第2話

 消毒液のツンとした香りが少女の鼻孔をくすぐる。ゆっくり目を開いたかと思うと、急に上体を起こす。

 腰のあたりに手を回すと空を切る。

「あ、あれ?グロックは...ってここは?」

「起きたかノミ。ふー...ここは病室だ。お前はRPGの爆風で飛んできた石に当たって気絶した」

 病室であるにかかわらずタバコをふかし、眼鏡の奥に気怠げな目を覗かす藤見ふじみは少女を見やる。

「藤見さん...仕事はどうなったんですか?」

「今日は焼き肉だ。...明日も出来るぞ」

「やったぁ!あ、でも明日は魚がいいです」

「考えておこう」

 灰皿にタバコを押し付けると、重たそうに腰を上げる。すると勢いよく扉が開かれる。

「ノミ!死んだ?」

「勝手に殺さないで下さいよ吉井よしいさん」

「...ノミ、あとでレベリング手伝って」

「白ちゃん、今日は流石に休も、ねっ?」

 ポニーテールにまとめた茶髪にモデル体型の吉井、タンクトップにジーンズというラフな格好であるにも関わらず様になっている。

 もう一人は大きめのパーカーを着たショートの黒髪の少女、白銀。そのダボダボのパーカーと小柄な体型の所為か、一目では性別が判別しづらい。

「ヤッホー、ノミちゃん。元気?」

仲川なかがわさん。死ななかったんですね」

「いいよその蔑んだ目、最高だ!」

 仲川。ドM。その美麗なルックスとは裏腹に、その性格故か未だに彼女の一人もできたことがない。

「病室じゃあないが、静かにしろよ」

 医師のような人が部屋に入ってくるなり悪態を吐く。

「治ったんならさっさと出てきな。ここは病院じゃないんだ」

「すまんな」

「よーっし、今日は焼き肉だ!ちゃんと元を取るんだよ!」

「「イエスマム!!」」

「......タン!」

 仕切る吉井、はしゃぐ少女と仲川。静かに闘志を燃やす白銀。

「全く、これがあの有名な小隊だとは思えんな」

「世辞はいらんよ」

「皮肉だよ阿呆。不死身のF隊さんよ」

 元気に部屋を出る彼らの後ろを、大きなため息とともについていく藤見。

「おいノミ、前のとこだからな」

「わかりましたぁ!」

 ノミ——能見真央のうみまおは、こうして非日常となった日常を過ごしていく。


 戦争が日常となった非日常を....。

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