#05

一閃。

アールが太刀を振り抜き、激しい金属音と共に先陣の襲撃者と剣先が交わる。次の瞬間二の太刀が閃き、別角度から突撃してきた刺客を迎え撃っていた。


2対1の状況。

アールと刺客たちの間で瞬く間に数本、凄まじいスピードの太刀筋が交わされ--

その一瞬の隙をつき、さらにもう1人の刺客がこちらへ切り込んできた。


刺客と視線が合う。相手の瞳に自分の姿が写っているのがみえる。

来る、来る、来る--

やってやる!


踏み込みと共に一の太刀を放つ。

放たれた銀色の軌跡は虚しく空を切るも--しゃがんで躱した相手に、反転させた刃を上から叩きつける。


激しい金属音。

ガードされたが、相手の力は弱い。このまま押し切れば、


剣を握る手首が引っ張られるような感覚。

相手が受ける剣を横にねじり引き、力を横に流していた。


まずい。


バランスが崩れる。ぐらりと身体が傾き、剣を握る手から力が抜ける。


同時、下腹部に刺客の蹴りが入った。


「ぐ……」


痛い。体重が乗った重い一撃だった。直撃は避けたものの、青あざになっているだろう。


「助ける!」


言葉と同時、真横から白い閃撃が走った。ガラ空きになった襲撃者の軸足を鮮やかに切りつけていく。

ぐらりと身体が傾いたその一瞬。


「せっ!」


裂帛の気合と共に、ヨルダは相手の剣の柄に刃を叩きつけた。


耳障りな金属音。手放された剣が夕陽を反射しながら宙を舞う。


襲撃者は舌打ちしながら跳躍し、後退。それを横目に、ヨルダは隣の恩人を確認する。

ヨルダの窮地を救ったのは同期の男だった。柔和な顔つきに、細身な体躯。しかし、今その目は燃えるような熱を帯びていた。


「ありがとう、ゼイン」


「いい。それよりーー」


ヨルダとゼインは周囲を見渡す。

他の衛士たちはエリーゼを護るよう周囲を固め、刺客たちを近づけないようにしていた。


王女は--エリーゼは。

果たして彼女は、陣の中心でルエラの肩を借りながら、怯えた様子でこちらを伺っていた。その顔色には血の気がない。彼女は何かを訴えるような目でこちらを見ていた。


守らなくては。


自分より年下の少女が震える姿を見て、ヨルダの中で枷が外れた。


前へ。


同時に刺客の1人が衛士の剣戟を躱しながら突っ込んできて--衝突。


気合いとともに、再び一の太刀を心の臓めがけて一閃。剣で防がれるも、そのまま剣先まで擦り上げ--交差が外れた瞬間、ヨルダの刃が半円を描いて刺客の手首に達した。


一拍遅れて吹き出す血。浅いが、入った!


後方から足音。

次の瞬間、ゼインの鋭い切り上げが刺客を襲った。刺客は舌打ちしながら交代するが、逃すわけにはいかない。剣の腕も、手数でもこちらが有利だ。このまま--


「おい、前線に出るな!」


隊長の声が耳にに届くが、それどころではない。

ヨルダの放った渾身の袈裟斬りが、ついに相手の胴体を捉えた。苦し紛れに剣で受けられたが態勢はその瞬間、完全にヨルダに有利になっていた。


押し切る。このまま押し切って、


ヨルダの腕に渾身の力がこめられる。


瞬間、ヨルダの視界から刺客の姿が消失。

刺客は一瞬の虚をついて懐に入んでいた。そのままヨルダの脇をすり抜けようと--。


次の瞬間、襲撃者の胴体に丸太のように太い足がめりこんだ。


肉を打つ重く湿った音。


悲鳴すら許されず、襲撃者は体を折り曲げて吹き飛び、側方の壁に叩きつけられた。


「はしゃぎ過ぎだ、馬鹿野郎共」


見やれば、アールが気だるそうに大剣を構えていた。遅れて、彼が回し蹴りを放ったのだお理解する。

なんという--馬鹿力か。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る