二章 人として、衛士として
#01
王城に勤める衛士たちが使う訓練場は、王城から15分ほど歩いた場所にある。
黒色の煉瓦を無骨に積み上げて造られた兵舎には様々な場面を想定した訓練施設があり、その隣にだだっ広い校庭が併設されている。
その校庭の片隅に、ヨルダ・ファダレーは今にも死にそうな顔で倒れ込んだ。
全身がバラバラになりそうだ。肺から血の味がする。呼吸が追いつかない。
自分の呼吸の音しか聞こえない。視界の片隅には、同じように地面に這いつくばっているゼインの姿がある。
「本来、命令違反は重罪で厳罰だ。だが最初の最初、右も左もわからない状態でイキナリの実戦だったから、ある程度は酌量してやらんでもない。しかし示しをつける必要もある。そこでだ」
椅子にどっかと腰掛け、足を堂々と机の上に乗せるという護衛兵あるまじき姿で。憎らしくニタニタと笑いながら朝一番で延々と説教をかましていたアールがヨルダの脳裏に浮かぶ。
「とりあえず校庭を20周してこい。それで今回の件はチャラだ」
有無を言わさなぬその一言に逆らえず、ヨルダとゼインは仲良くこの理不尽に広い校庭を20週も走らされたのであった。
「くそ......初日から、こんな」
ようやく息も絶え絶えのヨルダの口から出てきた言葉は、初っ端から恥をかくはめになったことへの悔しさだった。
「でも......仕方ないよね。命令違反は......命令違反だし」
同じく死にかけの掠れ声で、ゼインはしおらしくそういった。
「そりゃそうだけど......撃退した俺たちの功労も......評価されるべきじゃないのか」
「たしかに、二人掛かりだったけど......ひとりは倒したもんね。......ところで、蹴られた痕は大丈夫?」
「ん、ああ......痣にはなったが、大したことない」
事実、今日の走り込みでも痛みはなかった。取り柄の頑丈さが生かされたのかもしれない。
そこで、ヨルダは昨日の助太刀の礼をまだしっかり言えていないことを思い出した。あの一撃が無ければ、いまごろ自分はどんな重症を負っていたかわからない。
「昨日の助太刀は本当に助かった。ゼインが居なかったら死んでいたかもしれない」
「ああ、うん。いざという時に助けるのはお互い様だから」
ゼインは照れ臭そうに顔を背けた。
会話が途切れる。
2人の間を、春の心地よい風が通り過ぎていった。
エリーゼに捧ぐ剣 @takuaaan
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