#06
「散!」
突然、襲撃者の1人が大声を発した。次の瞬間、彼らは背を向け走り出した。
「逃すか!!」
ヨルダは追いかけようと走り出し--その右腕をがっちりと掴まれる。
剣呑な目つきで思わず見上げれば、アールの強面と目が合う。
「ハイハイ、そこまでだよォ。深追いは今の俺たちの仕事じゃないんでね」
「でも、このままじゃ、」
同じく腕を掴まれ、肩で息をするゼインが反駁する。
「警備兵には最初から連絡してある。やつらが無能じゃない限り、刺客供はお縄につくだろうよ」
大工仕事を終えたかのような緊張感のない声に、ヨルダは憮然とした。
「姫様を襲おうとした敵をみすみす見逃すんですか!? 俺達--僕達の仕事は、」
「んなこた言ってねーだろうが。俺たちは護衛兵。姫さまを守ることが第一だ。護衛対象を放り出してどうする、馬鹿野郎。目立ちてえだけなら他所へ行け。命令も聞けないやつはいらん」
急に強い口調で言われ、はっとヨルダの頭が冷えた。
アールはそのまま隊員たちに向き直ると、別人のような鋭い声で号令した。
「全護衛兵に命令!このまま分館に進み待機の者と合流!その後エリーゼ様を部屋まで送る」
「は!」
敬礼と共に、部隊は再び動き出す。
「ちっと頭冷やせ。後でこの件についてはゆっくり話してやる」
足に根が生えたように動かなかったヨルダは、肩をばしりと叩かれてようやく動き出した。
叩かれた肩をさすりながら、アールの言葉を何度も頭の中で反芻していた。
護衛兵の仕事。護衛兵の使命。
主人を守ること。害なすものの全てを倒すこと。
自分の手柄。全体の成果。
でも、あの男なら--兄者ならきっと、逃げる隙さえ与えずに打ち据えていた。
護衛任務の範囲内で、そつなく手柄を得ていたはずだ。
ギリ、と知らずに歯ぎしりが漏れた。
足りない。足りない。足りない。
力も、技量も、視野も、冷静さも。
遠く及ばない。
兄者を超える。兄者に認めさせる。
そのためには、こんなところでつまづくわけにはいかない。
移動している間、ヨルダの脳裏には、兄が舞うように刃を旋回させている姿が焼き付いていた。
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