第70話 とりあえず諦めの悪いの話
──ドォオン!!!
お互いの攻撃が爆発するように、周りに響き渡る。
あの二人が攻撃する度に、深く積もった雪が吹き飛ばされ、地面が見えるぐらい、穴が出来上がる。
荒々しい攻撃をするフェンリルに対し、クレナは静かに揺らめく炎の如く、受け流していく。
その遠くで、アイリスは見ていた。
「・・・神格同士の戦い」
一目見れば、かる光景だ。
なんせ、常識を覆しているのだから、クレナの紫炎が地面に落ちると、一気に燃え広がっているというに、雪は溶けず、ただ爛々と燃えている。
しかし、近くに炎に触れようとすれば、熱を感じる。
フェンリルの攻撃も桁外れだ、なんせ、あの炎を咆哮だけで、吹き飛ばし、大地を揺るがすほどに。
だからこそ、あの戦いに入ることはできず、何もできないアイリスは悔いた。
もう少し自分に力があればと、心の中で嘆く。
二人とも自分にとって、愛する存在なのだから。
「ヒャハハハハハ!!!おもしれえ!!現界も捨てたもんじゃないな!!」
「そりゃあ、どうも。だけど、貴方には、早く退場してもらいわねぇ。例え、ご主人様の魂が無くても、何分にも体を利用されているだけで、嫌悪してしまいますわ」
「んなこと、言うなや!もう少し戦いを楽しもうぜ!!アァン!!」
そう言って、鋭い指の爪で、攻撃すると思えば、クレナが防御をしようとすると、寸止めで、素早く体制を整え、横回転蹴りをする。
反応に遅れ、そのまま地面に吹き飛ばされる。
「クレナ・・・!」
遠くから、アイリスの声が聞こえる。
雪に埋もれたまま、クレナ腕だけを突き出して、親指を立てて、大丈夫と合図が見えた。
傍から見たら、直撃だし、心配してしまう。でも、今のクレナが大丈夫だと言っているなら、大丈夫なんだろう。
何故か、見た目が違えど、クレナなんだなって、安心できた。
「死ねえええええええええ!!」
そのまま、ジグザグに空(くう)を駆け抜け、雷の如くに襲い掛かる。
フェンリルの爪が、雪に大の字になっている、クレナの喉に向けて、突き立てようとした時、彼女の片方の蒼い目が、揺らめくように薄く光る。
瞳に移る対象を捉え。小さく、口を開き呟く。
「───蒼夜藝(あおやぎ)」
ッボ・・・ボボボォ!!!!
クレナにあと数センチに触れようとした時だった、フェンリルの腕の傷から、蒼い炎が漏れ出す。
その炎は連鎖的に、亀裂が走るように、腕から身体全体に駆け巡り燃え上がる。
「な、なんダァこれは!?熱い・・・熱いぞ!!アァン!!」
「散りなさい──蒼爆」
炎に悶える、フェンリルに対して、腕を突き上げ手を広げて、そのまま握りつぶすように拳を作る。
その瞬間、今度は連鎖爆発させ、長期的なダメージを与える。
「グ・・ガァアアアア!!クソガアアア!!」
ただ、爆炎に包まれた彼の体は見えず。
次第に猛々しい声は、爆発音でかき消され、聞こえなくなる。
そして、やがて音すら聞こえなくなる。
目の間には上がっているのは、雪の上で燃え続ける蒼炎と白煙。
「・・・すごい」
その力を間近でみた、アイリスは思わず声が漏れ出す。
しかし、クレナは冷たい目、悲しい目をしているのか分からず、ただただ傍観していた。
「終わったわね・・・さよなら、ご主人様」
そう言って、振り返って、アイリスの方を振り向こうとした時だった。
強大な殺気の”牙”が襲い掛かる。
とっさに振り向き、殺気を感じた方に、刃が振るう。
───ガキンッ!!
その鈍い音が、頭の中に響き渡る。
大地は揺れ、大気が震える。
目の前に、今でも捕食しようと、獰猛な目をしたフェンリル。そして”笑っている”。
顔を見たとき、僅かに、足が後ろに下がってしまう。
その隙を、見逃さない。
そのまま、腹部向かって、鋭い蹴りが、突き刺さるように食らう。
「ゲフッ・・・!?」
そのまま、数十メートル程、吹き飛ばされる。
視界が、世界が回っている。
地面が見えたとき、腕の刃で突きつけ、ガリガリガリと音を鳴らし、視界が安定する。
息がしづらい、呼吸が乱れる。
態勢を立て直そうとし、深呼吸をしようと、上を見上げると、そこには拳を振り上げた、”狼”がいた。
「・・・ッ!!」
「クハハハハハ!!!!いいぞ!!もっともっとだああ!アァン!?」
狼は加速していく。
神格したクレナでも、ギリギリ見切れるかどうか。
クレナは後ろに、後ろに飛ぶと、狼の拳は地面にぶつかる。
そのまま、地面がひび割れ、地殻変動が起こる。
パラパラと砂と岩が宙に舞う。
しかし、避けることすら許されず、そのまま上に向かって蹴り上げる。
「カ・・ハッ・・・!」
「クハハハハ・・・この俺様に傷をつけたことを後悔するがいい!!【クレイプニール( 貪り食うもの)】!!」
宙に舞うクレナに、歪んだ空間から、白く輝く無数の細い紐が手足を縛り、拘束する。
自分の炎で燃やそうとしても、燃えない。
力ずくで引きちぎろうとしても、びくともしなかった。
「無駄だァ!その紐はオレ様でさえ、引きちぎることができなかったからな!!神格になりたての奴が、ほどけるわけがねえだろうが!アァン!!」
「・・・くぅ!油断した・・・」
クレナは抜け出そうとしているが、体が揺れることさ許されなかった。
そうしていると、フェンリルの腕を上げると、クレナの真上に細長い石の棒が出てくる。
「まず、その腕が厄介だ。まずそっちを封じさせてもらう」
そう言って、腕を振り下ろすと、手に突き刺さり、そのまま地面に向かって落ちていき、突き刺さる。
「く・・ああああああ!?」
「フハハハハハ・・・・!クール顔に飽きたところなんだ!いいぞ、もっと叫べ!!」
クレナは打ち付けられてすぐわかった。
この杭は、神格の力を封じる力があるということに、次第に手の感覚がなくなっていく。
そして、次は足に打ち付けられる。
「く・・・あぁ・・・ぐ・・・」
「ッハ、まだそんな顔ができるのか・・・!いいねえ、そういうやつの、顔を屠り喰らい絶望する顔を見てみたいだよ!アァン!」
「うっさいわね。この駄犬め、吠えることしかできない・・・くああっ!?」
「言葉を間違えるなよ、神格風情」
そう言って、右太もも、左腕に杭が撃ち込まれる。
先ほどまで、煌めいていた、紫炎の輝きが弱くなっていくのが分かる。
「いいか、オレ様は神格でも、腐っても最高神を喰らった事もあるんだ。ただの神のなりそこないが、敵うわけがないだろう?最初から、目に見えてたんだよ。アァン?」
「・・・」
しかし、クレナの力強い目は、フェンリルを見つめる。
フェンリルは、その目を見てなぜだか、少しだけ穏やかになる。
「このオレ様に、勝負を挑もうとする、その勇気は賞賛するぜ。じゃあな、神格風情」
腕を振り下ろそうとしたとき、足元に違和感があった。
フェンリルは、地面を見ると、自分の足に小さな手があった。
後ろを振り向けば、銀色に輝くかみの毛の少女がしがみついていた。
彼女の足からは、這いずりの後があった。
「ダメ・・・ヨウイチ・・・」
「オレ様は、あのような弱気者じゃない」
「ヨウイチは・・・弱くなんかない・・・誰よりも、強い。ううん・・・弱さを知っているから、誰よりも強い・・・」
フェンリルはため息をして、めんどくさそうに、頭を掻く。
そのまま、軽く手を振り下げると、アイリスの右足に杭が撃ち込まれる。
「アイリス・・・!」
クレナは、必死に立ち上がろうとしても、杭によって、動けない。
しかし、アイリスは依然と変わらない顔、それどころか、叫びもしなかった。
「ヨウイチ・・・聞こえているんでしょ?私が知っている、ヨウイチは絶対にあきらめない・・・身が焦げようとも、魂が砕けても、その想像する凌駕する。貴方・・・はここで死ぬはずがない」
「無駄だといっているだろ。アァン?」
そう言って、また一本突き刺さる。
しかし、それどころか、穏やかな顔になっていく。
その顔を見ていると、徐々に腹が立ってくる。
「ヨウイチ・・・大丈夫。私は信じてる、だって・・・貴方は私を救い出してくれた・・・英雄なんだから」
そう言って、笑顔で言う。
「もうよい、終わりだ」
「待って!ダメ!」
クレナは叫ぶ。
しかし、その手は無慈悲に振り下げられた。
───ギィン
そんな音が、聞こえた。
「ほらね・・・」
アイリスはそうつぶやいた。
心臓に向けて、放たれた杭は、大きく逸れて、脇腹を掠める。
フェンリルの振り下げた腕は震えている。
「な、なんだ・・体がうごか・・・うるせえ!俺の体に勝手に何しやがってる・・・!」
「ご主人様・・・!」
そう言って、その場で膝から崩れ落ち、腕を抑える。
「いいか、いぬっころ!・・・この勝負、俺の勝ちだああああああ!」
そう言って、黒杉から、天に向かって、黒いオーラが柱となって伸びていく。
初級技能者の執行者~クラスメイトの皆はチート職業だが、俺は初期スキルのみで世界を救う!~ 出無川 でむこ @usadayon1124
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