屋上ですが、彼女は下を見ました⑥

お客って…ここ生徒指導室だろ。

まあ、今はそんなことよりも、ツッコまなければいけないのだ。


「いい加減、その呼び方と急に態度を変えるのやめましょうよ」

「いいじゃない、かなくんと私は昔からの付き合いでしょ?」

「昔からって言っても2年前じゃないですか」

「そんな小さな事気にしないの〜!」


ニコッと笑い、間の抜けた声を出す。

本当にこの人は頭のネジが外れていると思う。

2年前、シェアハウスに入りたての頃、秋菜の親友ということもあり、一度訪れて来たのが、この人との本格的な出会いだ。

この人が一体何を根拠に俺にこのような態度を取るのか、未だに不明だが、とりあえず普段の学校にいる姿とは違いすぎるため、毎回この柏木先生には、どうしても慣れることができない。


「かなくんは可愛いんだから〜」

「やめてください」


毎回これだ。

最初の方は確かに嬉しかった。

こんなに美人な人と仲良くできるのも、可愛いと言ってもらえるのも。しかし…もうお腹いっぱいです。すごい恥ずかしくなる。

そんな柏木先生の暴走は、この先止まる気配がなかったので、話題を変えようと俺は脳みそをフル回転させることにした。


「で、華宮のことで話って何ですか」


ぴたっと体の動きを止め、すぐに真剣な表情に変わる。やはり、この姿こそが柏木先生らしいなと、そんなことを瞬時に思ってしまう。

腕を組み、柏木先生は自分で用意したコーヒーに口をつける。

そして、どこか真剣な眼差しで俺を柏木先生は見つめた。


「かなくんのシェアハウスにいるのよね?」

「いますよ」

「分かってると思うけど、あの子は戻らないといけないのよ」

「もちろん理解してます。家に戻らないと親が心配しますもんね」


俺の言葉に、柏木先生はコクっと頷いた。

華宮は元大スターなのだ、そんな子が家出なんて当たり前だけど両親が心配しないわけがない。


「音楽業界にもよ」

「ほぉ」


柏木先生の言葉に、間の抜けた声が出てしまい。それを誤魔化すかのように俺はコーヒーを啜った。


「また活動再開するんですか?」


考えれば当然のことだ。

短期間であれほどの影響を日本に与えたのだから、音楽業界に戻らないと勿体無いと、誰もが思う。そして、誰もが華宮の帰りを待っているのだ。

でも、まるでそんな世間とは対蹠的たいしょてきな顔を、柏木先生は浮かべた。


「…そうね」


柏木先生の顔が曇る。

理由は分からないが、その顔に違和感を覚えた。なぜ柏木先生がその顔をするのだろうか。


「要は俺が華宮を説得して家に返せばいいってことですか?」

「そうね」

「分かりました、それじゃあ夜話してみます」

「待って」


腰を上げた俺を制するかのように、柏木先生が口を開いた。


「何ですか」

「ちゃんと話を聞いてあげて」

「もちろんですよ」

「あの子のことを考えてあげてね」

「は、はい」


やっぱり色々謎だ。

なぜ柏木先生がそんなことを言うのか。

ただ、『いずれ分かる』と、柏木先生の目は言っているように思えた。



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