第1話 私の角……どうでしたか?

「あっ、そういえばさらちゃん」

「え?どうしたの?」

ある程度歩いたところで、友達のももちゃんが何かを思い出したのか、ふと立ち止まった。


「今日のお昼に『 今日学校終わったら病院行くんだよね』って話してなかった?」



「……あっ!!!忘れてた!!!」


話が楽しくて完全に忘れてた……今日は定期検診の日でした。


「ももちゃんありがと!!!」

「うん!また明日ね~」

「また明日ー!」


ももちゃんにお礼を言って病院にダッシュ!

先生を待たせちゃったら大変だからね。

体力が無いからすぐ疲れちゃうけど……出来るだけ急いで病院に向かいました。

信号に捕まること数回……息切れしちゃって肩で呼吸しながら、ようやく病院に辿り着きました。


――――――


「紫依さん、こんばんは。お掛けください」

「はぁ……はぁ……先生、こんばんは……」


急いで診察室に駆け込んだせいで未だに息が上がっている私は、先生に促され椅子に座った。


「では、今月の定期診断を始めますね」

「はい、お願いします」


いつもの様に先生から粒の薬とお水の入ったコップを渡された。

それを飲んでから、診察室のベッドで横になると、直ぐに薬の効果は表れ意識が遠のいていく。

これで眠っているだけで終わるのだから簡単なものだよね。

もう何回も行っている行動であり、私が寝てる間に定期診断が終了するのがいつも通りの流れでした。


具体的にどういう診断方法なのかは知りませんでしたが……きっと何か人間ドックのようなものをやってるんでしょう。


私はそのまま抵抗もせずに、自分の意識を手放した。



――――――



「紫依さんお疲れ様です。今日の診断は終了しました。」



「んっ……先生。おはようございます……」


まだ眠いけど、いつまでもここで寝ぼけている訳にはいかないので、頑張って上半身を起こす。


「私の角……どうでしたか?何か……変わってましたか?」


重い瞼を持ち上げながら、恐る恐る先生に尋ねる。


「大丈夫。前回からの変化は特に無く健康だよ。」


先生は優しく微笑みながら、不安そうな表情の私に伝えた。


「良かった……」

ほっ、と胸を撫で下ろす。

これまでの定期検診でも、特に大きな問題が発見されたことは無いものの、毎回この瞬間は不安で不安で仕方が無かった。


「何か学校で困ってしまうことはあったかい?頭が痛くなるとか……些細なことでいいんだ」


先生が優しい雰囲気で質問してきた。けれど、特に思い当たることは無いかな……。


「うーん……ごめんなさい。特に思い付かないです」


「……………………………………そうか」



少しの沈黙だった。その間の先生の顔はとても重く、苦しいものに見えた。

しかし、すぐに明るい表情になり、


「何も無いのは良い事だね。ありがとう」


と伝えた。まるでさっきまでの顔が私の見間違えかのようだった。

さっきは、健康だと言っていたけど……なんでだろう。


「心配させてしまったかな?紫依さんは健康だ、大丈夫だよ。でも念の為定期診断は続けようか」


「はい……ありがとうございます。私は寝てるだけですし……また来月よろしくお願いします」


自分の鞄を手に持ち帰ろうとしたが、そういえば、と先生に声をかける。


「もしかして……診断の時寝てる私をいつも人間ドックの機械まで先生が運んでくれてるんですか?最近また体重が増えちゃったかもなので大変ですよね……ごめんなさい」


検診では人間ドックなどを使うだろうに薬を飲んで目覚める前と目覚めた後は同じ場所にいる。もしかして先生に迷惑をかけているかも、と思い先生に謝った。


それに最近、また胸にお肉がついてしまった……。母譲りの体質ではあるけど体重が増えるのはつらい……。


「……あぁ、心配しないで。僕の仕事だから」


……?先生の顔が一瞬驚いたような顔になった気がした。しかし、直後に先生はこう言ってくれた。


「そうですか……ありがとうございました」



―――私はそのまま診察室を出て、今まで自分が居た『精神科』を後にした。




――――――――――――



「……ふぅ」


「先生、お疲れ様です」


「あぁ、ありがとう」


患者を送った医者は、看護師に話しかけられた。


「先生……どうかされましたか?お疲れのようですが……。」


「いや……紫依さんはまだ気付いていないのか、と思ってさ」


「人間ドックを受けてると思ってるんですよね……」


「僕は心配だけど……こればっかりは仕方無いことだね」


医者は、さっきまで患者の寝ていたベッドを見ながら言った。





「彼女自身がどう向き合うのか……こればっかりは僕たちにはどうしようもできないことだから」

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角の生えた少女の話 紫依さら @siyori_sara

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