ゆめ

白野廉

ある日見たゆめ


目を開けると1人でした。どこか遠くから、何か重いものを吊るしてゆっくりと揺れているような、ぎぃ、ぎぃ、ずっと、ぎぃ、ぎぃ、と。その場に立ちつくしたまま、ふと、「あ、ここが本丸か」と思い立ちました。本丸、とよばれるほど立派な日本家屋は写真でしか見たことがありませんでしたが、木目から襖から、ある程度使い込まれた、人の住んでいた月日と名残を感じました。ぐるり、見回すあいだにも、ぎぃ、ぎぃ。ずっと、一定のリズムで、ぎぃ、ぎぃ、と。立っていたのは廊下でした。真っ暗な筈なのに周りがよく見えました。ホコリや蜘蛛の巣は無かったようにおもいます。

取り敢えず音の発信源へ行こうと近くにあった襖を開けてみました。左肩から首にかけて、抉られてもっていかれたように感じました。いまでも違和感がのこっています。

気がついたらどこかの部屋の中央に立っていました。1回死んだなあ、という思考が頭の中に残りました。部屋は少し広めの和室程度で、目の前は壁、右手側が障子で左手側が襖、後ろに押し入れがありました。障子の向こうは外に繋がってる。押し入れを開けました。何もありませんでした。なんとなく外に出たくなくて襖を開けました。トン、背後で押し入れのふすまが閉まった音がしました。気にせず廊下へ出ました。ぎぃ、ぎぃ。音が最初の廊下より近くから聞こえてくるような気がして、廊下を進もうとしました。背中に何か細長くて硬いものを突きつけられました。心臓の上あたりだとおもいます。ぐ、と当てられる何かをどかそうと思って、振り返りました。

気がついたら、目の前に障子がありました。外に面した廊下に立っていました。また死んだみたいだ、と首を傾げました。ぎぃ、ぎぃ。音は目の前の部屋から聞こえました。ぎぃ、ぎぃ、ゆっくりと一定の遅さで、ずっと。外はだめだから、障子を開けました。さっきの部屋より少し広めの和室でした。座卓と座布団、戸棚とかがありましたが、物があるようには感じられませんでした。ペンの1本、紙切れ1枚も無かったようにおもいます。木の梁に縄が括ってあります。輪っかがつくられた縄です。音と一緒のリズムでゆっくりと揺れています。ぎぃ、ぎぃ。下ろしてあげなくちゃなので、部屋に入りました。1歩。ぎぃ。2歩。ぎ。3歩、腕を上げようと思って、視点が高いことに気がついて、開けっ放しだった障子が閉まってました。ぎぃ、ぎぃ、ゆっくりと音と一緒に揺れています。


おわりです。


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ゆめ 白野廉 @shiranovel

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