどに彼は今回の件を重く受け止めていた。
「全員乗り込んだか!?」
片足が義足になったギンガが消魔車の助手席に乗り込んだ。
そして一同の顔を確認する。全員、いい顔をしていた。
悲観していない、真剣な表情だった。
「よし! 今日も消魔士としての本分を果たし! 人を助け、魔災を収め!!」
ギンガはぐっと声を貯めると、一際大きな声で叫んだ。
「みんなそれぞれの“幸せ”を実現するぞ!!」
「おお!!」
消魔車は燦々と降り注ぐ太陽の光を受けながら、踊るように外へ飛び出した。
こちら消魔署北東支部!! 黒鍵猫三朗 @KuroKagiNeko
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