悪魔ー魂を喰らうものー

 それが魂吸収を覚えてから始まるのは食事であった。

 最も龍脈から遠い場所にいたそれは、最も弱い妖精であったが、いまではそのころの面影は一切ない。

 他の妖精たちを一方的に吸収していき、今までの遅れを取り戻さんとするかのように、次々と元々自分と同じ種族だったもの達の魂を取り込んでいった。

 そして、本来ならば幾度も龍脈の流れが変わるほどの時間を要する段階。妖精で言えば中妖精に相当する、中位悪魔へと瞬く間に成長するのであった。


―――

新しい種族、中位悪魔を認知しました。

新しいスキル、悪魔膜を認知しました。

―――


 さて、この新たに生まれ中位まで成長した悪魔の物語を始める前に、妖精膜や悪魔膜について少々お話をしましょう。

 妖精膜・悪魔膜共に共通していることは、物理的な「膜」ではないという事です。これは細胞膜とは違い物質で構成されていない為である。

 では、この二つの膜は何で構成されているかと言えば、感情だ。

 膜を獲得していない妖精や悪魔は明確な自我を持たない。魂へと変質した魔素に蓄積されている情報があるのみである。

 この状態を人で例えるならば、赤ん坊と言ったところだろう。

 生まれたばかりの赤ん坊に感情はあるのかと問われれば、ハテナと答えざるを得ないと作者は思っている。

 人間として未熟ではあるが体は出来上がっている・・・が、脳に蓄積された情報が少ないために明確な個としての感情、つまり自我が発露していないからだ。

 そして、妖精と悪魔が獲得した膜とは、赤ん坊のような状態であった彼らが、時をかけて得た情報を蓄積した結果得たものである。


 魔素が集まり小妖精や小悪魔と言った状態がエーテル体のみの状態、膜がアストラル体である。そして、この二つが発言した状態をマナス体と本作では呼称しよう。


 最後に

エーテル体=種族名+魂力

アストラル体=○○膜+魂力

マナス体=エーテル体+アストラル体

※その他スキル等はその特性により、エーテル体に属したりアストラル体に属したりする。


 では、エーテル体とアストラル体を得、肉の身体を持たない精神生命体として成長した、中位悪魔の一体がこれからどのような道を辿るのか。読者の皆さんも一緒に見ていきましょう。


 揺らめく儚い存在、エーテル体のみの存在だった下位悪魔が、数多の小妖精たちの魂力を吸収。中位悪魔へと至ることによって、それまで曖昧だった精神が明確な自我を獲得した。

 その瞬間の彼の悪魔は、急に意識できる状態になった事に軽い驚きを得つつも、それが当たり前であるかの如き行動を見せる。

 希薄な魔素を探知して周囲を把握していく彼、魔素が希薄故に探知するのも中々に難儀をするような環境ではあるが、魂力の増大と共にスキル・魔素探知の性能も向上している為、以前とは比較にならないほどの距離と精度で周囲を探知できるようになっていた。だが、下位悪魔時代の頃に記憶が曖昧だった彼にとってしてみれば、その頃と比較するのは難しく、今の状態が彼にとってのスタート地点である。

 下位悪魔の時にこの場所にいた小妖精の魂を吸収したため少々数は減ってはいるが、まだまだここに取り残された小妖精は沢山居る。

 それを確認して彼が思う事はただ一つ。


 選り取り見取りですね。


 そして、徐に動き出し手短な小妖精に接触して、魂力の吸収を行っていくのだった。

 魂を食べて己の魂力を増やしていく中位悪魔。

 対して、食べられる側の小妖精はというと為されるがままであった。これは彼が下位悪魔の頃と同様だ。

 しかしながら、全てが全て同じ反応という訳でもない。悪魔へと至った彼と同様に感情を得るものは確かにいる。だが、彼我の能力差で以って蹂躙されるがままとなってしまうのだ。

 ここは現在魔素枯渇となっている。龍脈の流れがこの場所へと流れるようになってはいるが、ここは龍脈との接続している場所より最も離れている場所。

 魔素濃度が極端に低い為、周囲の魔素を吸収だけでは成長など望めない。

 故に、妖精のままではこの悪魔に抗うことなど不可能であった。

 そして、一方的に捕食されるその恐怖はいずれ怒りへとなるのは道理であろう。

 なぜ自分が一方的に殺されなければならないのか。

 そんな感情から始まる憤怒の感情は、悪魔と対抗する為に悪魔へと至るようになった。

 彼以外の悪魔の誕生である。

 そして始まるのは、先に生まれた悪魔に対抗するために自らの強化だ。詰まる所その存在も他者を糧にして成長することを選んだだけ。

 そう言った存在が数は少ないものの少しずつ増えて行くと、悪魔同士の魂の奪い合いが始まった。

 一足先に中位悪魔へと進化した彼は、他の悪魔達と比較して頭がいくつも出ている状態だが、それ以外の悪魔達同士の能力は多少の違いこそあれそれ程変わらない。

 小妖精を捕食しつつ他の悪魔達を排除する。悪魔達にとっての日常が生れたのだ。

 その中であって彼も捕食を繰り返している。その捕食対象に悪魔を加えながら。


 私は最近妖精を食べて無いなとふと思い周囲に意識を向けてみる。

 するとどうだろうか、私の探知できる領域内に妖精が一切居なくなっていた。いるのは私よりも後に生まれた同族の悪魔のみの様だ。

 どうやら、食べ過ぎてこの辺りの妖精は食べつくしてしまったようですね。

 とりあえずその辺りにいる悪魔を食べていきましょう。


 生物の淘汰、それは精神だけの存在でも免れ得ない非常な鉄則。

 先に生まれただけと誰かは思うかもしれないが、これは圧倒的なアドバンテージだ。

 その身に貯め込んだ魔素量によって、魂力を増大させることによる能力の拡大は、やはり時間経過による差が大きくなるからだ。

 彼は余裕をもって悪魔達の魂力を吸収していく。そして、周囲の悪魔を食べながら移動をし、更なる食物を求めていった。

 鎧袖一触とはいかないまでも、触れた相手の魂力を圧倒的な能力差で以って一方的に吸収しつつ移動することしばし。

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