家族の誕生日

冠梨惟人

第1話

 私穂という名前はお母さんが付けた。私は、お母さんがとても大好き、ランドセルを背負っていた時分には目を輝かせ、もっと、はっきり言えた。お母さんの顔は私によく似ている、女の子は父親に似るというが、私に似たきれいなお母さんで良かった。お母さんのことがとても大好きだけど、学校から帰ってきて玄関を開けると、必ず迎えに出て来るお母さんの優しさに、少し胸が痛くなり、お母さんの顔を見れずに宿題があるからと言って自分の部屋に駆け込んでしまう。ピカピカだったセーラー服がどこかこそばゆく感じてた頃だったと思う。お母さんを見る目にぎこちなさを感じて、無邪気にお母さんに笑顔が向けられなくなった。


 アパートの扉の前で、動けなかった。

 今日という日が、また来てしまったから。


 いつもは帰りの遅いお父さんが夕食を私と一緒にするのは、今日という日ぐらい、普段は優しい笑みを絶やさないお母さんが、緊張した顔でお父さんの帰りを待っている。やっと。という思いが胸の中で溢れてきた。真っ暗で、柔らかな檻の扉がこれから開かれる。



 お父さんが、テーブルの真ん中に白い箱を置いて、箱を開けた。

 とても可愛らしく、美味しそうな真っ赤な苺が飾られた白いケーキだった。

 ローソクを立てようとして私が立ち上がると、お母さんが大切な話があると、声を微かに震わせた。私はお母さんが話し出すのを待っていられずに、お母さんの目を見つめた。

 「私には、お母さんが二人いるのは知ってるから。大丈夫だから」

 

 お母さんは声を出さずに泣いた。お父さんは黙って私を見つめていた。


 やっと、私は本当の気持ちを言葉に出来る。

 「私、兄弟が欲しい。お母さんに良く似た兄弟。今日を家族の誕生日にして、家族皆でお祝いするの」



 私は天国にいるお母さんに心で問いかけた。お母さん、これで良いんだよね。

 

 双子の妹を見つめるお母さんの笑顔は、輝いていた。

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家族の誕生日 冠梨惟人 @kannasiyuito

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