第2話 始まり
暇な中隊での日々を過ごしているとこの時間を何とかして
有意義なものにしようと思い始める。つまり、趣味だ。
自衛隊の趣味のナンバー1は間違いなくパチンコであろう。
若い隊員は駐屯地内に住んでいるが休日が来ると外出しなければならない。
それは残留という制度が関係する。
残留というのはもし災害や有事の際に土日なので行けませんでしたでは話にならない。だから土日でも駐屯地内には最低限の人員は待機していなければならない。
それが残留である。
休みなのに外出しないで駐屯地の中にいるとその残留組からの苦情が来る。
外に出ないなら残留変わってくれよと。
結果どうなるか。
土日の居場所がなくなる。日曜日のお父さん状態になるのである。
居室にいたいけど残留いるし、仕方がないから外に出る。
けどいくとこないしどこ行って時間を潰そうか?
田舎で夜まで時間を潰すところなんて限られている。
パチンコかネット喫茶のどちらかだ。
こうして大量の自衛官パチンコ難民が生まれるのだ。
では金剛はどうなのかというと、この男とことんケチなのだ。
金はとことん使わない主義であり体育会系でありながら後輩にはほとんど
奢らないという珍しいタイプだった。
公務員やるなら人付き合いなんてあまり必要ないのである。
むしろ交際費で金が飛ぶなら最小限の友人で抑えるべきだというのが金剛の
持論だった。
貯金の額の通帳を見ながらにんまりするタイプの人間なのだ。
パチンコなんて絶対しなかった。
金剛の趣味は戦史を読み漁ることだった。
様々な戦史を読み漁り時には動画を見たりして勉強したりしていた。
カエサル、スキピオとハンニバル、アレクサンダー大王、サラディン
ナポレオンなどの将軍の逸話や戦争の話が好きだった。そして憧れた
第二次世界大戦を読んだり見たりする時などはまるで自分が司令官になっているかのようにああすれば日本は勝てていたなどと夢想していた。
そんな訳で金剛は戦史に異常な程詳しかった。
しかし、それが自衛官として生かされる事はほとんどなかった。
自衛官の階級には士、曹、尉、佐、将とあり金剛は3等陸曹である。
こういった知識が必要なのは幹部と呼ばれる尉官以上であり、陸曹、陸士はそんな知識はない。そして自衛官の階級はその陸曹陸士が八割なのである。
例えこの知識を陸曹、陸士に話したとしてもそうなんですねで終わってしまう。
それどころかうざがられてしまう。
それが金剛の現状の不満の一因だった。
「戦争のある世界に行きたい」
自衛官にあるまじきことだが金剛はそう思っていた。
自分の存在意義を見失ってしまっていたのである。
ある時いつものように金剛が古本屋でいつものように戦争の本を探していると一冊の本を見つけた。
その本は黒に金の装飾が施されており、百科事典のような分厚さがあった。
中を見てみると古ぼけて黄ばみがかった紙に見慣れない文字と所々に挿絵のようなものが描かれていた。
金剛が興味を持ったのは挿絵である。字は全く分からなかったが所々に描かれていたのは明らかに地形と軍勢が描かれたものであり、結果が絵で描かれていたため
どうやって勝ったのかも何となくだが理解することができた。
抽象的に描かれた戦士などの絵もあり、多少違いはあるものの世界地図のような
挿絵も確認できた。
自分の知らない戦いが多く書かれたこの本を何としても読みたいと金剛は胸躍った。文字は分からなかったがそんなことは問題ではない今はパソコンで翻訳はなんとかなるだろうと思った。
「爺さん、この本どこでみつけたんだ?」
「ワシもよく分からん、蔵の中にあったもんだ。」
「蔵の中って、明らかに日本語じゃないぞ?」
「ワシの爺さんが世界を飛び回っててな、多分どこかで買って蔵に置いたんだろ」
「そうか、でいくらなんだ?」
古本屋の主がピクっと眉を上げる
「一万円」
「高い、こんなもん五千円くらいなもんだろ?」
ケチな金剛にとって値段は死活問題だった。
「安い、骨董品としては価値があるかもしれん」
「嘘つけ本当は誰も買ってくれなくて困ってたんだろう?本の上の方に埃かぶって
たぞ」
金剛はさらに追い打ちをかける
「どうせ誰も買わねぇよ、こんな本。だって読めねぇんだもん。あと4千円で売ってくれなきゃもうこの店こねぇかんな?」
「まてまて、さっきより安くなっとるじゃないか!五千円なら売る」
こうして金剛はその奇妙な本を購入した。
駐屯地に帰りさっそくその本の文字を解読しようと試みたがどれだけ探しても
全く本に書かれた文字と同じ文字は見つけることができなかった。
挿絵も確認した。
「これは多分女王だな、王冠と側近みたいなのがひざまずいている。中世のヨーロッパか何かかな?」
「よく見ると挿絵の一部分だけカタカナっぽい名前で書かれている。ア・・ン・・リ・・・・?」
「これは・・・剣を持っている老人がいるが服装が明らかに軍人じゃないなぁ・・・けど多分身分の高い人物だ後ろに多くの人間が控えている」
消灯時間になり駐屯地内に消灯のラッパの音が響き渡った。
その日金剛は寝た。
そして、次の日金剛が目を覚ますと
そこは豪奢な装飾が施されたベッドであり、宮殿であり。
金剛自身は筋骨隆々の大男ではなく見目麗しい美少女になっていた。
金剛義雄の君主論 @minesimaX
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