#07
その日の夜のこと。
証明のほの暗い光が照らし出す廊下に、コツコツと鋼鉄の踵を打ち付ける音が響く。
灰色の制服に身を包んだ小柄な女衛士が、王女の居室がある尖塔の廊下をひとり歩いていた。
彼女--ルエラは、やがて廊下の端の一室にたどりつく。無骨な木製の扉を開けると、中には中年の巨漢がだらりと椅子に腰掛けていた。
「よ、ご苦労」
「お疲れ様です、アール隊長。フタマルサンマル、こちら異常なしで......」
と、ルエラは急に顔をしかめる。アールの口からもくもくと白煙が漏れ出ていることに遅まきながら気づいたからだ。
「控室は禁煙です」
「いいじゃねえか、窓開いてるしよ」
「関係ありません。ここは共有の場所です。なにより、エリーゼ様にも嫌がられますよ」
「ちゃんと工夫して制服に染み付かないようにしてるだろ。そこの気は遣ってるよ」
「......新人の前ではお願いですからやめて下さい」
ルエラははあ、とため息をつく。いくら注意しても、この大男が絶対にタバコをやめてくれないことは分かっていた。
「......エリーゼ様はもうお休みになられました」
「ご苦労。まァ無理もねェ。病み上がりに無理させちまったしな」
「ええ...」
アールの言葉に、ルエラはエリーゼの弱々しい姿を思い出していたたまれない気持ちになる。
「......彼らへの処置は、どうしましょうか」
日中の襲撃事件を思い返しながら、エリーゼは先輩の指示を仰ぐ。新人2名の暴走があったとはいえ、少なくとも護衛任務そのものに支障はなかった。全体としても、他の事件と比べれば、まだまだ余裕を持って対処できた方、というのがルエラの感想である。
「あん? 立派に命令違反だからな。明日直々にこってり絞ってやるよ」
「わかりました。......それにしても」
ルエラはアールの顔を見てくすりと笑う。
「んだよ、気持ち悪いぞ」
「いえ。楽しそうだな、と思いまして」
ルエラの言葉に、アールは悪事がバレた子供のように笑った。
「 ......へっへ、まァな。熱血バカは嫌いじゃないからよ」
「そうですよね、隊長は」
「命令を守っていたもう1人のいい子ちゃん含め、いい個性を持った奴らが入ってきたよ。楽しくなりそうだ」
心底楽しそうにアールはニヤリと笑う。
そうして、夜が更けていった。
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