山の早春

桑原賢五郎丸

第1話

無事に冬を越えた渡り鳥の甲高い鳴き声が響いてきた。

梅の花の匂いも漂ってくる。

少しずつ暖かくなってきている。春眠なんとかという言葉の通り、眠くて仕方ない。

だいぶ眠ったけど、それでもまだ眠り足りない気もする。


山の冬は厳しい。何年過ごしてもこの厳しさは変わらない。

秋が一番好きだ。食い物も美味いし、程よく暖かく、過ごしやすい。

何より一面の紅葉が目を楽しませてくれる。


眠る前に別れた彼女は無事だろうか。

もしかしたら子供を産んだかもしれない。

凍てつく寒さに凍えなかったろうか。

元気でいてくれたのならばいいのだが。


それにしても、眠る前に結構食べたのに、今は空腹だ。

腹が減って気が狂いそうだ。

かなり痩せてしまった気もする。

そろそろ外に出ることにしよう。


外への出口で立ち止まった。

白い雪に反射された陽光が目に飛び込んで動けない。

それでもまずは腹ごしらえをしたい。


離れた場所で雪を踏みしめる音がした。

おれの匂いに気づかないのか、エサの集団が近づいてきている。

舌なめずりが止まらない。あの2本足どもは皮が邪魔だが、一度喰うとやみつきになる。

すぐそこまで音が近づいてきている。

5ヶ月ぶりの食事にありつけそうだ。

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山の早春 桑原賢五郎丸 @coffee_oic

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