第3話 初めての友達

 一生懸命知恵を振り絞って考えた結果、何も言わずにボーカルをやることにした。やはりボーカルも知らなかったことは彼にバレたくない。プライドが許さない。


 でも私は歌に自信なんてどこにもない。親には内緒で近くのカラオケボックスに通うことにした。でも1人じゃ行き方もやり方も分からなくて。とりあえず帰り道に音楽を聴くことから始めた。


 家に着きイヤホンを外し、玄関の扉を開けると母が待ち構えていた。


「最近、なんか浮かれてない?あなた分かってる?大学受験はそう甘くはないわ。高校受験も失敗したあなたが前よりも浮かれてたら大学受験が成功するわけないじゃない」


 いつもいつも"勉強 勉強"ってもう耳が痛い。

 確かに勉強が大切なことはわかるけど少し締め付けすぎじゃない?と最近思い始めた。


「私は勉強なんてもうしない!バンドがやりたい!お母さんに反対されてもやるんだから!」


と言い放って階段を勢いよく登って行った。


 部屋にこもりネットで歌をうまうコツやボーカルになる方法を調べた。まずは体力づくりからだ。歌を歌うのにも腹筋がいる。私は毎日10回を目標として頑張った。最初の頃は、1回で限界だったけれど2週間くらい続けていくと10回連続で出来るようになった。連続してできる回数が増えていく度に努力の成果が現れたように思えてすごく嬉しかった。



 高校入学してから3ヶ月が経ちやっと友達ができた。如月 凜々きさらぎりりちゃん。私が黒板を消していて背が届かなくて上の方が消すことが出来なくて困っていたら助けてくれた。優しく笑顔で


「手伝うよ」


とだけ言って。黒板を消し終わったあとに


「ありがとう!」


 とお礼を告げると


「山崎さんだよね?私は如月 凜々。よかったら友達にならない?」


と私はこんなこと生まれて初めて言われた。今までこの15年間"ガリ勉" と敬遠されてきた。友達なんて1人もできたことない。

 今、生まれて始めた友達ができた。


 凜々ちゃんは優しくて笑顔が素敵でクールでしっかり者で友達も多くて。何事も全力投球で。私にはないものばかり。

 凜々ちゃんのおかげで学校生活は勉強だけじゃないんだと思えるようにもなった。


 ある日、教室で凜々ちゃんと話していると誰かが私のことを呼ぶ声が聞こえた。


「山崎さーん」


と呼ぶ声が。聞いた事ある声だなと思い、教室の扉付近を見てみると、大好きな神崎くんが私のことを呼んでいた。


「澄麗、誰なの?まさかの彼氏?」


「あっいや、そういうのじゃなくて。友達というか。なんか微妙な関係。ちょっと行ってくる」


 私は頬を少し赤らめながら神崎くんの待っている廊下へ向かった。


「ごめんね、お待たせー」


「おう、今度一緒にカラオケ行かない?どのくらいの歌唱力なのか知りたくて」


 どうしよう。まともに歌ったことすらないのに。ついこの間までボーカルすら何か知らなかったのに。行きたいけど恥をかくだけだ。

 ここは正直に言うべきだ。神崎くんの為にも自分の為にも。


「ごめんなさい。実はついこの間までボーカルの意味すら知らなくて、歌だってまともに歌ったこと1度もなくて。本当にごめんなさい」


 と頭を下げた。緊張で言葉がおかしくなった。怒ったかな?私のことを嫌いになったかな?マイナスの感情で胸がいっぱいだった。この瞬間が1秒でも早く終わりますようにと願うばかり。


「まぁまぁ、頭を上げて。ちょっとびっくりしたけどこれから練習していけばいいよ。

 俺も練習に付き合うからさ。謝るほどのことでもないよ」


と彼は笑いながら言った。彼の笑顔と言葉は最強だ。マイナスの感情で満ちた私の心をプラスの感情に導いてくれる。やっぱり私は彼が大好きだ。


 突然後ろから声がした。


「澄麗ー、なにいちゃついてんの?」


 この声は……凜々だ!


「ちょっと、何しに来たのよー」


「楽しそうな話してたからなんだろうなって思って」


「もー」



「あっそーだ!」

 といきなり神崎くんが言い出した。


「どーしたの?神崎くん」


「もしよかったらあなたもバンドやらない?」


 といきなり凜々に話しかけたのだ。


「バンド?あなたもってことは……」


 やっと気づいたのか私たちは恋人でも友達でもなくただのバンド仲間ってことに。(本当は恋人になりたいんだけどね)


「私と神崎くんはバンド仲間なの」


「あーそーゆーことね。それなら私もバンド始めちゃおっかなー。一応ギターなら経験あるし」


「それは話が早いな。あなたが入ってくれるとギター、ボーカル、ドラムと一応最低限は揃うんだよ」


 と神崎くんが嬉しそうに言った。


「でも、ベースがいないけど」


と凜々が神崎くんに問いた。


「ドラムは一応ベース代わりにもなるんだ。それより名前と学年とクラス聞いていいかな?」


 私はなんか一人おいてけぼりになったきぶんだ。ベースやらギターやら全くと言っていいほど話についていけない。


「1年2組の如月 凜々。よろしくー」


「俺は1年6組の神崎 健太郎。よろしく」


 友達の凜々が一緒にバンドをしてくれるのは嬉しい反面悲しかった。生まれて初めてできた大切な友達とバンドを出来ることは嬉しいけどそれに反面神崎くんと二人っきりの時間がなくなってしまう。


「せっかくのバンドメンバーなんだし苗字じゃなくて名前で呼びあわない?なんか苗字ってよそよそしくない?」


といきなり大好きな神崎くんが提案した。


「いいねー、なんか青春」


 凜々はすぐに話に応えたが私はそんなにすぐに言葉が出てこない。名前呼びなんて想像しただけでも緊張してしまう。

 私は頭をフル回転させ言葉を探し出した。


「いいと思う。なんか親しくなった気分」


 頭をフル回転させた結果がこの応え方。本当はもっとキラキラした相手を魅了させるような言葉を言いたかったのにな。

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