子どもの頃に迷子になった気持ちを思い出させてくれます。孤独と寂しさ、そして出口が見えない不安感が絶妙です。
読みやすい文章で語られる不思議な感覚の残る物語です。作中の少年のモノローグも、年齢相応の目線で臨場感があります。ネタバレになるので避けますが、少年が踏み込んだ世界の意味、少年の精神が見ている遠のく「彼」の意味は…など、きっと読み手がその奥にあるものへ思考を巡らす、そんな作品に思えます。
世界が自分の思っているようなものでなかったらどうしよう?このまま家に帰れなくなったらどうなるのだろう?そういった、子どもの時分ならではの恐怖感というものが見事に文章化された短編です。恐ろしい悪霊や化け物、詳細なグロテスク描写、そういったわかりやすいホラー表現を使わずに、恐怖、焦燥、そして絶望へと至る描写は、読んでいて胸が締め付けられるようでした。