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「はぁ?!」
風間くんが、派手にビールを吹いた。
それを、店員さんに借りたおしぼりで、さっさと片付けてるキクに、どうしてか俺が「ごめんな。ありがとう。」と言っていた。
ゴトン、と飲みかけの大ジョッキを置いた風間くんは、Yシャツの袖でぐっと口元をぬぐうとくるくるとそれをまくりあげた。
あぁ、そういうシステムになってんのか。そのシャツは。
「何?どういうこと!?なんで、星野くんが圭吾の。」
風間くんが頼んだピザにも吹いたビールが飛んでたから、そのちょっと湿ったピザをキクがそーっと風間くん側に寄せた。
お前が責任取れよ、ってことなんだろう。
変わらず世話焼く癖に、意外と甘くないところはどうやら変わってないらしい。
「どうもこうもないよ。圭吾が出るっていうから、えーっと舞台?で、チケットもらったから、みんなで行こうって。」
「…誰にもらったの?」
「へ?圭吾だよ。」
「なんで?」
「え?ちょっとまって、なんなのこのループ。」
キクと風間くんが首をかしげてるのに何となく、ムッとしながら、あ。そっか、と思い当たる。
そうだ、二人とも。
ずっとわかってて、黙ってくれていたんだ。
「…こないだ、偶然会ったんだよ。」
「…嘘。マジで?」
「うん。で、俺“オオハタケイゴのファンだよ”って。ファンレターまで書いたもん。」
「……は?あぁ、もう。いいや。で、圭吾は?なんて?」
「だから、芝居やるからって。詐欺師役らしいよ。」
キクは俺と風間くんが話すのをじっと聞いてた。で、でっかい目でじっと俺を見た。
「…いいの?もう。」
その一言が、何を差すかわからないほど、子どもでもない。
ましてやこの長い年月、黙って近くにいてくれてたのに疑う余地もない。
「しがみついてたわけじゃないよ。わすれてた、正直。でも胸の中ではずっとあったんだなってのは。うん。ちょっと色々あって思い知った。俺はね多分、安心したかったんだ。好きな人が、俺から離れてかないって、その実感がほしかったんだよ。」
「…実感?」
「うん。だから大丈夫。だってほら。」
「ん?」
「風間くんもキクも、俺のこと好きでしょ?そういうことだよ。だからみんなで見に行くよ?」
キクが、ニッと口角をあげた。
風間くんが目を真ん丸にして、目尻をクシャっとした。
何となく、三人ともジョッキもってゴンって鳴らして乾杯をした。
ホントはもっと、言いたいことがあった。
見守ってくれていてありがとう、とか。
こっそり、圭吾の出てるものをチェックしてる風間くんにも、
何にも言わない癖に、時々飲みの席つくって声かけてくれてたりするキクにも。
けど、多分。
知ってて知らないふりしてくれててありがとう、なんて。
この二人は欲しくない言葉だと思う。
「今までありがと、」と言いかけたら、「あ。これ責任取ってね。」と遮るようにキクがまたピザを風間くんに押し出したから。
場を察したのだろう。湿ったピザに、えーーーって大げさに肩をがっくり落としてる。
「まずそう…。」
「残さないでね。ダメだよ。」
「…はい。」
仕方なさそうに一切れ口にいれて、「まぁ、食える範囲。」ともぐもぐし始めて、さっきの風間くんの下手くそなリアクションはその腹に入っていった。
これでいいんだ。
だって、またみんなで遊ぶんだから。
「そういや、大庭は?」
「仕込みの時間に起きれなくなるからって。今日は寝るってさ。」
「へぇ。ちゃんとやってんだな。」
「俺、またケーキ買うからチケット渡しとく。」
「あ。いくの?大三角形に。じゃよろしく言っといて。」
「…え?何?」
風間くんが、ピザのみ込んでキョトンとした。
「え?大庭の店、大三角形のマークでしょ?あれ。違うの??」
丸の中の、黒い転々。
鼻くそとか言われてんのに、そっか、あれ。
星だったのか。
ふふふふ、と笑いだす俺に二人は不思議そうに首をかしげた。
なんだ。
あるんだ。
大事なものを、守る星。
正しくても正しくなくても、
綺麗でも綺麗じゃなくても、
ちゃんとあるんだ。
「今度は、圭吾も一緒に飲もう。」
俺がそう言うと、二人は今度は驚きもしない。
「あぁ、そうね。」
と、当たり前みたいにそう言った。
おわり
たぶん、大丈夫。 おととゆう @kakimonoyuu
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